Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

2007年の回顧 研究編

2007-12-31 20:14:03 | Weblog
年末にいつも感じるのは,積み残した荷物の多さだが,今年は多少進展もあった。住田先生たちとの Optimal Threshold Analysis ... がEJORに採択された。ただし,いつ刊行されるかはいまもって不明。また井上君,野口さんたちとの研究が WCSS06 のポストプロシーディングスに採択され,夏に無事出版された。ただし,抜刷に3万円近くかかる・・・。

3月の artisoc コンペには飯塚君,石川さんと出陣。和泉さんのすごいプレゼンを始め,プロによる本格的研究に圧倒され,昨年に続く入賞には至らなかったが・・・。それはともかく,複雑ネットワーク上での情報伝播シミュレーションは,その後改良と発表を重ね,12月の JIMS でも発表となった。さらに進展させて,どこか国際学会で発表するなり,投稿するなりしたい。

5月には商業学会デビューした。階層帰属意識とクリエイティブワーク志向について話す。後者については,ほったらかしで1年以上経った。もはや賞味期限切れか・・・いや,そうは思わないぞ。やりようはある。そして6月,DM 学会デビューも果たした。そこで話したロングテールの話が,来年研究につながる可能性がある。問題は時間の確保。

6~7月は,池田君と行った,購買履歴データから消費者間影響関係を測定する研究を JIMS,MSC,IMPS で報告した。最終的に面白い話になったと自画自賛。ただ,テクニカルな面に多少課題が残っている。昨年末のワイン研究やそれ以前のヒット予測などと同様,MCMC の適用が考えられるが,影響パタンの探索まで含めると,もっと効率的なアプローチが望まれる。

6月には,クルマの仕事でパリにも行った。何と脈絡のない研究生活か・・・そして,最近に至っても調査票を再改訂するという無限ループが続く。来年はさすがに調査(ヒヤリング)に進まざるを得ないだろう。とともに,装備-知覚データの宿題も残っている。関連して「イノベーション」に関する文献を猟歩する必要がある。それは,来年始まる新たな授業にも役立つ。

博士論文以来の非補償型選好の研究には,ほとんど手がついていなかったが,年末の JACS を契機に研究を再開した。これはクルマの研究にも関連するし,実務家からの期待もある領域でもあるので,先延ばしにはできない。論文にするには,関連する既存研究をもっとサーベイする必要があるが,それ以前に,分析にケリをつける必要がある。

9月に非常勤のため長崎,10月に学会で沖縄,12月に学会で福岡・・・今年は九州方面によく行った(あとは来年3月に鹿児島?)。九州には美味しい食べ物,美しい風景がある。来年はどうか・・・長崎行きはほぼ間違いないが,他にはどうか・・・。海外では,バンクーバーやワルシャワなどで学会がある。それぞれ美しい街だが,問題はそこで何を発表するか,だ。

2007年の回顧 広告編

2007-12-31 10:52:43 | Weblog
というのは誇大広告・・・回顧というほど多くの広告を思い出せないし,事情に通じているわけではない。そこで,12/26の日経MJに掲載された,今年の「CMグランプリ」を参考にしよう。これは,企業の広告・宣伝担当者に対して行った調査に基づいている。それによると,1位が SoftBank(ソフトバンクモバイル),2位が TSUBAKI だという。有名人を何人も起用,大量の広告出稿というキャンペーンが成功したことで,露出と知名に基づく「マス」の力が再認識されたという見方もある。

上位30に入ったCMのほとんどが,電通の制作だ。博報堂と ADK はそれぞれ3つで,メディアの扱いの差をはるかに上回る差がある(その意味で ADK は健闘しているといえるかも・・・)。どうしてこんなに差が開くのか・・・いや,真のクリエイティブ力は別だという主張もあり得る。この調査は,企業の広告担当者が対象であり,当該広告のクライアントが対象ではない。世間的なインパクトが強くなくても,クライアントの評価が高ければよい。では,それはどんな基準に基づくのか?

