Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

念じれば動くロボット

2009-03-31 22:21:01 | Weblog
ほぉーと思ったニュース:

念じればロボット動く ホンダなどが技術開発

詳しい情報は以下:

Honda、ATR、島津製作所が共同で、考えるだけでロボットを制御するBMI技術を開発

これまでにない小型のEEG(Electroencephalography)とNIRS(Near-Infrared Spectroscopy)を用いて脳波と脳血流を同時に測定,それらを分析して,ユーザがいだいたイメージに従ってロボットを制御するという。fMRI (functional Magnetic Resonance Imaging)に比べ,いろいろな場所で使えるメリットが強調されている。

であれば,それを消費者研究にも使いたい,ということになるが,さて?
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日本を元気にする会社

2009-03-31 16:33:34 | Weblog
先週,お会いした方から2冊の本をいただいた。いずれも,お世辞抜きに,なかなか面白い本だ。この経済危機のなか,元気な企業の息吹が伝わってくる。それが,今後日本経済を,現場から元気づけていくにちがいない。

まず,構造計画研究所の木村さんからいただいた『あなたにもミエル化?』では,工学を用いて,様々な分野でイノベーションを起こそうと奮闘している同社の社員たちの姿が紹介されている。冒頭に,ロボットコンテストに出場した社員たちの話が出てくるが,こうした,いい意味でのナードたちが,この会社の資産なのだ。

読み進むと,エージェント・シミュレーション,脳科学,リコメンデーションなど,ぼくにとっても興味のあるテーマが出てくる。よく存じ上げている方々も登場する。併行して,チャンス発見の大澤先生と渋滞学の西成先生の対談が挿入され,新しい学問分野の創設にまつわる,オモテとウラの話を楽しむことができる。

あなたにもミエル化?―世間のなりたちを工学の視点から
喜多 充成
幻冬舎メディアコンサルティング

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もう一冊は,おそらく5年ぶりだろうか,久しぶりにお会いした,博報堂ブランドコンサルティングの首藤社長にいただいた『ぶれない経営』。首藤さんが「独自の輝きを放つ日本発のブランドを育てた企業の経営者八名」に取材してまとめたもので,以下の社長(院長)たちが登場する。

吉田カバン: 吉田輝幸氏
ジャパネットたかた: 高田明氏
星野リゾート: 星野佳路氏
フランフラン: 高島郁夫氏
亀田メディカルセンター: 亀田信介氏
一休・com: 森正文氏
ビームス: 設楽洋氏
レストランひらまつ: 平松宏之氏

全員が創業者か,創業者の跡を継いだ事実上の創業者である。だからみんな,ベンチャー企業といってもよい。もうひとつ興味深いのは,いずれも「サービス業」とみなしてもよい企業だということだ。吉田カバンは例外に見えるが,実は自社工場を持たず,職人と個別契約していることを,本書で吉田社長が語っている。

したがって,これからの日本発ブランドとして期待できる企業は,何らかの意味でサービス・イノベーション企業なのだと考えられる。逆にいえば,サービス・イノベーションを志向する企業は,強いブランドを確立しなくてはならない。つまり,創業者を超えて企業理念を持続させる仕組みを作れるかどうかということだ。

ぶれない経営―ブランドを育てた8人のトップが語る
首藤 明敏
ダイヤモンド社

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ぼくもまた,春の訪れとともに,もっと元気にならなくてはならない。とりあえず,新学期から始まる講義の準備に着手する。
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熱血指導とパワハラの間

2009-03-30 23:05:57 | Weblog
ある偶然で目にした2月20日の記事:

アカハラ・セクハラで准教授4人を解雇 北海道教育大

アカハラとセクハラで同じ教員が解雇されたのではなく,それぞれ別のケースである。ここでは,アカハラのケースについてだけ記事を引用すると・・・
3人は旭川校の英語教育専攻の自主ゼミで、アイヌ語や韓国語などいろいろな言語を共同研究テーマにし、学生に課題やノルマを与えていた。連日徹夜をしたり、1カ月以上にわたって深夜・早朝の研究を強いられたりした学生もいた。
大学の人権委員会が学生約100人に調査したところ、9人が体調不良を訴え、2人が不登校に陥ったことが確認された。3人の准教授は「あくまで自主的なゼミでの指導で、監督責任はない」と反発しているという。
「連日徹夜をしたり、1カ月以上にわたって深夜・早朝の研究」することは,それだけ勉学に没頭していたというのであれば,悪いことのようには思えない。そういう経験がいまの自分を作っていると考える人は少なくないはず。この教員たちもそういう思いから,学生に昼夜を問わぬ研究を強いることになったが,学生たちの受け取り方はまったく違った,ということなんだろうか。

だが「解雇」という最も重い処分を大学が下していることから,この記事では十分伝えられていない,もっと大きな問題があったと想像することもできる。自主ゼミとは名ばかりで,課題をこなさないと卒業できないといった,「隠れた」強制があったのかもしれない。当事者間で見解が対立しているようだし,詳しい事実関係がわからないので,これ以上何もいえないが。

