Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

2022年、年初に当たり

2022-01-07 12:51:59 | Weblog
そろそろやめようかと思ったものの、ずっと続けてきたことであり、昨年の回顧と今年の抱負を書いてみよう。

2021年度は「特別研究」期間で、大学での講義は3・4年生のゼミだけ。その他の業務も大幅に軽減された。ということで、たまりにたまった研究在庫の掃き出しを目指したが、目に見える成果は査読論文1点、書籍1点であった。

発表できた論文は、青山秀明さん、藤原義久さんとの共著で、経済物理学でビールのブランド間競争を分析したもの。すでにこのブログで紹介を分析しているので、ご関心のある方はそこにあるリンクからダウンロードして下さい!

この研究は4月18日付の日本経済新聞の記事で紹介いただいた。記事の見出しに「『ムダ』の進化で生物共存」とあるように生物学の話題がメインだが、社会における類似現象と解釈され、一種の傍証として取り上げていただいた。

(その記事で取り上げている「多様性の持続」については、消費財市場における現象としても独自に探求したいテーマではある…)

もう1つの成果は書籍で、稲水伸行さん、笹原和俊さんとの共編著『プロ野球「熱狂」のメカニズム』が出版されたこと。詳細については、当時のブログ記事をご覧いただきたい。出版社やamazonへのリンクもあります!

この本は、読売新聞の書評で取り上げられた。評者の稲野和利氏(ふるさと財団理事長)には「分析対象や分析手法などに課題は残るもののプロ野球の事例を超えて今後の応用可能性を強く感じさせる」と書いていただいた。

この本で私は、佐野幸恵さんとともにプロ野球ファンのツイート分析を担当したが、様々な課題が残る。いっそうの分析に加えて、プロ野球を超えた「熱狂」の研究も進めたいという想いから研究費を申請中だが果たして…

2022年は、投稿中の論文に加え、「あと少し」で完成する論文、着々と分析が進んでいる研究等々が控えている。さらにそのあとに、論文を集めたりデータを集めたりして、ウォーミングアップ中のテーマが待っている。

すぐに締め切りが来るのが瀧川裕貴さんと進めている研究で、報告書提出締切が迫る。現代社会の階層と消費行動の関係を探求する研究で、永年の関心事だ。もう1つが『マーケティングは進化する』第2版で、初校の段階。

いずれにしろ「出版してなんぼ」の世界。2015年以来細々と続けてきた Business Journal での連載は、私の寄稿があまりに遅いせいか、昨年、運営会社から打ち切りの通告があった。まだウェブで閲覧できるようだが…

『プロ野球「熱狂」のメカニズム』出版!

2021-09-29 18:11:15 | Weblog

共編著『プロ野球「熱狂」のメカニズム』がようやく出版されました!

2016年に出版された『プロ野球「熱狂」の経営科学』の続編ですが、改訂版や増補版ではありません。いくつかの章は前著を発展させたもので、それ以外は全く新たな視点で行われた研究が取り上げられています。

東京大学出版会のサイトに、詳しい目次が出ております。

1章 各球団ファンに共通する心理を解明した実験(中川裕美さん・中西大輔さん)

4章 スポーツマネジメント研究の観点での文献レビュー(佐藤晋太郎さん・押見大地さん)

5章 チームの強さを探求するシミュレーション(稲水伸行さん・一小路武安さん・坂平文博さん)
など、さまざまな角度からプロ野球の熱狂が研究されています。

笹原和俊さん、佐野幸恵さんと私が関わった2,3章は、プロ野球ファンの熱狂について、Twitterにおける発言やリツイートを分析したものです。このブログで以前紹介した『マーケティング・ジャーナル』の論文では取り上げていない分析やグラフもいっぱい載っています。


どこにでもおいてある書籍ではないため、ご関心がある方はamazon等からご注文いただけましたら幸いです。お値段が類書より高いのが恐縮ですが…

本書は、大規模実験、ソーシャルメディア等のビックデータ解析、そしてエージェントベース・シミュレーションがミックされており、最近注目されている計算社会科学の、ちょっと変わったテーマでの応用例といえます。その点でも、興味を持っていただければ幸いです。