広告効果の問題と関わり始めて四半世紀経つ(といっても,それに取り組んでいた実質的時間は限られるが・・・)。答えがあるようでない問題に,いつかそれなりの答えを出さなくてはならない・・・と最後は極私的な呟き。

2007年の回顧 世の中編

2007-12-30 17:13:19 | Weblog
今回は,2007年の世界や日本の政治と経済について大いに語る・・・何てぼくにできるわけない。世の中で起きている森羅万象に対して意見を述べる「評論家」や「ジャーナリスト」って,何てすごいんだろう。だが,そこまで広い知識を持ち,責任を持って評価を加えていくなんて,辛くないだろうか・・・そんなこと誰もできっこないのに・・・できっこないことを引き受けるなんて,勇気があるのか厚かましいのか・・・。

どんなことにも知識を持つかのようにふるまい,評価を下していく人々は,つねに存在した。特定の知的な人々にはそれができるという考え方は,政治的立場を超えて存在した。その考え方は,世間からはエリートに見える人々のなかでさえ,急速に失われている。それを端的に表すのが,今の日本の政治状況ではないかと思う。それを嘆く気は毛頭ない。だが,それに代わるものが見えないのは困ったものだ。

今年のニュースのうち「歴史的」といえるのは,参院選で自公政権が過半数を失い,衆参ねじれ現象が起きたことだろう。いまさらいうまでもなく,次の総選挙で自公が勝っても,この事態は変わらない。あと3年間は,総選挙で民主党が勝つか,大連立が出きるか,あるいはセーカイ再編成とやらで新たな多数派が形成されない限り,ねじれは続く。こうした,前代未聞の不安定な状態に,攻める側の民主党の党首でさえ立ちすくんでいるとわかったのが,大連立をめぐる騒動だ。

民主党が攻め手を欠く理由はいろいろあるが,最も深刻なのが,魅力ある首相候補の不在だろう。米国の大統領選挙には,かつてのクリントンやいまのオバマのように,無名の候補が予備選を通じて徐々に知名とカリスマ性を獲得していくプロセスがある。従来の自民党では,ミニ政党である派閥形成を通じて首相の座を目指すプロセスがあったが,いまや無力化したように見える。結局,リーダーは安倍氏や福田氏,あるいは麻生氏のような「元首相の子息」に頼るしかない。

プロの政治家が役不足となる一方,芸能人の政界進出はあとを絶たない。今年1月,そのまんま東=東国原宮崎県知事が誕生したとき,「児童福祉法並びに東京都青少年健全育成条例」違反の疑いで事情聴取され,謹慎した過去があっても当選できたことに驚いた。やはり「知名度」の高さが奏功したとは否定できない。それから1年経ったいまでも,彼はTVで引っ張りだこだ。メディアへの露出が続けば知名だけでなく好意が生じるという,古典的広告モデルが「そのまんま」成り立っている。

知名度を生み出すのは,テレビというメディアだ。政治は,ワイドショーのフォーマットで理解されるようになった。しかし,メディアで得た地位は,メディアによって奪われる。先の衆院選での自民党の大勝を象徴する小泉チルドレンは,次の選挙での公認をめぐって厳しい立場に置かれ,メディアから意地悪な視線を浴びている。民主党の参院選勝利を象徴する横峯パパや虎退治の姫は,スキャンダルでマスコミの袋叩きになった。それでも,高い知名度があることは,決して不利でないという。

知識から知名へと影響力の根拠が移行している。「ジャーゴン」で煙に巻く学者や,聞きかじりでも一応「知識」を持つ評論家の時代から,ただの感想と感情を話術で昇華させる司会者の時代へ・・・だが,単なる知名=有名性が支配する状況は,何十年も前にブーアスティン等々が指摘していたことでもある。いまさら,といえる反面,最近は「集合知」論のように,草の根の人々の知識集積に期待する見方もあったはず。