だからあくまで一般論だが,熱血指導とアカハラの境界はきわめて不透明であり,無自覚に超えてしまうおそれは大いにある。そうしたリスクを避けるために,学生をあまり叱咤激励しない教師が増えていくかもしれない。それは野球でいえば,星野監督よりも原監督のスタイルに近いように思える。もちろん,相手がイチローであれば,指導なんて必要ないわけだが。
 
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サービス業はグローバル化できるのか

2009-03-29 14:28:34 | Weblog
先日,「サービス業にとってグローバル化の意味」について書いたが,検索してみると,日経ビジネスオンラインに,以下のような記事があることがわかった:

なぜサービス業の海外展開は進まないのか

これは「“世界に売りたい”日本のニュー・サービス」と題する連載の一部で,野村総研のコンサルタントたちが分担執筆している。この記事ではまず「サービス業の海外展開は進まない」事実が確認される。興味深いのは,海外進出しているかどうかによる生産性格差が,製造業よりサービス業においてより大きいという研究結果があることだ(通商白書2007を参照のこと)。

日本のサービス業が製造業に比べて海外進出しない理由として,この記事は

(1) 規制で守られた国内市場で十分な事業展開が可能
(2)「暗黙知」による企業経営
(3) 海外展開ノウハウの欠如

という理由を挙げる。いずれもその通りだが,ぼくはここに「サービスには規模の経済性が働かないという思い込み」を追加したい。グローバル化したサービス企業は,何らかの形で「規模の経済性」を確立しており,だから海外進出していない企業より生産性が高いと考えられる。費用構造を所与とするのでなく,それを変えてしまう意思を持つかどうかがカギとなる。

ではどうすればいいのか。この連載では,上述の記事に先立って,ワタベウェディング,ベネッセ,KUMON,セコムといった日本のサービス企業における海外進出の事例が取り上げられている。それらの分析を踏まえて,この記事では,以下のような海外進出の5つの段階にそった戦略指針が提案されている:

(1) 事前検討段階 ~市場を細かく見て本当に進出すべきターゲットを精査すること~
(2) 海外展開妥当性検討段階 ~現地国に合わせた進出形態の選択がカギ~
(3) 海外進出段階 ~真に信頼できるパートナーを確保すること~
(4) 現地化段階 ~理念を徹底的に共有すること~
(5) 発展・グローバル競争段階 ~全世界レベルで学習する組織を構築すること~

この枠組みは,リッツ・カールトンの事例にもほぼ合致しているように思える。もしかすると,ぼくが知らなかっただけで,これは国際経営論ではよく知られた議論なのかもしれない。欲をいえば,グローバル化を図って失敗した事例がこの枠組みで説明されると,より説得力が増すだろう。もちろん,失敗した事例の取材は,企業の協力が得にくいので容易ではないわけだが。

ぼくにとって興味深いのは,(1) の顧客のターゲティングを行なう段階である。この記事では,進出先の「面」(都市部から非都市部まで)と「層」(富裕層から低所得層まで)を軸にした,焦点を絞ったターゲティングを提案している。それを国を超えて連結させることができれば,ある次元で規模の経済性を享受できる。これは特にサービス業に適した戦略だと思われる。

いずれにしろ,グローバル化がサービス・イノベーションにとって重要だという考え方はすでに存在し,役所やシンクタンクではその線に沿った研究が進んでいるように思われる。だから,門外漢があれこれ口を出すような話ではない。ぼくとしては,より普遍的な研究テーマとして,より精細な顧客の理解とターゲティングについて考えていけばよい,ということだ。
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卒業式

2009-03-26 22:59:12 | Weblog
今日は卒業式。数十人の学生たちに学位記を渡す。女子学生はみんな袴や和服で盛装している。男子は背広姿。多くの学生が興奮している様子。4月1日からは厳しい世界が待っているぞ ・・・なんてのは単なる脅しで,これからの人生,何だかんだあるにせよ,総じて楽しいはずだ。卒業おめでとう。若さがちっとうらやましいぜ。頑張れ。

今週になってようやく研究室が「ほぼ」片付いた。科研費間接経費で什器を購入できたので,かなりの本が収まるべくところに収まった(全部じゃないが・・・)。新しい机に MacPro を設置した(学内LAN への接続は申請中・・・)。たまりたまった名刺を何年かぶりに整理。ここ4~5年の人間関係に思いを致す(ただし思い出せない方も多数・・・)。
 
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サービス業にとってグローバル化の意味

2009-03-25 22:57:21 | Weblog
サービス・イノベーションが生産性の飛躍的な向上を目指すものだとしたら,そのメルクマールは,ビジネスとしてグローバル化できるかどうかではないか ・・・とサービスの研究者たちに問いかけても,あまりよい反応は返ってこない。それに答えてくれる場合があったとしても,日本人の語学力が劣るとか,欧米と文化が違うとかいった理由で説明されがちだ。その答えが間違いだとはいわないが,それだけではないように思う。

1つの例がホテル業だ。一時期,世界の主要都市に日本の有名ホテルが進出していたが,その後多くが撤退した。他方,外資系ホテルは次々と日本に進出している。ホテルは欧米文化に深く根ざしており,欧米企業に優位性があるという説明には説得力があるが,日本の高級ホテルも長い年月をかけて,現場のオペレーションやサービス品質で欧米に負けないレベルまで達したのではなかったのか。どこに違いがあるのだろうか?