普及モデルを戦後日本のデータに当てはめる

2021-04-10 13:07:37 | Weblog
ウェブサイトBusiness Journalでの連載「マーケティングの進化学」はほぼ年に1回の更新というペースになって、ほぼ開店休業状態。このペースに従って新たな記事を寄稿しました。しかし、流石にこの調子でいいとは思っておらず、ことしは2〜3ヶ月に一度(いやもっと?)更新していきたいと考えています。

復活第一弾は「60年前と今、新商品“普及の仕方”は同じか?ロジスティック曲線とバス・モデルより読み解く」。普及モデルに関するきわめて入門的な解説ですが、戦後日本のさまざまな耐久財に当てはめてみましたので、グラフを眺めるだけでもいろいろ気づきがあるかもしれません。ご関心があればここをクリック!


プロ野球ファンのツイート分析

2021-04-10 12:52:31 | Weblog
佐野幸恵さん(筑波大学)、 笹原和俊さん(東京工業大学)との共著論文「熱狂するファンダム― プロ野球ファンのツイートを分析する ―」が『マーケティング・ジャーナル』40(4) (2020-2021) に掲載されました(ここからどなたもダウンロードできます)。

プロ野球各球団のファンのツイート(投稿やRTの量、感情)と、試合やチームの状況などの関係を1時間(hour)単位で分析したものです。問題意識は、ファンの熱狂はどのような条件下で起きるか、ということにあります。

より詳しい内容は『プロ野球「熱狂」のメカニズム』(仮)というタイトルで、他の研究者たちの寄稿も合わせて7月に出版予定です。乞うご期待!

経済物理学でブランド間競争を分析

2021-04-10 09:36:57 | Weblog
2月の話になりますが、青山秀明さん、藤原義久さんとの共同論文がPLoS ONEに掲載されました。TwitterやFacebookではお知らせしたものの、BLOGでは忘れていたのでここに掲載します:

Untangling the complexity of market competition in consumer goods—A complex Hilbert PCA analysis, PLoS ONE 16(2): e0245531

オープンアクセスですので、ここからダウンロードできます。ご高覧いただけましたら幸いです。

経済物理学の手法(ヒルベルト複素主成分分析)をマーケティングの多次元時系列データに適用し、日本のビール市場における競争構造に新たな光を当てています。マーケティング的には、従来のカスタマージャーニーが自分のブランドだけに注目していたのに対して、競合ブランドとの競争も視野に入れて拡張したという点が新しさです。

日本語での要約として経済産業研究所のノンテクニカルペーパーがありますので、手っ取り早く把握するにはそちらをご覧ください。


統計学とRの最適な教科書

2021-03-17 16:24:31 | Weblog
新学期に備え、統計学やRを教える準備を進めている教員も少なくないはず。皆さん、何を教科書に使っているのだろう?
やはりいまの時代、Rのコードを知っているだけでなく、RStudioやRマークダウンが使えたほうがいい、ということで浅野正彦・中村公亮『はじめてのRStudio』(オーム社)はコンパクトで大変便利。ただしカバーしている統計手法は回帰分析など、基本の基本に限られている。



そこで次の段階の教科書が必要になる。私がここ数年、ゼミで上の本とともに使っているのが、今井耕介『社会科学のためのデータ分析』(岩波書店)だ。著者はハーバード大学で教える著名な政治学者で、もともと英語で書かれた教科書が邦訳された。英語のサポートサイトが非常に充実しており、この教科書を使って講義する教師にとって大変な助けになる。

この教科書の最大の特徴は、独自の構成にある。1章でRの基礎が説明されたあと(上の教科書とダブる)、2章でいきなり「因果関係」が扱われ、RCTやDIDが登場する。ふつうの統計学の教科書では最初にきそうな確率や推定−検定は、何と下巻の最後になって登場する。社会科学で使われる最新の計量分析を学びたい読者に最適な構成といえるだろう。

