Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

在外研究 半年経過

2015-09-30 19:07:35 | Weblog
ニューヨークでの在外研究、半年を経過した。あっという間の半年、と言いたいところだが(少しそういう気持ちもあるが)、むしろ長い半年だったという思いが強い。当初の抱負がどこまで実現したか、レビューしてみたい。そして、いま何を目指そうとしているのかも、少し・・・。

4月はアパート探しや生活のセットアップでばたばたした。どこにどういう店があるか定かでないまま、Googleを主な頼りに買物した。いまから思うと、もっと安い店が身近なところにあったりするわけだが、仕方ない。日本よりかなり高いコストをかけたマンハッタン生活が始まった。



6月には、ボルチモアで開かれた Marketing Science Conference に参加。阿部誠先生、新保直樹さんと進めてきた、Twitterにおけるインフルエンサーを発見する研究を発表した。長く議論されている、インフルエンサーの有無やその波及効果に関する論叢に一石を投じたつもりである。

こうした研究は、いわゆる seeding 戦略(少数のターゲットを起点に全体を動かす)の有効性を主張することになる。実際、どのような戦略が効果的なのかが次の研究課題になるが、すでに多くの研究が発表されている。11月の Complexity in Business での発表後、速やかに論文にしていきたい。

7月に入ると、サンノゼで ICServ とFrontiers in Service という、いずれもサービス科学の学会が開かれた。そこでは戸谷圭子先生を代表とする RISTEX のプロジェクト研究を発表した。この研究は9月に最終報告書を提出、12月にコロンビア大学で開かれる BICT2015 でも拡張版を発表の予定。

この研究では、さる金融サービスの顧客・従業員調査、粗利益データを使って、顧客資産モデルを構築した。さらに、顧客間取引データに基づき、顧客間で知覚サービス価値が伝播するシミュレーションを行い、標準的な計量モデルとエージェントベース・モデルのハイブリッドを目指している。

また、サンノゼの会議では、基調講演や企業見学を通じて eye-opening な話を聴けたことの収穫が大きい。いま具体的にどうの、ということにはならないにしても、サービスイノベーションがもたらす価値創造の研究に、複雑系の視座が持つ可能性を強く感じた。今後考えを深めていきたい。

7月後半に一時帰国し、上で述べた以外の様々なプロジェクトについても、共同研究者の方々と打ち合わせた。仕事のほとんどが日本基盤であるのは致し方ないこと。それらの多くが、今年度いっぱいまでかかる見込みだ。ありがたいことは、それらに全力投球できる時間を与えられていることだ。

一時帰国時には、黒田博樹投手の勇姿を神宮球場で拝むことができた。その後のカープの動向は残念だが(いや、まだ今季は終わっていない!)、念願であったプロ野球研究の出版準備が着々と進んでいることは喜ばしい。残り数ヶ月、他の仕事とともに、その執筆に全力投球しなくてはならない。

せっかくの在外研究の期間を通じて、新たに着手したい研究テーマもある。自分なりの問題意識に導かれて調べていくと、すでに先行研究があることがわかる。自分が気づいたことで、他の誰も気づいていないことなどないことが痛感される。考えを深めるほどに、いろいろな問題が現れてくる。

救いは、まだ時間があること。これからニューヨークは厳しい冬を迎えるが、研究引きこもり生活には好ましい環境だ。