先週,MBF でリッツ・カールトン日本支社長の高野登氏の講演を拝聴した。なぜ米国のホテルはグローバル化できて,日本のホテルにはできないのか,ぼくなりにわかったような気がした。リッツ・カールトンは傑出したホスピタリティを顧客に提供するだけでなく,それを持続可能・移転可能な形にする様々な工夫をしている。極論すれば,グローバル化するという明快な意図を持って行動したかどうかの差ではないだろうか。

手続きを標準化し,マニュアルを整備すればよいという話ではない。それは最低限なすべきことだが,卓越したサービスのためには,マニュアルには書かれていない,臨機応変の対応が必要となる。リッツ・カールトンが優れているのは,従業員が高いホスピタリティを発揮すべくつねに学習し続けるよう,制度として動機づける仕組みを作ったことではないか。だから,世界中で等しく高質なサービスを維持できるのだろう。

興味深いのは,リッツ・カールトンが最も重視するのは実は従業員とその家族で,その次は取引業者とその家族(その2つを内部顧客という),顧客(外部顧客)は3番目にくる,という話だ。顧客満足のためには従業員満足が必要だという主張は従来からあり,研究者の間にはそれに対する異論もあるが,この議論のポイントは,人間をどういう存在として見るかだ。それは研究,実務のいずれにも重要な含意を持っている。

人間はできれば楽したい存在だ。少なくとも,もらった給料以上に働く気にはなれない。一方,自分の能力をできる限り発揮して,達成感を得たいとも思う。社会的インタラクションがあると,いっそううれしいと感じる。端的にいえば,相手を思いやり,それが相手に感動を与え,感謝されるとしたら幸福になる。人間にはその両面がある。個人の性格もあるが,組織風土やリーダーシップ次第で,どちらかの面が強く出る。

高野氏が語るリッツ・カールトンの哲学からは,他にも学ぶべき点が多い。具体例は下記の高野氏の近著で紹介されているが,要は,一般のホテルが顧客の顕在ニーズを満たすことに汲々としているのに対し,顧客が気づいていない潜在ニーズを探し当て,より広い範囲のニーズを獲得しようというわけだ。それこそ,サービス・イノベーションなわけで,そこを無視した科学とか工学とか称するアプローチには限界がある。

絆が生まれる瞬間
高野 登
かんき出版

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もうひとつ,印象に残ったのが,「トップ5%」を狙う,というターゲット論だ。それは単なる富裕層マーケティングではない。知性,センス,そして社会性においてもトップクラスであるような人々をターゲットとすることで,その下位にあるより広い層をカバーすることもできる。顧客に一種の階層性を仮定することになるが,注意しなくてはならないのは,カネや権力だけを基準にした階層とは微妙にズレていることだ。

いずれにしろ,最終的に問われているのは,人間をどう理解するかだと思う。顧客を統計的な規則性を持って空間内を移動するアトムとして捉えるとしたら,そのレベルのサービスしか生み出すことはできないだろう。しかし,顧客を一定の記憶と欲求と思考を持って時間のなかで生きる存在とみなし,いまここで何が彼らを喜ばせるかを考えることで,高水準のサービスが生まれてくる。それを考えない科学や工学は寂しい。

以下の雑誌の特集が示すように,現実のホテル業界は,日系,外資系を問わず厳しい状況にある。高野氏によれば,リッツ・カールトンでは,街の灯りが消えて夜がいっそう暗くなると,星の光がかえってよく見えるようになると捉えているという。つまり,いまこそ,本物の価値が問われる時代だと。何が本物として生き残るのか,これからのホテル業界の動向に注目したい ・・・今度,シャングリ・ラでも見学に行くかな?

週刊 ダイヤモンド 2009年 3/28号 [雑誌]

ダイヤモンド社

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Google+WPP の研究助成

2009-03-23 08:15:49 | Weblog
Google と WPP とが共同で,学術研究を支援するプログラムを運営していることを初めて知った。

Google and WPP Marketing Research Awards: Improving industry understanding and practices in online marketing

選ばれたプロジェクトは以下の通りだ:

• “Effect of Online Exposure on Offline Buying: How Online Exposure Aids or Hurts Offline Buying by Increasing the Impact of Offline Attributes”
• “The Interaction Between Digital Marketing Tactics and Sales Performance Online and Offline”
• “Are Brand Attitudes Contagious? Consumer Response to Organic Search Trends”
• “Does internet advertising help established brands or niche ("long tail") brands more?
• “Marketing on the Map: Visual Search and Consumer Decision Making”
• “Methods for multivariate metric analysis; identifying change drivers”
• “Unpuzzling the Synergy of Display and Search Advertising: Insights from Data Mining of Chinese Internet Users”
• “Optimal Allocation of Offline and Online Media Budget”
• “Targeting Ads to Match Individual Cognitive Styles: A Market Test”
• “How do consumers determine what is relevant? A psychometric and neuroscientific study of online search and advertising effectiveness”
• “A Comprehensive Model of the Effects of Brand-Generated and Consumer-Generated Communications on Brand Perceptions, Sales and Share”

