Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

統計学のミクロ-マクロ・ループ

2009-07-30 20:58:47 | Weblog
現代は「大量データ」の時代だとよくいわれる。世のなかの森羅万象について完全無欠なデータがあるのなら,あとはそれをいかに分析して,ビジネスや行政に役立てるかを考えればいいわけだ。しかし,一見膨大に見えるデータも,実は穴だらけ,欠測だらけで,かつさまざまな歪みを持っている。だから,データが大量にあっても,それだけでは正しい分析にはつながらない。

献本いただいた星野さんの新著では,欠測データをどうするか,選択バイアスをどうするか,といった現代社会でデータを扱う者なら誰でも直面する問題が扱われている。この分野の研究をリードしてきた著者だけあって,類書にはない最先端の話題が盛られている。しかも,マーケティングの実務データを分析してきた経験が示すように,根底には強い現実感覚が伺える。

調査観察データの統計科学―因果推論・選択バイアス・データ融合 (シリーズ確率と情報の科学)
星野 崇宏
岩波書店

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最後の章は「データ融合」(データフュージョン)に当てられている。オーソドックスな統計学者なら躊躇するかもしれないテーマだが,そこにあえて挑む現実感覚がある。偶然といっていいのかどうか,この本を手にした数時間後にご本人にお会いした。ぼく自身が抱える問題(相互作用する消費者行動データの分析)について話すうちに,問題解決の方向が見えてきた気がした。

といっても,それはテクニカルな解決方法ではない。星野さんの問題意識は,欠測値の処理とか複数データの融合とかいったレベルを超えて,ミクロとマクロの融合へと広がる。それは,統計学におけるミクロ-マクロ・ループといってもよい。そうした問題の捉え方が刺激になった。これは,いま一部で研究されているエージェントモデルと集計モデルの架橋にも結びつく話だ。

ミクロとマクロは,一方が他方に還元されるわけではなく,それぞれが固有の情報を持つ。そのことを正しく理解すれば,さまざまな問題を解決する糸口が見えてくるのでは・・・。このあたりは,ぼく個人が勝手に舞い上がっているだけかもしれないが,いろいろ思い悩んでいるプロジェクトを,とにもかくにも前に進めなくてはという元気が出た。もう,7月も終わろうとしているが・・・。
 

世阿弥に学ぶこと

2009-07-29 17:06:19 | Weblog
『風姿花伝』『花鏡』などに書き残された世阿弥の思想のなかに,ブランド論の立場から学ぶべきことを論じた本。世阿弥の原文がまず引用され,現代誤訳が付記され,そこから汲み取れるブランド論に向けた含意が語られる。コンパクトな本だが,世阿弥のことばをきちんと読もうとすると時間がかかる。そこを飛ばして読んでもいいでしょうかと恩師である著者にお尋ねしたところ,それでは脳が活性化しない,と一喝された。

少なくともぼくには,電車のなかで気軽に読める本ではない。世阿弥の原文に集中し,降りるべき駅を乗り過ごしてしまうことまであったが,確かにそうした困難のおかげで,ことばを味わうという経験をすることができた。能の世界は,いかに熟達しようともつねに変化が求められ,稽古が必要となる。しかもそれを厳しい様式の制約のなかで行っている。ぼくの「脳」にも同様の厳しい稽古が必要だ,と痛感する。

世阿弥に学ぶ 100年ブランドの本質
片平 秀貴
ソフトバンククリエイティブ

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世阿弥の考え方のうち,ぼくにとって特に印象的なのは,能の演者には「上手・下手」,客には「目利き・目利かず」の上下しかない,という見方だ。つまり,作り手にも受け手にも一元的な軸があって,その上下で格が規定される。それを決めるのは努力と才能だが,上手は目利きに評価されればよい,といった単純な関係にはない。この一見単純にみえる構成から,めくるめくダイナミクスが引き出されるのだ。

これは,現代のマーケティング論や経営学とかなり違う趣がある。顧客は水平的に多様化しており,能力差のような垂直性はない。企業は戦略論が教える手順をきちんとこなしていけば,高い確率で成功する。もちろん,研究レベルではそういう議論ばかりではないが,Bスクールでの教育自体は,こういう考え方を暗黙の前提にしているのではなかろうか。あなたも,こうすれば高い確率で成功する,と。