どちらが正しいかを占うのは来年早々の大阪府知事選の帰趨かもしれない。大阪府民は横山ノックで懲りているという説がある一方,ネットの世論調査では,「橋下弁護士」を「知事として好ましい」と答えた人が半数いるという。橋本氏は単なる有名人ではなく,立派な弁護士ではないか・・・という見方もあるだろう。しかし,有名人になるプロセスで彼は,「いい加減な弁護士」という役回りを引き受けているように見えた。つまり,知識より知名の人なのである。

大学のブロック化

2007-12-29 13:21:30 | Weblog
「東大と京大、早大、慶応大の4大学は25日、各大学院の学生がほかの3大学院でも研究でき、単位や学位の取得も可能になる「学生交流協定」を締結した」というニュース。背景には,教育再生会議が同一大学での大学院進学を制限する提案をしたことにあるという。こうした流れを先取りするというか,回避するというか,「気心の知れた」いくつかの大学でブロックを作り,その間で学生を流動化させようということだろうか・・・。

仕掛け人は東大だという。東大に声をかけられた大学は,ほぼ同格とみなしてもらったわけだから断わる理由はない。にしても,東大何するものぞという思いがあり,地域的にも離れた京大まで喜んで参加したのだろうか。院生が東京と京都を行ったり来たりできるとは思えない。地域的にはむしろ阪大と組んだほうがいいはずだが,そちらはむしろ眼前の敵なので,手を組まないってことか・・・だから,東工大がこのグループに入っていないのか・・・などと邪推してしまう。

東工大といえば,一橋,東外大,医科歯科大などと,相互交流協定を結んでいたはず。これら4校は,いくら都内とはいえあまりに距離が離れているから,学生はそう簡単に互いに移動できない。そんなこともあって,実質的な成果は上がっていないと聞いたことがある。学長レベルで決めた交流協定は,むしろ対外的なPRの意味が強いのだろう。いずれにしても今後,名声や地域など,様々な軸に基づき大学のブロック化が進んでいくに違いない・・・それが本来目指していた機能を果たすかどうかは別にして。

大学院生,特に博士課程にともなれば,他大学の教員の指導を受けることは,いままでだって可能であった(単位はつかないが)。ただし,双方の教員の間に一定の信頼関係があることが前提で,それは多くの場合,出身研究室が同じだとか,教員どうしが共同研究しているとか,ややクローズドな人間関係に基づいていた(大学院進学の価値とは,こうした人間関係を獲得することにある,といえなくもない)。そうした排他的なネットワークを脱して,もっと開放的でフェアなネットワークを築くことができるかどうか・・・その難しさは,正式の大学間協定がある場合でも,同じであるように思う。

「ニセ学位」で終わる一年

2007-12-28 17:48:37 | Weblog
新年会のメールが飛び交っている(ちょっと大げさか・・・)。最近,忘年会が減った分,新年会でカバーするケースが多い。新年会は,場合によっては4月でも可能。時間の融通が利きやすく,かつ前向きである(?)。午後から,卒論打ち合わせの続き。少しずつ雲が晴れてきた。種々の連絡業務をしていると,もう夕方だ。受け取った郵便物から,査読依頼を発見・・・。

今年のキーワードと聞かれて,食や住の「偽装」問題を挙げる人が多い。これにとどめを刺すのが,「ニセ学位」のニュースだろう。それによって教員の採用・昇進の決定がなされたのが全国に4校(内国立1校)・・・また教員紹介欄にニセ学位を表示していたのが46校(内国立10校)あったという。学位に偽りがなくても,「賞味期限切れ」だと非難されないようにしなくては・・・。

大学教員の採用や昇進は,本来は,学位だけでなく,研究業績を実際の論文などを見ながら決められているはず。今回問題になったケースでは,業績評価はきちんとなされていたが,学位にのみ虚偽があったのだろうか。そうでなく,学位にだまされて,能力を誤認してしまったのか。賞味期限切れの食品と同様,ニセ学位の教員がもたらす実質的被害は報告されていない。だから「怒るべき」事件というより「悲しむべき」事件といえる。