Urban,Hoffman,Novak といった,インターネット・マーケティング研究の大御所の名前もある。オンラインとオフラインの関係を分析したテーマが多いという印象を受けるが,それは主催者が推奨するテーマが以下の3つであったからだろう。

Online and offline media interaction
Relevance and effectiveness measurement
Audience types and engagement

もはやオンラインだけ(ましてオフラインだけ)でマーケティングを語る時代は終わった,ということだろうか。
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アップル流経営の研究

2009-03-22 17:19:24 | Weblog
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー2009年4月号は「製品開発と事業モデルの再構築」を特集している。いくつかの論文では,事例としてアップルを取り上げており,いま,イノベーションの経営について語るとき,アップルを抜きには語れないということだ。これまで,アップルの成功についてはスティーブ・ジョブズ本人の貢献が強調されるばかりで,企業戦略や組織の特徴が詳しく分析されることはあまりなかったように思われる。その意味で,大変楽しみな特集となっている。

Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2009年 04月号 [雑誌]

ダイヤモンド社

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まず,クリステンセンも共著者に名を連ねる「ビジネスモデル・イノベーションの原則」という論文では冒頭で,ビジネスモデル・イノベーションの典型例として,iPod と iTunes ミュージックストアが取り上げられる。これこそ,「ハードウェア,ソフトウェア,サービスの三位一体という,これまでにないビジネスモデル」だと著者たちは述べる。さらに,過去において,このようなビジネスモデル・イノベーションは稀であるとも。彼らは自らのコンサル経験を踏まえて,その方法論を提案する。

その枠組みは,(1)顧客価値の提供 (Customer Value Proposition),(2)利益方程式 (Profit Formula),(3)カギとなるプロセス (Key Processes),(4)カギとなる資源 (Key Resources) ,という4要因からなる。トップに顧客価値の提供がくるのは,マーケターとして納得がいく。顧客価値に相応しい価格を設定したあと,適切な利益を得るためのコストの目標を立て,それを実行するプロセスと資源を設計するという流れだ。タタが開発した超低価格車ナノなどが事例に取り上げられる。

次いで「「第2のスティーブ・ジョブズ」の育て方」という論文(原題は Finding and Growing Breakthrough Innovators)。それが,アップルにとっていま最大の経営課題である,という指摘からこの論文は始まる。イノベータになるかどうかは個人の資質によるという前提に立って,この論文では人材を組織内でいかに発見するかを議論する。そのために,系統的な評価と選抜を行っている企業もあるという。うまくいっているのか,その検証結果を知りたい。

イノベーションを担う人材には,社内外への営業力も必要となる。基本的に組織は新しいことを嫌うから,それを打ち破る説得力,調整力,人間的魅力が必要だというのはその通りだろう。企業によっては,イノベータ候補生を一時的に営業の現場に出すという。日本企業では「丸い人間」にするため「現場に出す」などということがあるが,そうではなく,顧客の真の要求を見抜く力を試し,鍛えるためということだ。そもそも営業スタイル自体が,日米では大きく異なっているに違いない。

この2つの論文,いずれもアップルの話で始まるが,その後は他の企業の事例ばかりになる。その逆のパタンが「コラボレーションの原則」という論文だ。研究開発のコラボレーションを「開放型―閉鎖型」「階層型―フラット」の2軸で4分類している。 著者たちによれば,iPhone のアプリケーション開発では「開放型」で「フラット」なやり方が採用されたという。これは Linux と同じである。ただし,そこにはグーグルの携帯電話OS,Android もあり,今後脅威になると予想されている。

とまあ,ビジネスモデル・イノベーション,イノベータ育成,オープン・イノベーションといった面からアップルが事例に取り上げられている。それぞれイノベーション経営の最近のトレンドを学ぶうえで参考になる論文ではあるが,アップルという企業の戦略や組織について,何かはっきりした像が浮かんでくるわけではない。やはりそれはすべて,スティーブ・ジョブズの頭のなかにある,ということなのだろうか。ということになれば,結局は,以下のような「伝説」本を読むしかないわけである。

MACPOWER 2009 Vol.1

アスキー・メディアワークス

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ジョブズのあとにアップルを reinvent すること,それが実現すれば,歴史的なイノベーションといわれることは間違いない。
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チャンネルもリモコンもないテレビ

2009-03-21 23:27:24 | Weblog
CNET Japan の記事:

久夛良木健氏と麻倉怜士氏が描く、テレビの未来とは

における,SCE 名誉会長久夛良木健氏の発言をピックアップ:

「IPTVになれば、無数のコンテンツが世界中に存在することになる。電波の場合は周波数が有限のため、チャンネルという概念があったが、これからはチャンネルではなく、コンテンツを見るというエクスペリエンス(経験)の時代になる」

「今まではチャンネルのあるものがテレビだった。しかしこれからは、画面が付いているものはみんなテレビだということになる。どこでもドアのように、見たいものがすべてどこでも見られるようになる」