この本を読むビジネスパーソンは(あるいは,ぼくのようなマーケティング研究者もまた),こうすれば「100年ブランド」を作ることができる,という近道を知りたいにちがいない。しかし,世阿弥のことばを通して語られる著者のメッセージは,そう甘くはない。その意味で興味深いのが「時」について書かれた章だ。どんなに才能があり,努力しても抗えない時がある,ということまで視野に入れた時間論が展開される。

さらに同じ章で,能の演者が年齢に応じてどう振る舞うべきかが論じられる。ぼくの心に突き刺せるのが,34~35歳に絶頂期があり,そこまでに「名望」を得なくてはならない,という点だ。そこで進歩が終わるわけではないが,その時点で名望を得ているかどうかが,その後の分水嶺になる。著者は,現代に当てはめれば,10歳ほど引き上げて考えるべきだという。ということは44~45歳が絶頂期ということになる。

これは,その歳までに名望を得られなかった者には残酷に聞こえるが,やはりどこかに,そうした線があるような気がする。もちろん,名望を得た者ですら,この絶頂期を過ぎると自らあまり目立たないようにふるまい,後進の育成に主眼を置くべきだとされる。つまり,遅くとも 50歳をすぎるまでには,引き際を準備しておく必要がある。「いや,まだまだこれからでしょう」などという声に耳を傾けてはならない。

といいつつ,まだ少しは何とかと,なかなか未練を断ち切れない。

More is better or not ?

2009-07-28 21:21:38 | Weblog
午前中,トレードオフ回避に関する実験の打ち合わせ。ここ数日の分析結果を報告した。ある局面では,トレードオフ愛好,とでもいうべき現象が生じるかもしれない。あるいは,それは単に,選択肢が多いことの効用かも。選択行動の研究は,そこに関与し得る要因が多すぎて,いちいちそれを統制して実験していくときりがない。頃合いが難しい。

午後からは,クルマの知覚と装備に関する研究の結果をフランスの自動車研究者たちに話す。知覚から期待される水準を上回る重装備(ある意味での過剰装備)が,そのクルマに対する購買意欲を下げるという結果。More is better は米国では当たり前だが,日本は違うというのがヘラーさんの解釈だ。そうか・・・ てことは,これは日本固有の現象か?

選択をめぐる要因,そしてその効果はさまざまで,複雑だ。黙々とピースミールな実証研究を進めることで,いつか何か一般化された知識に到達できるのだろうか? つまり More is better or not?  この2つの研究だけでもまだまだやることがあるのに,他のプロジェクトも放ってはおけない状況になっていく。人生最大の問い: More is better or not?

辞書式選好,恐るべし

2009-07-27 21:09:32 | Weblog
Marketing Research (Summer 2009) に掲載された Decisions, Decisions という論文が面白い。それによれば,非常に単純な辞書式選好モデルが,補償型選好モデルの代表格である多項ロジットモデルを予測精度で上回るという。その方法は,選択肢ごとの属性評価値(5点尺度)と属性の重視度(順位)をもとに,辞書式順序づけを再現するような線形選好関数を「機械的に」作る。つまり,統計的に推測されたモデルではなく,自己申告だけを頼りに組み立てられたルールベースのモデルである。それがノーベル経済学賞受賞者が開発した多項ロジットモデルを上回るとは,何ということか。

もちろん,マーケティング・サイエンスの研究者であれば,この辞書式選好モデルが個人差をストレートに反映している(なぜなら,個々人が申告した属性に対する順位をそのまま利用するから)にもかかわらず,多項ロジットのほうではそれを考慮していない点がアンフェアだと指摘するだろう。潜在クラスであれ階層ベイズであれ,何らかの方法で個人差を反映した多項ロジットモデルであれば,予測力で負けることはないかもしれない。ただ,それをするには,実務家には難解なアルゴリズムが要求されるし,計算時間も長くなる。そのコストをどう考えべきか…。

辞書式選好モデルであれば,競合の導入に対する非-比例的な(つまり非IIA的な)シェアの変化を予測できると著者はいう。これまた,入れ子型ロジットを使ったらどうかとか,より高度な非 IIA 型モデルを使えば対応できるという反論が予想される。繰り返しになるが,肝心なことは簡単に,わかりやすくそれをできるかどうかだ。著者 Keith Chrzan 氏は学者ではなく実務家である。だからこそ,このようなアプローチを提唱しているのだろう。Marketing Research という雑誌にはときどき,こうした論文が掲載される。そこに Journal of とつくと,全く別の世界になる。

