Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

Minimal ABM

2006-12-28 12:00:40 | Weblog
昨日は JASMIN のエージェントベース研究会で,約半日かけて問題領域や方法論に関して議論する。今回浮かび上がった問題意識の違いは,いわば,まず病理学的研究をきちんとすべきと考えるか,そうではなく様々な経験知を動員して臨床に役立てるべきと考えるかである。後者の代表格は出口先生で,そうした視点からは前者は素朴な「科学主義」「客観主義」と非難される。だが,ぼく自身の立場はそちらに近い。

臨床重視派は,リアルの人間をエージェントとして組み込むだけでなく,彼らにゲームの構造を変えることさえ許容する。経営戦略におけるシナリオ・プラニングと同様,個々のシナリオの蓋然性より,あり得る未来の道筋を事前に参加者に経験させ,対応を考えさせることを重視する。それがコンサルティングあるいは研修に使えそうなことを認めないわけではないが,その前にもう少し基礎研究が必要だと思う。

validation の議論は grounding,すなわち,どこで現実との対応をとるか(地に足をつけさせるか)に集約される。そのポイントが広ければ広いほどいい,というのがぼくの立場。と同時に,ABMに関わる者に共通する望みとして,実際には起きていなくても起きる可能性があって,かつそれが起きたときのインパクトが大きいシナリオを発見したいとも思う。この「ないものねだり」をどうするかが,個人的には大きな課題である。

エージェントベースを用いる研究者の姿勢を区別するのは,それ「でしか」できないことをやろうとするか,逆に,それ「だけで」何もかもやろうとするかだと述べたところ,大方の賛同を得たように思う。エージェントのモデリングにあたって,既存の領域科学の知見にどれだけ敬意を払うかの違いでもある。この点でもぼくは前者,つまりある意味 minimal でありたいと思っている(それがABMの価値を maximize すると)。

いずれにしろ,こうした議論を通じて,研究コミュニティが共有しがちな甘い幻想をいったん打ち砕いて,相互の違いをポジショニングすることは重要だ。そのコミュニティが多様性を維持しつつ発展するには,自分が貢献できそうなニッチが明確にされたほうがよい。さらにいえば,他者との違いが明確にされてこそ,他者から何かを学ぶことができる。

消費者の選好とか選択とかについて,こういう機会が持てるだろうか? そのためには,方向が関連しつつも微妙に異なる,アクティブで論争好きの研究者たちのプールが必要となる。

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