さらには、テキスト、ネットワーク、空間データの分析も取り上げられている。最近注目されている計算社会科学と呼ばれる領域でも、これらのデータの分析が中心にである(筆者の専攻するマーケティング・サイエンスでも同様だ)。扱われる分析手法、データの種類がいずれも現代的なので、この教科書を使って教える教師にとっても楽しさがある。

教科書の本文、また練習問題に対応するデータ(多くが実際の研究論文で使われたもの!)は上述のサイトからダウンロードできる。ただし、それらはすぐにRで分析できるかたちになっているとは限らず、一定の加工が必要になる。しかし、それについても詳しく説明されているので、実際にデータ分析を行う上での所作を総合的に学ぶことができる。





…といいことづくめだが、この2つ(3冊)の教科書を使って1年で講義を終えるのはけっこう難しいことを付け加えておきたい。私の場合、週1回100分のゼミで講義と演習を行ったが1年(計28回)では完全には終わらない。練習問題も4章あたりからだんだん難しくなる(全部で7章)。それを丁寧に扱っていると、進度がどんどん遅くなる。

与えられた講義時間、受講者の関心や知識に合わせて、内容をカスタマイズすることが望まれるが、これが意外に難しい。だが、そうしないと学生の側にオーバーフローが起きそうである。どちらの教科書も事例が政治学や開発経済学に関わるものが多く、商学部や経営学部で教える場合は、彼らが関心を持つ事例を用意することも教師側の課題だろう。

マーケティングへの応用を重視した統計学とRの教科書となると、因果分析が最初にきたり、テキストやネットワークのデータ分析が取り上げられたり、というのはかなり異端的かもしれない。では代わりにどうすべきかは、悩ましいところである。いずれにしろ優れた教科書であることは間違いなく、統計学やRを教える方にはぜひお薦めしたい。


まさにグラフィカルなマーケティングの教科書

2021-01-20 13:23:46 | Weblog
上田隆穂、澁谷覚、西原彰宏の各先生による『グラフィック・マーケティング』新世社。書名のとおり図が多くて二色刷り。チャート式の参考書に馴染んだ高校生が、大学に入ってマーケティングを一から学ぶ際にうってつけの教科書である。

といっても初心者向けに内容を薄くしているわけではない。コンパクトな教科書に見えるが、中身は重くて濃い。3章に「リレーションシップ・マーケティング」がきて、最終章に「地域創生のマーケティング」がくるあたり類書にない特徴だ。

また著者が研究を深めてきた価格やデジタルマーケティングに関する章も見逃せない。ふんだんに盛り込まれたコラムで最新の話題や事例を扱っており、教科書的知識は身についていると自負している人にも学ぶところがあるはずである。


2021年、年初に当たり

2021-01-01 18:09:05 | Weblog
2020年はいうまでもなくCOVID-19のおかげで大混乱…海外出張はすべてなくなり、学会・研究会はオンライン、授業も大部分がオンラインになった。特にメインの講義がオンディマンド型(録画してアップロード)になったことで、講義の準備に要する時間がふだんの3〜4倍になったことで、研究時間が大幅に削減された。

そんななか、NYでの在外研究から始まった研究など、多くのプロジェクトが凍結された。そのなかで唯一前進したのが、青山秀明さん、藤原義久さんと進めてきた"Untangling the complexity of market competition in consumer goods - A complex Hilbert PCA analysis"で、投稿後一度の改訂を経て、返答待ちの状態である。

追記)1/04に採択のメールが届く!

もう一歩、というところまできたのが、プロ野球「熱狂」シリーズの第2弾で、今年の夏の出版を目指している(希望的観測)。その時期に日本のプロ野球がどのようなかたちで行われているか、オリンピックを含めて予断を許さない。なお、元々は去年の夏頃の刊行を目指しており、ここまで遅れたのはひとえに私の怠慢による。

この本で私が執筆した部分は、笹原和俊さん、佐野幸恵さんたちと行った2018年の日本のプロ野球ファンのツイート分析である。COVID-19でオフラインになった計算社会科学研究会や進化経済学会で発表した(上述の本ではそれとは違う分析結果が報告される)。春には関連論文が『マーケティングジャーナル』に掲載される。