辞書式に限らず,非補償型選好モデルはその重要性は広く理解されながら,「決定版」がないため実際に利用されずにきた。そんななか,実務家から「コロンブスの卵」的な方法が提案された。もちろん,この方法が盤石だとは思わない。すべてを消費者の自己申告によって構成する方法なので,消費者が自己の選好を正しく認識していなければ,うまくいくはずがない。だから,ただ単純でわかりやすければよい,というわけではない。しかし,ぼくにとってこれがそれなりの刺激になったのは確かだ。そろそろ,こうした問題を考えるサイクルが来ているのかもしれない。

ニューロ・マーケティングの先駆け

2009-07-25 23:22:37 | Weblog
上智大学で開かれた,産業・組織心理学会研究部会「ニューロ・マーケティング」を聴きに行く。冒頭,経済学者の青木研氏が「神経経済学ってなに?」という報告。Science に掲載されたフレーミングや最後通牒ゲームに関する脳科学的研究などが紹介された。次いで,武者利光氏の「脳電位解析による心の状態の数値化表示とその結果について」。脳波から脳機能を探る数々の実践的な事例が報告される。最後は田中洋氏が「『欲望解剖』をめぐって ~消費現象の探求~」。茂木健一郎氏との共著の紹介と今後の研究課題など。

武者利光氏は,脳というブラックボックスに深く入りすることには懐疑的だ。脳波で把握できる脳機能のレベルで,実用上は十分だということだろう。10個の電極から得られる3種の脳波の間の相関(135変数)を喜・怒・哀・楽に対応する4次元に集約する。それらは情動の独立な元素であり,その組み合わせでより高次の感情が説明される。氏の設立したベンチャー企業は15年以上も前から,この手法を製品開発から医療・福祉まで,さまざまな領域に適用してきた。つまり,ニューロ・マーケティングの先駆けであったわけだ。

本格的な脳神経科学研究のツールをいきなりマーケティングなり消費者行動研究に持ち込むことは,話題性を獲得するうえでは有効だが,研究または実務上実質的な成果につながる保証はない。大山鳴動してネズミ一匹,ということが十分予想される。脳波は限定された情報しか提供しないが,fMRI などに比べると格段にコストが安いし,より自然な状況での測定ができる。また,マーケターが知りたいことが消費者の「隠された」情動の種別であって,脳機能そのものではないのだとしたら,そこで得られる情報で事足りる。

武者氏の講演でいくつか,聴衆がざわめいた瞬間があった。1つは,感情について心理学から学ぼうとしたが,何もなかったという趣旨の発言があったとき。この会合には心理学者が多く集まっていたはずだ。もう1つは,質問紙調査の結果はウソが多い,と指摘されたとき。これには意識下で起きていることに本人が気づいていない,気づいているが適切にことばにできない,意図的にウソをつくという3ケースあるという。ここで反応したのは,意外と多く集まっていた,マーケティングの実務家たちかもしれない。

iPhone で英語

2009-07-24 20:36:37 | Weblog
つい,こんな雑誌も購入・・・ いまさらではあるが。

AERA English (アエラ・イングリッシュ) 2009年 09月号 [雑誌]

朝日新聞出版

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今日で期末試験終了。2つの科目ともふだんの受講者数と比べた受験者数の比率が昨年より大幅に増加。授業に出てなくても単位がとれる,という評判が広がっているのかな・・・。
 

「進化」についてもっと深く考えよ

2009-07-22 23:46:30 | Weblog
昨夜は,ご近所の中央大学駿河台記念館で開かれた研究会に参加し,「産業革新の源泉:シリコンバレーのイノベーション・エコシステム」という報告を聴いた。報告者の氏家豊氏は,シリコンバレーで10年近くコンサルタントをなさっている。その経験を踏まえたお話しで,いろいろ勉強になった。それらをキーワードとして挙げれば,(1)大企業との関係,(2)官の役割(特に州政府),(3)アジアとの関係,となる。

それらが織りなすネットワークが,イノベーション・エコシステムということなのだろう。氏家氏は一方で,エコシステムの定義を「自律性のある産業クラスター」と述べられた。このあたりをもう少し深く知りたくて,氏家氏が最近共著で出された本を注文した(神保町界隈で発見できず・・・)。担当する授業でイノベーションや起業に触れざるを得ないので,自分の本来の関心領域からは離れていても,勉強が必要だ。