疑問に思うのは,ニセ学位を発行した海外の「大学」の名前にどれだけの権威なり信用があったかである。よー知らん大学だが,海外だからすごいんだろう,と思ったのだとしたら・・・。門外漢ならともかく,大学がそれでは困ったことになる。真の「偽装」はそのへんにありそうだ・・・。

今日届いた本と買った本

Bruno S. Frey and Alois Stutzer eds., Economics and Psychology: A Promising New Cross-Disciplinary Field, MIT Press ... Camerer らによる neuroeconomics に関する章がある。

経済セミナー,1月号 ・・・「ダイエットの経済学」特集。日本で行動経済学を推進するとおぼしき人々の小論が掲載されている。ちらちら読むと,経済学的には,ダイエットとは食に対する現在の効用と健康に対する未来の効用のトレードオフであり,そこで合理的な選択として肥満が選択されても文句のつけようがないが,それによって医療費を過大に使う人への意図せざる所得移転が起きるとしたら,政策的に介入すべき問題となる・・・と話が続く。

岩村暢子,普通の家族がいちばん怖い 徹底調査! 破滅する日本の食卓,新潮社 ・・・帯がスゴイ。養老孟司氏,驚愕! 上野千鶴子氏,震撼! 水口健次氏,瞠目! とある。各方面をしっかり押さえている。正月とクリスマスの食を「徹底調査」しているというから,正月に読むにはいい本かもしれない。

高度な手法の落とし穴

2007-12-27 23:42:08 | Weblog
久しぶりに大学に戻る。卒論の打ち合わせと,修士の学生たちの発表を聞くためだ。だが,AGFI が0.6とか0.7とかの SEM を用いたモデルが次々と発表されるのを聞いていると,いろいろ考えさせられる。どんな事情があるにせよ,生半可に「高度な手法」を使うことに,どんな意味があるのだろう・・・。

これは学生たちの責任というより,「高度な手法」を使えば「科学的」であるかのように思うステレオタイプに囚われた,大学という世界の問題だろう。ただし「高度な手法」自体には罪はない。それぞれ真っ当な要請を踏まえて開発されてきたのだから・・・。問題は,それを具体的な対象に適用する段になって,ペダンティズムが顔を出すことだ。

ペダンティズムの誘惑には誰しも屈しやすい。ぼく自身,他人のことを偉そうにはいえない。自分が指導する学生に,ここはもうちょっと「高度な手法」を使ったらどうか,などとつい口走ってしまう。それは論文を「見栄えよく」する戦略であるが,十分に理解しないで用いると,テクニカルな点で足をすくわれる危険がある。

回帰分析で決定係数が0.6~0.7でも問題はない(文句を言う人はいるだろうけど・・・)。だが,SEM の AGFI は,回帰係数における決定係数と意味が全く異なるはず。各手法には独自の発想があり,それに基づく作法がある。MBA とはいえ,「高度な手法」を使う以上それを理解しておく必要がある。さもなくば,もっと素朴な手法を積み上げていったほうが賢明だ。

post xmas

2007-12-26 23:58:22 | Weblog
某社打ち合わせ。来年は「原点回帰」の仕事も重要なポジションを占めるだろう(そこに,どんなクリエイティビティを付加できるか・・・)。新宿に向かい,お洒落なカフェでチョコレートケーキタルトを食べながら年賀状を書く(・・・ほぼ終了)。そのあと夜に,ルミネtheよしもとへ。漫才やコントを生で見るのは,実は初めて。出演者のうち,有名どころは,友近,博多華丸・大吉,だいたひかる,など・・・。客の入りは60%ほどか。