新たに始まった研究もある。瀧川裕貴さんと共同で申請した吉田秀雄記念事業財団の研究助成が採択された。ツイートから投稿者の職業(や社会階層)を推定したり、ウィキサーベイという新しい調査方法を実験したり、野心的な研究に挑む予定。以前から抱いてきたクリエティブ・クラス論や文化資本論への関心が背景にある。

また、COVID-19の消費への影響について、中野暁さん、赤松直樹さんと行った共同研究は、12月の日本マーケティング・サイエンス学会で中野さんにより発表された。それ以外にもツイートデータを用いた分析も準備中だが、こちらは少し進んだところで発表したい。とにもかくにも2020年は論文も本も出版件数ゼロであった。

今年は約束しながら(何度も)延期してきた3つの出版企画を何とか終わらせたい。分野としては専門書、教科書、ビジネス書とまちまちで、うち1冊は英文になる。1冊3ヶ月で仕上げていけば秋には全部完遂できる。幸いにも4月から「特別研究」期間に入り、講義が免除されるので、この機会を逃すわけには行かない。

というわけで、凍結中のプロジェクトを解凍しつつ、本を書く。そんなにできるなら、これまでだってできたはず、という疑問は受けつけない^^

16歳からのはじめてのゲーム理論

2020-11-12 19:38:32 | Weblog
久々のブログ投稿では、鎌田雄一郎『16歳からのはじめてのゲーム理論』を取り上げたい。7月に発売されたが、私がよく立ち寄る大型書店ではいまだによく目立つ場所に置かれていて、大変売れ行きがよいことがわかる。確かにいま、マッチングやマーケットデザインといった話題とともに、ゲーム理論への注目がかつてなく高まっている。



しかし、この本が売れているのはそういった理由だけではないと思う。ゲーム理論の入門書は多数あるが、この本はそれらとはちょっと(かなり?)違う。ゲーム理論といえば囚人のジレンマ、利得表、といった定番的発想にとらわれず、そもそもゲーム理論家とはどのように物事を考えているかという、原理的な部分を扱っているのだ。

そういうと難しそうだが、「16歳から」の読者を想定しているだけに、いくつかの寓話をつうじて話が進む。マンションの管理組合での意思決定から始まり、親に通知表を見せるかどうかまで、身近な話題が取り上げられる。その意味で読みやすい。しかし、そこから奥深く簡単ではない問題が抉り出される。それが本書の魅力である。

なぜ簡単でないかといえば、いうまでもなく自分が決めるだけですまない問題を考えているからだ。そのとき相手がどう考えているか、自分がどう考えているかを相手がどう考えているか、と考えていくと訳がわからなくなる。ところがゲーム理論の思考法を用いると(場合によって)誰もがそこで落ち着く「均衡」を予見できるのである。

いやいや自分はテキトーに行動しているだけだと思う人もいるだろう。私がマーケティングの授業でホテリングの空間的競争とかシグナリングの話をするとき、そう感じている学生は少なくないはずだ。その疑問はもっともだが、なぜそんな話をするかというと、実務家であってもこうした思考法について知っておくことに価値があるからだ。

ゲーム理論の予測が絶対に正しいわけではない。しかし、人間が完全にランダムに行動するとか、慣習的に行動するという前提での予測がつねに正しいわけでもない。現実はそれらの混合だとしても、まずはそれぞれの仮定での振る舞いが理解される必要がある。したがって実務に近いからこそ、様々なモデルを知っておくことに価値がある。

あまり書くとネタバレになるが、本書には寓話中の人物が「理論的予想」と違う行動をとる場面がある。1つの可能性は、著者はその答えをすでに用意していて、次回作で披露するというもの。もう1つは、あえて読者に問題を投げかけることで、優秀な若者がゲーム理論の研究を志すよう誘っている可能性。その両方、という気もする。




2020年、年初にあたり

2020-01-05 13:22:57 | Weblog
昨年を回顧しようと久しぶりに自分のブログを見ると、最終投稿が2月になっている。ブログはオワコン…じゃなく今年はせめて四半期に1回は投稿したい。そのためには、それなりのイベントがあったほうがいい。世間的には東京オリンピックだろうが、自分にとって何があるだろう?