産業革新の源泉
原山 優子,氏家 豊,出川 通
白桃書房

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今夜は,隣り駅の MMRC に出かけて「企業・産業の進化」研究会に出る。まず塩沢先生から「進化という概念について」という報告がある。進化の基本概念は「複製」「変異」「選択」だが,企業の進化を考える限り「複製」より「保持」という概念のほうが重要だという議論がある。ただし,この「保持」という概念は「変異」に比べ具体例を挙げにくい。単一でも強力な証拠があれば,研究が発展するだろうと塩沢先生はいう。

それに対して藤本先生から,『生産システムの進化論』を書いたとき,トヨタの国内オペレーションに焦点を当てたので「保持」(retention)という概念をさほど意識しないで使ったが,国際展開を扱っていたなら「複製」(replication)と呼んでいたかもしれない,という「告白」があった。この研究自体が「進化的」であったと。なお,トヨタ語でいうと,保持とは「フォローアップ」,複製は「横展開」になるという。

生産システムの進化論―トヨタ自動車にみる組織能力と創発プロセス
藤本 隆宏
有斐閣

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次いで,稲水さんが「ノンテリトリアル・オフィスの実証研究」について報告。これは従業員の机を固定しないオフィスのことで,わが国での導入事例を2件報告したあと,そのメカニズムをエージェント・シミュレーションで検討している。組織論の研究に「空間構造」が持ち込まれると,建築デザインから人類学まで,さまざまな学問領域と重なり合う。そこから生まれる知のエコシステムに大いに期待したい。

進化経済学者と実証経営学者の議論を聞きながら,エコシステムとか進化とかいった概念をより深く考え,生物学から学びつつもそれを超えた社会科学的な発想を加え,自らの研究テーマを「理論化」することの必要性を感じた。マーケティングや消費者行動の研究が「そこ」に入っていけないのは,もともと体系的な理論が欠落しているためではないかと,自らの浅学を省みず思ったりする。Think! のときが来た。

解散・・・ 郵政民営化と政権交代

2009-07-21 23:36:25 | Weblog
ついに衆議院が解散した。9月10日が任期満了だから,ギリギリまで延ばしてきて,結局ここしかない,ということなのだろう。いずれにしろ,暑いなかの選挙は大変そうだ。

各種世論調査の結果では,民主党の支持率が急上昇しており,政権交代の可能性が高まっている。竹中平蔵氏はコラムで,これは「民主党バブル」だと評している。それはともかく,続いて4年前の総選挙は「自民党バブル」であったと書いておられることにはちょっと驚いた。当時閣僚として,与党候補を応援演説している光景がふと頭をよぎったが,いやいや,竹中氏はいまや経済学者として「客観的」に考察しているのだと理解すべきだろう。その cool head ぶりは尊敬に値する。

日経ビジネス2009.7.20号の「政権交代の衝撃―迫る『さらば経団連』」という記事は冒頭で,前回の総選挙で「郵政民営化」を掲げて大勝した与党がその後何をしたかをきちんと評価するところから始めるべきだと述べている。「小泉改革」は,参院選敗北や世界的不況のせいで,ずるずる後退している印象がある。今日の記者会見で麻生首相は「行き過ぎた市場原理主義からは決別する」と述べた。ホテリングの定理が示すように,与野党の主張はこの点で差がなくなってきた。

では,それで自民党の支持が回復するかというと,ちょっと違う気がする。というのは,4年前に小泉政権を圧勝させた世論と,いま民主党へ傾斜している世論は,根っこにおいて同じではないかと思うからだ。つまり,そこにあるのは業界,官庁,政治家が一体化(癒着?)した体制を壊して,もっと公正で透明性の高い社会を作りたいという願望だ。それを郵政民営化と等価にしてしまったのが小泉氏のすごいところだが,本来はもっと幅広く,根深い問題であったと思う。

上述の日経ビジネスの記事は,民主党政権になれば,政策決定メカニズムで「中抜き」が起き,トップダウン型に変わると報じている。つまり,各種業界団体の要望を官庁がまとめ,それが国会議員を動かしていくというボトムアップの政策決定プロセスが崩壊するという。おそらくそれは,かつて小泉改革を支持し,いま民主党に期待している無党派層が望む方向性だろう。そこで問題となるのは,民主党にそれを実行することの覚悟と胆力,政治スキルがあるかどうかである。