視聴者はテレビの前で,世界中の画像を集めた超巨大なレンタルビデオショップの前に立っていることになる。個々のコンテンツと視聴者を結びつけるものが「チャンネル」でないとして,それは何なのか。もう10年以上も議論されてきたことだが,いよいよ決着をつけるときがきたのだろうか。技術的には,それはエージェントとかフィルタリングの問題になるし,経営的には,放送通信やコンテンツ供給の新たなビジネスモデルに関する話になる。そこに法律や行政が絡んでくる。

この問題に最終的な審判を下すのは,やはり視聴者だろう。多チャンネル環境でも,ほとんどの視聴者は数少ないお気に入りのチャンネル,しかも地上波放送を見ていることが知られている。それは,リモコンというインターフェースが悪いせいなのか? もっと賢いエージェント機能を実装すれば,多様なコンテンツが選択されるのか? 過去の経験では,そういう主張を支持する材料はないように思えるが,イノベーションは実際に起きてみないと,受容されるかどうかわからない。

ハード側の今後の動向について,オーディオ・ビジュアル評論家の麻倉怜士氏が,テレビセットから「ケーブル」「ディスプレイのフレーム」「スピーカー」「リモコン」の4つがなくなると語る。最後の点,リモコンに代わるものが何かというと「ユーザーの動きや視線、脳波などをテレビが読み取って操作される」という。それはいわば以心伝心,あうんの呼吸の技術ということだが,習慣化された行動にではなく,無限に近い選択肢との出会いに対してどのように実現されるのか興味深い。

(独り言)無限の選択肢からの選択問題を,フィルタリング/リコメンデーションへの発展を含めて,解くことができるだろうか。あるいはむしろ,消費者間相互作用の問題か。ぶつぶつ・・・。
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麻生首相,人気上昇?

2009-03-20 23:42:44 | Weblog
朝の来ない夜はないというが,地に墜ちたかのように見えた麻生首相の人気が,最近になって上昇しているかのような兆候が見られる。まずは,

麻生首相、なぜか視聴率男 不人気が人気の秘密?

という記事。ニュース番組で麻生首相を取り上げると視聴率が上がるのは,「おバカタレント」と同じだというのが天野祐吉氏の見立てだ。だとすると,だんだん「カワイイ」と考える有権者が増えてきても不思議ではない。さらに,

麻生首相:著書「とてつもない日本」…なぜか売り上げ急増

この記事によれば,ネット上の麻生首相支持者による「祭り」によるとのこと。一方,

報道STATION世論調査 2009年3月調査

での内閣支持率の回復(先月13.7%→今月21.1%)は,潮目の変化を告げているかもしれない。原因はいうまでもなく,小沢一郎氏の第一秘書逮捕という「敵失」が大きいが,それ以外に,(一部の)有権者が麻生氏を嫌い続けることに飽きた,という気がしないでもない。漢字が読めないとか,すぐブレるとかいっても,そんなに悪いことではないだろう。定額給付金ももらえるわけだし,まあいいか,みたいな。

ただし,この調査で次期総理の候補として麻生氏を上回る支持率を得ているのが,舛添要一氏(7.6%)だ。メディアでよく名前が挙がる石原伸晃氏や小池百合子氏に比べても支持率が高い。対する民主党は,依然,小沢氏がトップ(6.5%)ではあるものの,岡田克也氏(4.3%)の支持率がそれに迫っている(両党とも,それぞれの鳩山氏は名前が出ておらず,「鳩山兄弟内閣」というぼくの「予想」は的外れだったかも)。

麻生氏の人気が多少回復したとしても,民主党の党首が岡田氏に代われば,自民党の党首も舛添氏に代わるかもしれない。どちらも漢字の読み間違いはしなさそうだし,政策論争に耐えられそうではある。しかし,お二人とも親しみに欠ける感じがあって,有権者の半分を占める女性の支持はどちらに向かうのだろう。もちろん,世論調査の通り,政治が動くわけではない。結局のところ,どうなるかわからない。
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選択モデルを教える困難

2009-03-19 23:48:14 | Weblog
ここ10年以上,実務家向けに「消費者選択モデル」を講義してきた(さまざまな手法に関する2日間のセミナーのうち,2時間の枠を担当した)。毎年のように講義内容の改訂を続けてきたが,なかなか満足いくレベルに到達しない。講義時間の制約もあるが,それよりももっと深い理由があるようにも思う。このまま続けても,自分も受講生も(あるいは他の講師も)幸福になれないと考え,いよいよ今回をもって「身を引く」ことにした。しばらく「充電」して,再起を図ることとしたい。

今回の講義のあと,この手法をもっと詳しく学べるセミナーや教科書はないかという質問をいただいた。米国では,AMA (American Marketing Association) や MIT など,いくつかの機関が実務家向けに選択モデルのセミナーを行っているし,完備した教科書もある(一般の実務家になじみやすいかどうかは別にして)。しかし,残念ながら日本に該当するものはないとお答えした。米国と日本で,これほど状況が違うのはなぜか。一つの重要な要因は,研究者の層の薄さにあると思う。