NYUの石原昌和、エイタン・ミューラーのお二人と進めている、パッケージグッズの普及に関する研究は3年目に入り、そろそろ論文にしなくてはならない時期だ。なので昨年同様、ニューヨークに1〜2回出張するだろう。その後の展開も準備しつつ、まずは1つアウトプットを目指す。

「そろそろ」というより「まだなの?」と問われるべきプロジェクトが山ほどある。昨年唯一のアウトプットは『マーケティング・サイエンス』に掲載された「デジタルメディア環境下のC 2 Cインタラクション―研究動向の概観と展望」(J-STAGE からダウンロードできます!)。

この論文は、大西浩志、澁谷覚、山本晶というデジタル・マーケティングに強い「私より若手」の研究者たちとの共著レビュー論文で、各自の得意分野が違うため、守備範囲はかなり広くなった(その分まとめに苦労したが、お互いの議論を通じて最終的にうまく整理されたと思う^^)。

オンライン上のクチコミからオークション、いわゆるシェアリング・エコノミーまで、狭義のマーケティング・サイエンス(量的モデル)から消費者行動研究まで取り上げているので、研究テーマを探している人に便利かもしれない。ただし、広告などのB2C的な話題は扱っていない、

現在計画中のプロジェクトは、強力な共同研究者を得て、計算社会科学的に画期的な研究になると自負している。データの収集や実験に一定のコストがかかるので研究助成を申請中だが、果たしてどうなるか…。いずれにしても、従来の殻を打ち破るような研究をじっくり育てていきたい。

昨年来の目標となるいくつかの書籍が年内にすべて脱稿できたとしても、出版は来年になる。したがって今年は見た目、何もない年になるかもしれない。年初のTwitterキーワードで首位になった、WWIII が現実になれば(首都圏大地震が起きるという「予測」もある)それどころではない…

教務でいうと、今年は3人の留学生に対する修士論文の指導があるので、年末はそれで今年以上に忙しいかもしれない。学部ゼミの関東学生マーケティング大会での発表、昨年から参加した JIMS でのポスター発表(学生の部)、レベルアップできるかどうか。講義の大幅改訂も必要である。

ともかく言い訳の少ない1年としたい(汗

P.S. この1年ほどの間にご恵贈いただいた書籍の数々(抜けがあったら申し訳ありません)。本来じっくり拝読してブログなどで紹介したり、自著を献本してお返ししたいところだが、当方の生産性が低くてままならず… いずれにしましても感謝に堪えません









望月三起也を懐かしむ

2019-02-22 15:33:45 | Weblog
『文藝』別冊の「望望月三起也 生誕80周年&『ワイルド7』50周年記念」号。望月三起也の代表作「ワイルド7」は1969年から79年まで少年キングに連載された。それを懐かしいと思うのは当時の10代だろうから、いまや60代に達している。この本は少年時代を振り返る契機になる。

自分にとっては、散髪屋でよく読んだという記憶がある。もちろん本屋で立ち読みしたり、たまに買ったかもしれないが、相当きちんと連載をフォローしていた。50年近く前とはいえ、いま読み返しても絵柄や話の展開をよく覚えている。それだけ少年にとって刺激が強かったのだろう。

望月三起也 生誕80周年&『ワイルド7』50周年記念 (文藝別冊)
河出書房新社

なんせ警官が超法規的に犯罪者を撃ち殺して回る話なので、明るい少年漫画の世界では異色だったかもしれない。一応警官とはいえ、当時の世相を反映して、反戦運動をしていたヒッピーがメンバーにいたりして「反体制的な」フレーバーもあった。清々しい荒唐無稽さに満ちていた。

その後、断続的に続編が描かれた。そちらはあまりフォローしていないが、「グラマーな」美女が強調され、アダルト向けに進化した(それは読者の加齢に適応した進化なのだろう)。といっても基本はアクションに色を添える程度のチラリズムであった(本書・安田理央氏の寄稿参照)。

望月三起也は自分の作品を「劇画」とされるのを嫌ったという。そこでの漫画と劇画の違いは何だろうか。池上遼一の劇画も物語の荒唐無稽さでは負けていないが、その一方で人物や情景のリアルさを追求している。漫画とはそうしたリアルさを否定する、と考えればいいのだろうか。