なぜなら,野口悠紀雄氏的には1940年以来(高野孟氏的には明治以来)持続している仕組みを変えることは真底「革命的」なので,それに対する抵抗は,郵政民営化に対する抵抗の比ではないと思われるからだ。いま民主党を支持する人々は,民主党にその力があるかどうか心許ないが,いったん政権交代しないことには変化への第一歩が踏み出せないと考えているのだろう。政権交代が起きると政官の関係は長期化しない。政権交代自体が重要な契機になるわけだ。

1940年体制―さらば戦時経済
野口 悠紀雄
東洋経済新報社

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一方,自民党はマニフェストに大胆な霞ヶ関改革案や地方分権案を織り込んで対抗すると予想される。ホテリング効果といってもよい。そして,それを実行できるのはわが党のみ,と主張するのだろうが,有権者にここ数年の記憶がある限り,説得力はそれほどないのではないか。むしろ下野したあとに古い体質の政治家を一掃し,民主党政権が公約を果たせないことが明らかになった段階で,改革を真に完成させるのは「甦った」自民党だと主張すれば,大喝采を浴びるかもしれない。

さて,半年前は「太郎」と「一郎」の対決だと考えられていた。業田良家の以下のマンガをいま読むと,ちょっと前の出来事ながら,非常に懐かしく思えてくる。このシリーズの次の巻が出る頃,誰と誰が表紙になっているのだろう・・・。

ガラガラポン!日本政治 太郎と一郎、国盗合戦! (ガラガラポン!日本政治)
業田良家
竹書房

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心理学会で選好形成が・・・

2009-07-20 16:36:27 | Weblog
8月下旬に立命館で開かれる心理学会のプログラムを眺めていたところ,

選択問題における選好の“形成”過程

というワークショップを見つけた。発表者には,藤井聡(京都大学),竹村和久(早稲田大学),西條辰義(大阪大学)等々の著名な先生方の名前がずらりと並んでいる。選好形成かぁ・・・ 自分のライフワークというのであれば,ぜがひでも聴講に行くべきなのだが,京都は遠いし(しかも暑いし),心理学会の非会員の参加費は高いし,それに多分「あの会議」とも日程がだぶっている・・・。
ところでこのセッションのタイトル,何で“形成”に引用符が付いているのだろう? 何か気になる・・・。
昨日,今日と立教大学@新座で認知心理学会があった。ずーっと気にはなっていたのだが,結局行けなかった。心理学や認知科学はきわめて重要な隣接領域だが,いまそれをじっくり幅広く学ぶ余裕がなくなってきている。ちょこちょこ買い込んでいる,その関係の本もたまる一方だ。
 

夏休みへ

2009-07-19 18:18:21 | Weblog
昨日,統計学の補講(期末試験対策直前講座?)を終える。帰り路の駅では,反対側のプラットフォームに浴衣の男女があふれている。調布の花火大会のせいらしい。おかげで,わずだが電車の到着も遅れた。花火かぁ・・・ 最近見たのはいつ,どこでだろう・・・。

期末試験の監督と採点業務は残るものの,基本的に「夏休み」に入ったといえる。夏休みこそ「本来の仕事」(と自分が思いたい研究)に集中すべき時間となる。まずこなすべきは,当面予定される学会・研究会関連の準備である。

第一に8月上旬の行動計量学会@大分での発表準備,そのためのデータ解析作業。次いで11月の Complex09@東京のため,9月下旬までに予稿を準備する。12月の行動経済学会@名古屋では,8月下旬に予稿を提出しなくてはならない。

それ以外に,いくつか進行中のプロジェクトがあって,報告会とか,データ分析とか,論文に向けた準備とか,いろいろある。気がついてみれば,いつものように「多重債務状態」になっている。おそらく,下のような怖い人が「取り立て」にやってくることはないはずだが・・・。