今日買った本

『カレセン』アスペクト ・・・帯に「おじさんの読む本ではありません。女子の読む本です」とある。それを無視して強行突破購入。

『MICHELIN GUIDE 東京2008』 ・・・そのときレジ横にあったので思わず購入。

merry xmas

2007-12-25 23:56:00 | Weblog
今日は某社打ち合わせ。opinion dynamics を実証的に,実務的に展開するために何をすべきか・・・という具体的議題は来年へ持ち越し。カビが生えたぼくの発想ではなく,若手の新鮮なアイデアに期待したい。いま読んでいる Scott Berkun『イノベーションの神話』は,イノベーションは天から降り注ぐ一瞬の閃きのようなものでは全くないと指摘しつつ,同時に実はアイデア創出は誰にも開かれているという。よし!

今日歩いた道筋には,Xmas を強く感じる光景は何もなかった。池袋で降りて立教のキャンパスに向かい,あの美しい Xmasツリーを見るという選択肢は,今日のぼくにはなかった。表参道や六本木にはない,生木のツリーの荘厳さが感じられる場所・・・。昨夜のテレビで,函館の山上に立てられた,カナダから届いたクリスマスツリーが紹介されていた。それは間違いなく美しいに違いない。Xmasツリーが似合うといえば長崎・・・そこにどんな美しいツリーが輝いているかに想いをはせる。

イブ

2007-12-24 22:41:55 | Weblog
2日かけて,やっと小さな原稿を一片書く。昼間,テレビで大学女子駅伝を見る。去年は,現場で観戦していた。今日の目標であった年賀状の宛名書きは全く手つかず。イブの夜,街はイリュミネーションで輝いているに違いない。

Are you Bayesian?

2007-12-22 20:00:10 | Weblog
昨日,授業が終わってから車で東京に向かうが,高速が信じられない混みようだった。予定時間の倍以上かかったため,某・忘年会に大遅刻。渋滞学の西成先生に,渋滞のため講演を聞けなかったとシャレにならない謝罪。めったにお目にかかれない大先生だけに,もっとお話すべきだったが,緊張してことばが出ない。そのあと練馬へ移動し,ギターデュオ+女性ボーカル(+ピアノ)を聞く。

今日は品川の多摩大学ルネッサンスセンターで日本分類学会シンポジウム「ベイズモデルの分類への適用について」を聞く。まず芳賀さんが,ベイジアンネットのマーケティングデータへの応用例の報告。基本はクロス表,という意味で実務家にわかりやすい方法だとは思う。だが,伝統的な統計手法に親しんだ人々に,モデルの妥当性をどう納得させるか・・・もちろん,統計モデルの妥当性だってある種の「慣例」に従って判断しているだけだから,普及していけば自ずと慣例が確立するだろう・・・。

次いで星野さんから,潜在クラス分析の最新の話題について。特に興味を引いたのが,潜在クラス数の決定に関する研究だ。BIC等で決めるとクラス数は過大になる。彼のMCMCを使った方法では,それより真のモデルを再現できる。ただし,それなりに計算時間はかかりそう。いすれにしろ,(また)Psychometrika に採択されたというから,すごい人だ。広告効果の共同研究を今後どうするかについて,少し話す。

最後に植野さんのベイズ・クラシファーに関する報告。前半はこの領域のレビューで,勉強になった。特に潜在クラスモデルで仮定される局所独立性が成り立たない場合に決定木的なアプローチをする研究に興味をひかれた。決定木のいいところは,正確さを犠牲にしてスピードを高めている点だ。理論的に優れた点が多い方法は,時間がかかりすぎることが多い。なお,この講演の後半はだんだん難しくなって,ついていけなくなった。

統計学あるいはデータ解析手法はどんどん進歩し,複雑化していく。同年齢の(日本の)マーケティング研究者としては,まだキャッチアップしているほうだ思うが,そろそろ「降りる」時期かなと思うこともある。方法の美しさもさることながら,分析「結果」の力強さにもっと目を向けたいと思う今日この頃。