拳銃や戦車や戦闘機が好きで、戦争ごっこをして遊び、少し大人になるとクルマやバイクにハマり…という少年は昔はいっぱいいたと思うが、いまはどうなのだろう。それほどでもない、とすれば望月三起也的な世界が若い読者を獲得するのは難しい。ジジイたちが愛し続けるしかない。

マーケティング・モデルとAIの架橋

2019-02-19 13:43:14 | Weblog
マーケティング・サイエンスの世界でも機械学習を用いた研究が増えているが、マーケティングの実務では、機械学習(あるいは広義のAI)の普及はもっと急速かもしれない。それを担うのはマーケティングの現場で増えている理工系の学位を持つデータ・サイエンティストだ。

しかし、機械学習等で開発された汎用的なデータ解析手法が席巻すると、独自に研究を蓄積してきたマーケティング・サイエンスの居場所はなくなってしまうのではないか…本書を眺めるとそれが杞憂であることがわかる。選択モデルにも然るべきスペースが与えられている。

AIアルゴリズムマーケティング
自動化のための機械学習/経済モデル、ベストプラクティス、アーキテクチャ (impress top gear)
IIya Katsov
インプレス

本書の冒頭では、マーケティングの自動化・最適化(原題を直訳すると「アルゴリズミック・マーケティング入門」)の歴史的背景の1つが、オペレーションズ・リサーチを源流に持つマーケティング・サイエンスであることに言及している。そこは類書にない特徴だと思う。

著者はデータ解析を専門とする実務家である。アルゴリズミック・マーケティングの様々な適用場面について、様々な手法を基本的な数式をきちんと示しながら解説している。その意味でデータ・サイエンティストだけでなく、マーケティング・サイエンティストにも勉強になる。

選択モデルや生存時間モデルを紹介し、価格設定からカテゴリーマネジメンやイールドマネジメントといった話題まで取り上げるという奥の深さから、マーケティング・サイエンス(あるいは経済学)の研究者がこの領域で仕事をするときの参考書にもなる。役立ちそうな予感。

ワインの知ったかぶりはやめよう

2019-02-06 18:41:14 | Weblog
ワインは栓を抜いたらなるべく早く飲むべし…ずっとそう思い込んでいた。だから本屋で「3日目のワインがいちばんおいしい」という書名の本に出会ったとき、大いに興味を惹かれた。これまで信じてきたことが間違いなら、早くそれを正して、残りの人生を楽しまなくてはならない。

肉には赤ワインで魚には白ワイン、赤を飲んだあとに白を飲むのは邪道、ロゼは何となく中途半端な存在…そうした思い込みもあった。本書は、そうした思い込みの誤りを教えてくれる。肉といってもいろいろ、赤といってもいろいろ。そこで飲食にもクリエイティビティが求められる。

それは凡人にとっては大変なことでもある。親切な著者は、こうしておけば間違いないという新たな定石を教えてくれる。それすら覚えられない自分はどうすればいいか?とりあえずは、どうすればもっと美味しく飲み食いできるか、心でシミュレーションしてみるくらいは必要だろう。

3日目のワインがいちばんおいしい
渡辺良平
新星出版社

著者はフランスのワイナリーで働いた経験もあるワインショップの経営者。本書では徹底した顧客視線に立つ。ワインは好きだが、上から目線のワイン求道者にうんざりしている方にオススメの本。意味なくグラスを回したり、テイスティングのとき「うん旨い」とかいうのはやめよう。

マーケティング・リサーチの極北

2019-01-22 18:57:58 | Weblog
昨年末に2冊の『マーケティング・リサーチ入門』と題する本が刊行された。1つは、すでに当ブログで紹介した朝野熙彦先生の本(朝野本と略す)、もう1つが今回とりあげる星野崇宏、上田雅夫のお二人による本(星野・上田本)だ。この2冊、それぞれ違った特徴がある。

