Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

2024年、年初に当たり

2024-01-03 14:22:41 | Weblog
2024年は元日に能登半島で大きな地震が起き、2日には羽田空港で航空機が着陸時に炎上する事故が起きた。気が重い年明けとなったが、約2年間放置してきたブログを更新することにした。この2年間について振り返り、ついでにこれから取り組むべきことについて書いてみる。

2022年

まず書籍の出版から。2014年に出版した、自分なりのマーケティングの教科書を大幅に改訂した。これについては、電子書籍も刊行された。次に改訂・再版する機会が訪れるかどうかわからないが、進化には終わりはないはずなので、できればこれを最終形にはしたくないと思う。

水野誠『マーケティングは進化する(改訂第2版)―クリエイティブなMarket+ingの発想』同文舘出版
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論文については、2022年の後半に、以下の2点がジャーナルに掲載された。最初の論文は、石原昌和さん、Minjung Kwonさんとの共同研究で、日本のビール市場における期間限定ブランド導入と傘ブランド戦略の効果を、離散-連続選択モデルによって分析したもの。

Masakazu Ishihara, Minjung Kwon, and Makoto Mizuno (2023), An Empirical Study of Scarcity Marketing Strategies: Limited-time products with umbrella branding in the beer market, Journal of the Academy of Marketing Science. 51(6), 1327–1350.
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2番目の論文は、中野暁さん、赤松直樹さんとの共同研究で、COVID-19の発生が引き起こした買いだめ行動を分析した。心理特性やデモグラフィクスによる違いを潜在クラス分析で探求した。光栄にも、翌年の日本商業学会全国研究大会で IJMD 優秀論文賞を受賞した。

Satoshi Nakano, Naoki Akamatsu, and Makoto Mizuno (2022), Consumer Panic Buying: Understanding the Behavioral and Psychological Aspects, International Journal of Marketing & Distribution, 5(2), 17–35.
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2023年

昨年はコロナ禍以降初めて、海外で研究発表を行った。その1つが、吉田秀雄記念事業財団の研究助成を受けた、社会学者の瀧川裕貴さんと行った共同研究だ。Twitter 上の投稿が、自身の社会経済的地位(あるいは社会階層)のシグナリングになっているかを分析している。

Makoto Mizuno, Hiroki Takikawa (2023), Do People Signal Their Socioeconomic Status on Social Media?—An Analysis of “Conspicuous Tweeting” by Machine Learning, 9th International Conference on Computational Social Science (IC2S2)

この研究は、国内の学会や研究会でも度々発表してきた。まだ掘り下げる余地があると思う反面、成果を早めに投稿したほうがよいと思う。ただし、社会学や経済学の境界領域に属するテーマだけに、広範な文献レビューと独自の深い考察が欠かせない。チャレンジングである。

論文の投稿、掲載に至ったのは1つだけ。阿部誠さん、新保直樹さんとの共著論文で、Twitterの実データを用いて、費用対効果が大きいインフルエンサー・マーケティング戦略を探求している。研究に着手してから約10年、ようやく論文として発表できたのでほっとしている。

水野誠, 阿部誠, 新保直樹 (2022), 受信者と発信者の異質性を考慮したインフルエンサー・マーケティングにおけるシーディング戦略, マーケティング・サイエンス, 30(1), 9–32.
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2024年

ということで、ここ数年は細々と(よくいえば途切れることなく)本を出したり論文を発表したりしてきた。今後も、進行中の複数の研究プロジェクトから、着々と成果が生まれるように努力したい(優れた共著者の足を引っ張らないことが最重要、ということも多々ありそう)。

個人で取り組んでいる出版企画としては、agent-based modeling に関するモノグラフがある。締め切りを何度も伸ばしつつ、ようやく最終章に着手する段階まできた。もう1つはビジネス書だ。『マーケティングは進化する』の精神を継承しつつ、何らかの新機軸を加えたい。

研究課題の在庫目録のうち、何をどの順番で行っていくかは現段階では書きにくい。他方、着手の目途が立っていない、妄想段階とでもいうべき研究テーマなら書きやすい。もっぱら文献を集め、たまに思索する。ときどき言語化して、コミットメントを生み出したほうがよい。

そうしたテーマの1つが「美」への選好の成り立ちである。特に容貌の美に関する選好(ルッキズム)の理解には、性淘汰の議論が参考になりそうだと以前から考えている。地位や階層のシグナリングも関係しそうだ。しかしその先に進むには何が鍵になるか、まだアイデアはない。

社会の先行きへの悲観や個人としての死への恐怖も関心を惹きつける。自分はそれに関する知識や思想の生産者ではなく、消費者側だが、そこにある市場を研究対象にすることは可能である。そんな研究に意味があるのか、むしろ悲観や恐怖の対象自体に興味を持つべきかもしれない。