闇金ウシジマくん 15 (ビッグコミックス)
真鍋 昌平
小学館

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教室の「割れ窓理論」

2009-07-16 22:51:26 | Weblog
人事コンサルタントの城繁幸氏のブログに,慶応義塾大学 SFC で講演したときの学生の印象が書かれている。
改めて演壇の上から眺めると、学生の顔つきが他と違うことに驚かされる。
質問のグレードも非常に高く、寝てるヤツも(パッと見では)いない。
言っちゃあなんだが、某国立大より全然優秀だ。
面白いことに、同じ慶應でも三田はまた別で、どちらかというと某国立大に雰囲気は似ている。
城氏が指摘するように,SFC は多くの起業家を輩出しており,大企業に入っても離職率が高いため,SFC 卒業者は大企業の人事担当者から敬遠されている時期もあった。しかし,こうした流れが変わりつつあるという。いま求められているのは,SFC 卒業者のような,自立心のある人材だと。そうした人材を SFC が育てているというより,そうした人材を集める仕組みがあるのだろう。

先日,ぼくの授業にゲストスピーカーをお招きし,最前列で聴講していると,教室の後方からぼそぼそ私語が聞こえてきた。教室の最後列に移動すると,さっと静かになった。しばらくその場に留まって前方を眺めると,寝ている学生だけでなく,ケータイを見ている学生,内職している学生などがよーく見える(もちろん真面目に聞いている学生も多くいるが・・・)。出席をとっているわけでもなく,何で彼らは教室にいるのか不思議である。

授業のあと数人から講師に質問が出た。なかには鋭い突っこみもあって,できる学生は確実に存在する。そして,その何倍か,黙っているが同じレベルの学生もいるに違いない。しかしながら,教室の最前列で突っ伏して寝ている学生とか,隙あらば私語を交わす学生とか,ただそこにいれば安心とばかり授業を聴いていない学生を見ていると,城氏が SFC で目撃した光景は,ぼくにとってはどこか遠い世界の出来事のように感じられる。

その翌日,授業で何度も私語を交わしている学生に退席してもらった。私語は確実に周囲に影響を与え,真面目に授業を聴こうとする学生の妨げになるので,厳しい措置をとらざるを得ない。NYC で犯罪を激減させた「割れ窓理論」を援用すれば,些細なことであっても放置すると教室をダメにする行為は排除すべきである。まあ,居眠りや内職は周囲への迷惑度が小さいので目をつぶる。しかし,ゲストスピーカーを迎えたときは別である。

教室を歩き回って講義するのも有効かもしれない。そこで,友人の勧める以下の装置を購入。ペン型の緑色光のレーザーポインタで,遠隔からパワーポイントのスライド送りもできる。今日,早速使ってみたが,なかなかいい。ただし,スクリーンを見ながら歩いていると,はみ出している学生のカバンを踏んでしまうし,最後尾は床に座りこんでいる学生が多数いて通れない(今日は試験直前週なので,教室に人があふれていた)。

「割れ窓理論」の実践は,そう簡単じゃない。

KOKUYO レーザーポインタ IC-GREEN for PC サシ-81N(ペンタイプ, 緑色光, パワーポイント操作機能)

コクヨ

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熱狂するエージェント

2009-07-15 07:34:59 | Weblog
昨夜の JIMS 部会には数理社会学者の中井豊さんをお招きして,「熱狂現象としての流行」についての研究を伺った。中井さんは大学で理論物理学を学んだあと,霞ヶ関と大手シンクタンクでの勤務経験をへて,大学院に進んで博士号を取得,現在大学で教鞭をとられている。これまで何回もお会いしてきたが,研究だけでなく,研究に関する姿勢までじっくり話を聞くのは初めてだ。社会学者らしい洞察やことばづかいと,自然科学的な作法との共存が独特の持ち味になっている。

今回の発表で取り上げられる現象は,個々の流行・普及現象ではなく,それらが連続的に生起することである。たとえばバブル期に次々対象を変えながら投機が起きる。中井モデルでは,それを個別の製品や行動様式に内在する要因で説明するのでなく,人々の周囲への感受性(敏感度)に変化として捉える。そうした敏感度の変化をミクロな性質(周囲との差)とマクロな性質(全体平均)の二次元に投影すると,ある種の非線形ダイナミクスが見えてくる。この展開は見事である。

熱狂するシステム (シリーズ社会システム学)
中井 豊
ミネルヴァ書房

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エージェントベース・シミュレーションから得られる結果を,マクロレベルで集計して見るだけでなく,ミクロレベルでのダイナミクスをつぶざに見ることが重要だ。ただし,そのために多くの変数(切り取り方や組み合わせによっていくらでも構成される)のうち何に注目するかがポイントで,研究者のセンスが要求される。これは,シミュレーションという仮想現実に対して,ある種の自然科学的・実証科学的態度をとることだといえる。膨大なアウトプットからのマイニングが大きな課題になる。