その違いは学会を比べれば明らかだ。INFORMS Marketing Science Conference では,選択モデルは(普及モデルと並んで)主役の座にあるが,日本マーケティング・サイエンス学会で選択モデルを用いた発表はごくわずかだ。しかも,その数は減る傾向にあるように思う。そうした少数の研究者にしても,自らの研究のため,より高度なモデルを構築することだけ目指していて,実務家への普及にはあまり関心がないようにみえる。学会も普及のための企画をする気配はない。

選択モデルの限界がいろいろ露呈していることは事実だが,そのことは米国でも同じはず。日本で選択モデルを用いる研究者が増えないのは,選択という考え方が日本のマーケターには合わないからではないか,と思うことさえある。消費者の選択とは裏返せば企業間の競争で,それを正面に据えた分析は好まれない,ということだ。それより,自らの品質の絶対水準をひたすらカイゼンによって高めていったほうがよいと。まあ,そういう面があるとしても,一般化できる話ではない。

そうではなく,日本のマーケティング研究者は,汎用統計パッケージに含まれていない手法は使わない(使えない?),という説明も可能である。だとしたら, EVIEW や STATA といった選択モデルに対応するパッケージが普及すれば問題は解決するはずだ。あるいは,R が使えるなら,以下の経営学/マーケティングのための統計学の教科書で,多項ロジット選択モデルに関する簡潔な記述とともに,R のコードを参照できる。ソフトがないことが理由なら,事態は変わりつつある。

経済・経営のための統計学 (有斐閣アルマ)
牧 厚志,和合 肇,西山 茂,人見 光太郎,吉川 肇子,吉田 栄介,濱岡 豊
有斐閣

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Rによるマーケティング・シミュレーション
朝野 煕彦
同友館

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もちろん,標準的な選択モデルだけでは,研究者と実務家のいずれのニーズにも十分対応できない。EVIEW や STATA のような計量経済学向け統計パッケージでは考慮されていない,対象者の異質性への対応(たとえば潜在クラスモデルへの拡張)があることが強く望まれる。また,個々人の選択集合を柔軟に扱えるだけでなく,そこに非補償型ルールを導入することまでできれば完璧だ(ただし,定番といえる手法が確立していないので,そこまで望むのは無理かもしれないが)。

選択モデルを実務で使ってもらうには,まだまだ足りないことがある。もしかすると,選択モデルには米国とは違った発展が必要なのかもしれない(それが最も重要な論点であるはずだが,いまはまだ,ぼくの頭のなかで整理がつかない)。しばらくは自分が必要だと思う研究と応用事例の蓄積を優先し,そう遠くない時期に,選択モデルの実務家向けセミナーをより本格的な形で開けないかと思う。それができないとしたら,それは選択モデルの可能性を見限ったときだろう。
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ガンバとハーレーダビッドソン

2009-03-18 23:25:41 | Weblog
脳神経科学の視点から見たブランドの効果について,博報堂が行なった研究成果の一端が発表された:

ブランドと生活者の関係形成に複数メカニズムがあることが判明

それによると「ガンバ大阪」のファンと「ハーレーダビッドソン」のオーナー各14名を対象に,ブランドに関連する画像を見せたときの脳反応を fMRI で測定する実験が行なわれた。そこで得られた結果は以下のように要約される:

1)両ブランドで,記憶(海馬)と意思決定(DLFPC)に関わる脳部位が活性化した
2)ガンバへの反応として特徴的なのは,嗜好に関わる部位(感覚野)が活性化したこと
3)ハーレー独自の反応は,イベント画像に対して前運動野(Brodmann Area 6)が活性化したことだ。この部位はミラーニューロンと呼ばれ,他者への共感を司っている。

ハーレーに乗るということは,個人的な好き嫌いより,あるコミュニティに属する悦びを享受するということなのかな? ハーレーのオーナーズミーティングは,経験マーケティングの成功例として知られており,この結果は納得がいくものだ。しかし,サッカーファンだって仲間への共感性が強そうなのに,なぜそういう反応がでなかったのだろう? みんなで一体となって応援しているように見えて,実はそうではないということか。

消費の意思決定における他者認知の影響はきわめて重要である。それを実証する材料としてハーレーダビッドソンを取り上げたのは慧眼だといえる。では,なぜもう一方の材料をガンバ大阪にしたのだろう?実験を関西で行ったからという理由なら,ファンの数がもっと多い阪神タイガースを対象にしてもよかったはずである。そうしなかったのは,阪神ファンの脳反応があまりに一般性を欠く,という判断があったからだろうか・・・。
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なぜ,あの人を好きになるのか

2009-03-17 22:56:00 | Weblog
人はなぜ,ある人を好きになるのだろうか。そのことによって人は幸せになることもあれば,むしろ悲しんだり苦しんだりすることもある。人が人を好きになるメカニズムが解明されれば,それを戦略的に制御できるようになるかもしれない。少なくとも,好きになることで苦しむような事態からは,逃れることができるのではと期待される。ぼくの最大の研究課題は選好形成。そこに恋愛を加えてもおかしくはない。