修論・卒論いよいよ佳境

2007-12-20 23:38:34 | Weblog
午前中は,同僚教員が指導する学生の修論発表にコメンテータとして出席。映画の掲示板での投稿と興行収入の関係を回帰分析している。ぼく以外にコメントした2人の経済学者から出た,マーケティング研究者がなかなか思いつかない「原理主義的」質問に少々驚くとともに新鮮に感じた。発表者が,これは経済学の研究だといってしまった以上,仕方ないことだ・・・。

午後は我が研究室の卒論・修論の打ち合わせ。まず,アフィリエイト広告のエージェントベースモデルを研究するB4中澤君から,シミュレーションの進捗状況を聞く。何と,いくつかのパラメタに対する非線形な変化が生じている! これは「相転移」か! なかなかいい傾向だが,まだ繰り返し数が足りないし,バグの可能性だってある。そのへんを注意深くチェックしつつ,あとはひたすら怒涛の前進あるのみ。

そのあと,M2大沼さんと修論の打ち合わせ。化粧品コミュニティの投稿を分析して,自然派化粧品を選択する意識を探ろうという研究。テキストマイニングには,阪大松村研究室が開発したフリーウェアTTMを使用。ただ,そのあと差の検定とか回帰分析を行うと,どうも当たり前のことしか出てこない(辞書のせいもあるかもしれないが・・・)。やはり対応分析とか,さらにいえば KeyGraph とかを適用しなくちゃ面白い知見は得られないのか・・・。いずれにしろ,あとは時間との戦い。

【蛇足】4年前に研究室を開いて以来,実証分析を行った修論・卒論のほとんどは,以下の3つのデータのどれかを用いてきた:

(1)企業からご提供いただいた広義のPOSデータ,ログデータなど
(2)学内の学生を対象にした質問紙調査
(3)ウェブ(あるいは雑誌)上から採取したテキストデータ

他の研究室でも(3)を用いた研究が増えている。だが,当初期待されたほどの成果があがっているかどうか・・・が問題だ。テキストマイニングの研究の模範例から学ぶ必要がある(たとえば?・・・)。

日仏会談を終えて

2007-12-19 18:49:03 | Weblog
昨日は2週間ぶりにジムに行く。大学で会議に出たあと東京へ向かう。夜8時からMMRCで,フランスから来た二人を交えてクルマ調査の打ち合わせ。話が必ずしもかみ合わない背景には,日欧の自動車メーカーにおける,ブランドマネジメントや製品開発とマーケティングの分業の違いが根底にあるように思う。

一昨年取り組んだ,広告主-代理店関係の国際比較調査の結果をもっときちんとまとめておけばよかったと後悔する。そもそも経営現象に永遠はないから,鮮度が失われないうちに早く世に出すことが重要だ。それができないからダメなのだ。もちろん,これ以外にも,積み残している研究課題はすべて後悔の対象だ。

打ち合わせのあと,本郷の焼肉屋へ・・・酒と肉が大好きという点で日仏間に何の違いもない。フランス人の前でワインを選択することに躊躇し,ビールでスタートしたが,結局ワインを注文することになった(見事な霜降りの牛肉を前に我慢できないでしょう・・・)。彼らも気持ちよいスピードで飲む。ただし,ご飯ものには,われわれほど手は出さなかった。

朝起きると,コンタクトレンズを一つ紛失している事実を知る。そこで眼鏡屋に向かったため,午後の会議にわずかだが遅刻してしまう。来年度のマーケティングの授業に,いかにサービス・イノベーションの要素を取り入れるか・・・学生にどういう分析をさせたらいいか・・・簡単なようでいて,意外と難しい問題だと思う。

メールボックスに,湯気が立った修論が3篇入っていた。正月の宿題である。疲れた・・・ワークライフバランスのため今日は帰ろう・・・と思うが,授業の準備が残っている。学会の嵐が終わっので一息つき,この勢いが消えないうちに研究を完成させるぞ・・・とか思いつつも,次から次へと用事が出てくる。