二次会では,経営工学でエージェントベース・シミュレーションを追求している若手研究者たちが参加してくれたこともあり,中井さん中心に,いつになく方法論的な議論で盛り上がった。今回,マーケティング分野の参加者が全くなかったことからも,日本のマーケティング学界にこうした方法論を普及させることは,悲観的にならざるを得ない。むしろ,数学の能力やコンピュータリテラシーの高い理工系の研究者に,マーケティングの問題を理解してもらったほうが近道だという気もする。

ということもあってか,そのためのコンソーシアム,ワークショップのようなことがあればいいね,という話が出て,ぼくもつい「熱狂」してしまった。しかし,実際には多くの問題が山積している。その1つは,マーケティング分野に模範例・先駆例となる研究例が少ないことだろう。ぼく自身もう少し,もうちょっと,そこで何とかしなくてはと思っている。

エスノグラフィ練習帳

2009-07-14 15:10:48 | Weblog
昨日の良品計画・松井会長の話からも明らかだが,プロダクトデザインの世界では,エスノグラフィカルな観察調査手法がいまや中心に躍り出ている(実は昔からそうだったのかもしれないが・・・)。ユーザがふだんの生活でその製品をどう使っているか,あるいは同じニーズを他の何かを工夫してどう満たしているかは,本人がほとんど無自覚に行っているので,観察によって理解するのが最も優れていると。しかしながら,それを実際に行うことはそう簡単ではない。

どうやってそのノウハウを学べばいいのか。その助けになりそうな本が出版されている。そこには何気ない日常の一コマを写した写真が並んでおり,そこに隠された人間の欲望,ルーティン化された行動や問題解決の工夫を読み取るためのヒントが書かれている。それはあくまでヒントであって,正解が示されているわけではない。作家でもある訳者は,そこからいくつものミステリーのトリックを思いついたという。それに負けず,いくつ何らかのアイデアを思いつけるか。

考えなしの行動?
ジェーン・フルトン・スーリ,IDEO
太田出版

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この本の著者は,プロダクトデザインの会社として世界で最も尊敬される IDEO のリサーチャーだ。IDEO について最も包括的に紹介しているのが,次の本である。IDEO はユーザへの質問紙調査はもちろん,モニターのテストさえ信頼していないという。彼らが唯一頼りにするのはユーザを「見ること」だ。ぼくが企業の製品開発者だとしたら,その意見に全面的に従う。しかし,マーケティングサイエンスの末端研究者として,そうとばかりはいってられない。

発想する会社! ― 世界最高のデザイン・ファームIDEOに学ぶイノベーションの技法
トム・ケリー,Tom Kelley,ジョナサン・リットマン,Jonathan Littman
早川書房

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エスノグラフィの「挑戦」をどう受け止め,どう応えるか。それは大いなる可能性を秘めている。漠然たるアイデアは思い浮かぶが,まだまだ詰められていない。だが,それを考えることで「輝かしい未来」が開かれることだけは確信している。
 

表と裏の競争力が揃う

2009-07-14 08:35:56 | Weblog
昨日は,MBF で良品計画・松井会長の講演を聞く。良品計画(無印良品)といえば,すぐその秀逸なデザイン戦略の話になるが,それは「表の競争力」の話だ。今回の講演はむしろ「裏の競争力」,つまり良品計画のコンセプトを背後で支える業務プロセスの改革や人事政策に焦点を当てており,意外に感じるとともに,おおいに勉強になった。それを踏まえた上であえてぼくが何に関心があるかというと,やはり表の競争力であるところの,製品開発戦略である。松井会長はさらなる競争力の向上を目指して,内部の製品開発の仕組みを革新しようとされているようだ。その動向が注目される。

日本企業のなかで,デザインで競争優位性を築いてきた例として,確かに良品計画が筆頭に来る。裏の競争力では同様に血のにじむような努力を重ねてきた日本企業にとっては,逆に表の競争力のために,いかに優れた製品を開発するかのノウハウが重要になる。松井会長が指摘されたキーワードは,消費者の半歩先を行くこと,そのためにオブザベーションが欠かせないこと,と同時に優れたデザイナーとグローバルなネットワークを構築すること,などなど。いうまでもなく,デザインのポリシーがない企業が,一時的に有名なデザイナーを起用しているケースなどと,同じレベルで議論できない。