以下の本は,この1月に放映されたNHKスペシャル「女と男~最新科学が読み解く性~」取材班がまとめたもので,基本的に番組の内容を敷衍している。しかし,番組では取り上げられなかった内容もある。それは,好ましい異性を多くの候補者のなかからいかにして識別しているかという問題だ。当人には「ビビッときた」としかいえないことでも,実は脳が無意識のうちに系統的な識別をしているかもしれないのだ。

だから、男と女はすれ違う―最新科学が解き明かす「性」の謎
NHKスペシャル取材班,奥村 康一,水野 重理,高間 大介
ダイヤモンド社

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その1つの手段が「匂い」である。男性の汗でまみれたTシャツを女性にかがせて,好きな匂いを選ばせるという実験がある。実は体臭は当人の免疫型と対応している。実験の結果,女性は自分の免疫型と異なる匂いを好むことが示された。その後,この実験は世界各地で再試され,つねに同じ結果が得られたわけではない。最近の研究では,免疫型が離れすぎている場合も好まれないことがわかった。最適な距離があるということだ。

もちろん,人間は少しは知性を使って異性を選択する。脳科学的に恋愛を研究しているヘレン・フィッシャーは「ラブマップ」という概念を提唱している。それは「生まれた直後から現在に至るまでの間に,無意識に築き上げてきた嗜好や性格に関する膨大なリスト」で,10代でほぼ完成するという。そこに偶然,理想にかなう相手との出会いがあると「ビビッと」なるらしい。この概念,ぼくの研究のヒントになるかもしれない。

恋愛の研究は,対象を製品やサービスに変えることで,マーケティングに応用できるだろうか。進化人類学的には,異性の選択とは遺伝子を多く残すための戦略でしかないが,消費における選択を同じ論理で説明するのには大きな飛躍がある(無関係ではないが・・・)。だが,ラブマップのように,消費者の製品やサービスに対する選好の基本を,幼児期から長い時間をかけて形成されたものとして見ることは,非常に有用だと思う。

なお,上述の本には,これまで述べたこと以外にも,興味深い話題が満載されている。その1つが,先進国の男性における精子の不活発化,またY染色体の減少トレンドである。あまりに大きなタイムスケールの話だが,自然は人類を葬り去る方向で動いているのではないかと想像してしまう。いずれにしろ,この1冊のなかに,かくも多くの話題を織り込んでしまうとは,科学ジャーナリストの取材力と筆力はすごいものである。
 
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ナイーブベイズが Excel でできる?

2009-03-16 22:44:14 | Weblog
最近,ベイズ統計学関係の本が次々出版されている感があるが,ついに,非常に親しみやすい入門書が発売された。類書との違いは,「ナイーブベイズ」を中心に扱っていること。しかも,それが Excel で実行できるというだけでなく,Microsoft がアドインソフトを提供している点が驚きだ。Office2007 Excel があれば,ナイーブベイズが簡単に使える?しかもそれだけでなく,他のデータマイニング手法も?

ベイズな予測―ヒット率高める主観的確率論の話
宮谷 隆,岡嶋 裕史
リックテレコム

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そこで,この本のインストラクションにしたがって,まず Microsoft SQL Server 2005 Data mining Add-ins for Office systems なるものを無償インストールする。作業は順調に進むが,最後の最後になって,Microsoft SQL Server 2005 Enterprise Edition の評価版をインストールするかどうかなど,難しいことをいろいろ尋ねるウィザードが開く。よくわからないのでスキップし,「Microsoft SQL Server 2005 Analysis Server のデータマイニング機能を体験しましょう!」というページから登録する。

すると,何だかんだで,Excel のメニューバーに「データマイニング」というメニューが現れる。手持ちのデータに当てはめてみると,ちゃんと動いている模様。少しスピードが遅い気がするが,Excel としての操作の一貫性はあるし,なかなかいい感じだ。サポートされているデータマイニング手法は,以下の通り:

ナイーブベイズ
アソシエーション ルール
クラスタリング
シーケンスクラスタ
タイム シリーズ
デシジョン ツリー
ニューラルネットワーク
ロジスティック回帰
線形回帰

ほぼ完璧なメニューといえないだろうか。いやー,いつの間にこんなのができたのだ? 然るべき人々は,とっくの昔に知っていたのだろうか?

しかし,このお試し体験は今月末に期限が切れる。改めて登録すれば再び使えるようになるのか,それとも上述の Enterprise Edition を買わないと,それ以上使えないのか。後者だとすると,百うん十万を超す価格のようなので,とても手が出ない。それなら,一般のデータマイニング・ソフトをアカデミックプライスで買ったほうがはるかに安い(はず)。いずれにしろ,4月1日にその答えが出るはずだ(そのことを覚えていればの話だが・・・)。

もっとも,これらの手法をぼくがどこまで必要としているか,そこだよな。
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政策空間で政局は動くか

2009-03-15 23:55:28 | Weblog
日経ビジネスオンラインに次のような記事が掲載されている:

代表秘書の逮捕より深刻、民主党が抱えるある問題

日経ビジネスは今年1~2月,衆議院議員,上場企業の経営者,および日経ビジネスオンラインの読者を対象に,17の経済政策への支持度を調査した。その結果は,横軸を「民間競争重視―セーフティネット重視」,縦軸に「公共投資―官の無駄排除」とした2次元空間に集約される。議員たちは回答結果に応じて4つのクラスタにまとめられ,空間上に布置されている:

A「競争重視・成長派」 空間の左
B「修正市場派」 空間の右上
C「大きな政府派」 B党よりやや左上
D「安全網重視派」 空間の右下

政策の方向性によって形成されたクラスタと実際の党派とは必ずしも一致しない。特に自民党議員は複数のクラスタに分散しているのに,民主党議員の多くがクラスタDに属していることにこの記事は注目する。読者の政策への態度は,自民,民主両党の支持者とも,クラスタAの近くに位置づけられる。経営者についても同様だ。そこでこの記事は,民主党議員の多くの政策主張は,他のクラスタだけでなく「経営者や読者といった“民意”からも遠く離れている」と問題視している。

なかなか面白い。なぜ面白いかといえば,この種の「分析」をジャーナリストがどう行なうかの興味深い事例になっているからだ。メディアリテラシーのなかに,初歩的なデータ解析の知識も含まれる時代になってきたのだ。そして,この記事はデータ解析を教える際の恰好の教材にもなる。学生にこの記事を読ませ,こうした分析や解釈のどこが正しく,どこに問題があるかを議論させる。さらには,こうしたデータが与えられた場合,自分ならどういう分析をするかを考えさせるわけだ。

多くの学生が,日経ビジネスオンラインの読者や上場企業の経営者の態度だけを捉えて,今後の政局を占う話をするのは問題だと気づくだろう。この記事を書いた記者もそのへんはわかっていて,民意という単語にわざわざ引用符をつけているが,誤解されやすい書き方ではある。また,マーケティングを学んだ学生なら,自民党/民主党の支持者といっても一様ではなく,マップ上の1つの点に集約していいのか,と疑問を呈するだろう。有権者の意見の異質性を考えるべきだと。

自民党議員の多くは,小さな政府を支持するクラスタAと大きな政府を支持するクラスタB,C(空間上の位置は非常に近い)に分かれている。この記事の論理に従えば,後者もまた“民意”から離れていることになる。しかし,日経ビジネスオンラインは読んでいないが,政府の積極的な財政に期待する有権者がかなり存在することは,いまさらいうまでもない。現在の麻生内閣の党内基盤もそこにある。この調査の弱点は,有権者の限られたグループしかカバーしていない点にある。

そういう議論の前に,そもそもこうした政策空間はどのような手続きによって構成されたのか,政党や有権者の布置はどう定められたのか,それがわからないときちんとした議論はできないと,理工系あるいはデータ解析を学んだ学生なら指摘するだろう。残念ながら,この記事の本文には,手法としてクラスタ分析を用いたとしか書かれていない。いうまでもなく,このようなマップがクラスタ分析だけから描かれたとは思えないから,他の解析手法も併用されているに違いない。

この記事には,ある議員クラスタとある政策の空間上の距離が近ければ近いほど,その議員がその政策を支持する度合いが高くなるという記述があるので,何らかの理想点モデルが使われているのだろうか? それとも,「ふつうに」因子分析あたりをかけたのであろうか? 重箱の隅をつつくような話に聞こえるかもしれないが,そのあたりがはっきりしないと,マップを正確に解釈することはできない。日経ビジネス本誌を買えば,それについて詳しく書いてあるのかもしれないが・・・。

この記事の基本的主張である,民主党議員と“民意”の乖離,という論点に戻ろう。自民党についてそうであったように,政策空間上の位置に支持者がどれだけいるかが鍵になる。クラスタDの位置は,小さな政府とセーフティーネットの両方を追求するという,従来の「常識」にはない政策ミックスである。これを選挙目当ての「美辞麗句」と見るか,従来の路線対立を超えた「第3の道」と見るかで評価が分かれる。後者だとしても,民主党支持者がそのことを理解しているのかどうか。

つまり,こうした政策空間が政党支持をどれだけ説明できるのかが最終的な問題になる。外交や防衛など,経済政策以外の争点を政策空間に加えるべきかもしれない。だがそれ以上に重要なのは,個別の政策とは直結しない,感情に関わる要因をどう扱うかだろう。政治家個人への好き嫌い,政党への長年に及ぶ信頼感やそれが失われたことへの反発,欧米的な政治状況を望む心理など,さまざまな非政策的要因をどう測定し,モデル化するか,先行研究を調べる必要がある。

日経ビジネスオンラインのこの記事は,上述のように分析手続きや解釈に不明な点や不審な点を残すが,政策空間上での政党選択という視点を一般向けメディアに導入したという点で,非常に意義深いといえる。こうしたアプローチが妥当であることが証明されれば,その延長線上に,より現実的な「意見動学」モデルの可能性が開けてくる。そして今年は,そうした研究にとって興味深い事例が観察されるだろう。政策空間など全く関係ない,という悲しい結果にならなければよいが。
 
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