マーケティング・リサーチ入門
(有斐閣アルマSpecialized)
星野 崇宏, 上田 雅夫
有斐閣

朝野本は、以前の投稿で述べたように、実務の現場からマーケティング・リサーチ(MR)の最前線を紹介している点に特徴がある。一方、星野・上田本は、教科書として MR に関する基礎知識をカバーしつつ、アカデミックな研究の最先端についても紹介しているのが特徴だ。

たとえば、測定の妥当性と信頼性、サンプリングの理論と実際、虚偽回答を防ぐ技法などについて、類書を超える詳しさで述べられている。因果分析、行動経済学の知見の応用、質的調査の分析など、著者らが精力的に研究を進めてきた分野の説明が充実しているのは当然だろう。

これらの研究は、まさに実務に役立てることを意図して行われてきたもので、使いこなせば現場にも大変役立つ。したがって教科書的知識なら自分はすでに持っていると自負する実務家であっても、本書を読んだほうがいい。必ずいくつか新しいことについて学ぶはずである。

これらの2冊は互いに補い合う関係にあるので、どちらの本も読むことがベストである。しかし、どちらから読み始めるべきかと問われたら、学生あるいは MR の経験がない社会人に対しては朝野本、MR についてある程度知識を持つ実務家や教員には星野・上田本を薦める。

というのは、MR について知識が乏しい読者には、まず現場を垣間見て、最前線にどんな面白いことがあるかを知るのが勉強の動機づけになるからだ。他方、すでに知識や経験がある人々には、彼らの住む世界の先に、新たな発展可能性があることがを学んでほしいからである。

なお、星野・上田本は、日本の教科書としては珍しく参考文献リストが充実している。大学院生や研究者にとって、知らなかった概念に出会ったとき次に何を読むべきかがわかって便利である。本書は入門的教科書でありながら、MR の研究を深化させるインパクトも持つだろう。

平成の終わりに世界の未来を考える

2019-01-04 16:56:08 | Weblog
平成最後の年にあたり、今年の新年は未来のことをじっくり考えてみてはどうか? もちろん毎年のように新聞や雑誌はこの時期未来予測の記事を掲載するし、年賀状にちょっとした未来予測を書く人も少なくないはずだ。ただ、しばしば技術の話一辺倒になって食傷気味になる。

『〔データブック〕近未来予測2025』は、世界的規模での人口・環境・資源・民族等の大きなテーマから技術やビジネスまで、幅広く近未来に言及する。著者のアプローチは専門家によるワークショップであり、しばしば両論併記的であり、よくいえばバランスが取れた本である。

〔データブック〕近未来予測2025

ティム ジョーンズ,
キャロライン デューイング
早川書房

私のようにふだんグローバルな視点で世界を眺めていない人間には、たとえばアフリカ、北欧、東南アジアなど様々な地域での諸問題を列挙されると大変勉強になる(すぐ忘れがちだがw)。ビジネスの問題に絞っても、ところ変われば品変わるという点でいろいろな気づきが得られた。

個人的にツボだったのは、ダイナミック・プライシングの広がりを語る箇所で、アマゾンはアップル・ユーザに対して割高な価格を提示すると書かれていたこと(価格弾力性が何に対しても小さいという意味か)。また、シェアリング・エコノミーの商業化に警鐘を鳴らしている部分だ。

自分の探求課題でもあるクリエイティブ・エコノミーについて、その拡大が経済的格差の拡大につながることを懸念するよりも、これまで社会的に排除されてきた人々を包摂する可能性に期待している点も興味深かった。これは予測というより、未来をどうしたいかの問題というべきか。

結局のところ、未来のことは誰にもわからない。本書が執筆された時期以降の大きな変化として、米国におけるトランプ政権の誕生がある。それによって、少なくとも環境や移民の問題は、本書で予測されたよりも悲観的な方向で進むかもしれない(日本語版の補論で若干の言及はある)。

実はこの本を昨年、大学1年生向けのクラスで輪読に用いた。様々なテーマのうち何に最も関心があるかを聞いたところ、やはりというべきか、人工知能やクルマの自動運転を挙げた者が半数近かった。それらは、多くの論点のうち、最も不確実性が小さく、夢があるということだろう。