今日届いた本

E.グメソン,リレーションシップ・マーケティング,中央経済社 ・・・著者はサービスの「北欧学派」の代表的研究者だという。他に類書がないだけに,一応買っておこうと。

上林憲行,サービスサイエンス入門,オーム社 ・・・サービスセントリック企業の代表例として,IBM,アップル,グーグルが取り上げれれている。情報工学者が考えるサービスサイエンスとは,そういうことなんだろう。

子安増生,西村和雄(編),経済心理学のすすめ,有斐閣 ・・・有名な数理経済学者の西村氏が,脳機能スキャナーを用いた神経経済学研究を報告しているのに驚く。本のタイトルが行動経済学ではなく,経済理心理学であるのは,心理学畑の著者が多いためか。

北野宏明,竹内薫,したたかな生命,ダイヤモンド社 ・・・この二人の著者を見れば,面白くないはずがないと期待させる,ロバストネスを巡る本。

ウィリアム B. アーヴァイン,欲望について,白揚社 ・・・最先端の生物学の研究を踏まえた,欲望に関する哲学書。米国図書館協会の賞も取ったという。欲望を上品にいえば選好になるのだとしたら,選好形成を研究テーマとする人間が買わないわけにはいかない。

そして,SPSSとJMPの最新バージョンも今日届いた。


Adobe いい加減にしてくれ

2007-12-17 16:36:13 | Weblog

出張から戻りPCで仕事を始めると,Adobe Acrobat が「また」ライセンス認証を求めてきた。そして「また」,オンラインで入力した内容はエラーとなり,電話で長く待たされた挙げ句の認証となる。別にシステムを変更したわけではないし,他のPCに移したわけでもない。電話に出たオペレータに文句をいうが,「はあ・・・」といって,すぐ話をそらそうとする。

苦情への対応はサービス・マーケティングの最重要テーマの一つだ。顧客の立場で,システムも個人もいい加減な会社の対応を経験しながら,クリエイティブなマーケティングばかりでなく,ディストラクティブなマーケティングについても考えなくてはと実感する。苦情はニーズを学んだり,顧客との関係を再強化する好機になるという話がある一方,現実には,ただ関係を破壊するだけのケースが多いんだろうなあ・・・。

今日届いていた本:

Ed Keller & Jon Berry, The Influentials: One American in Ten tells the Other Nine How to Vote, Where to Eat, and What to Buy, Free Press.
Nassim Nicholas Taleb, The Black Swan: The Impact of Highly Improbable, Random House


JACS@九州産業大学

2007-12-16 18:31:11 | Weblog
今朝は鹿児島本線で九州産業大学に向かう。駅からキャンパスに向かう道すがら,ここには一度来たことがあると強く感じる。それが何の学会であったか,思い出せない。多分あの学会かな…と思う候補はあるが,はっきりしない。しかし,この光景は確実に記憶している。

しばらくして共著者の芳賀さんが到着,その場で発表用のパワポを仕上げる。そして発表…グルーピング評価グリッド法で収集されたデータから,個人差を考慮した多段階の選択モデルを推測するのが目標だが,今回はその前処理として,消費者言語へのクラスタリング結果だけを報告した。

見てよかった映画と悪かった映画について,消費者は悪かったほうに「饒舌」だという結果は,あたかも「幸せな家庭は一様だが,不幸な家庭は様々である」ような事態を意味する。ある先生のコメントによれば,消費者がよりリスク回避的だからと解釈できるという。

そのほか,何人かの先生から貴重なコメントをいただく。ありがたいことだ。発表が終わった,これで一段落…とはいかないと,共著者から釘を刺される。学会で発表しっ放しというパタンに,そろそろ終止符を打たねばならない。プロジェクトの整理が来年の最重要テーマである。いや,「これからすぐ」か・・・な。

たかが同窓会,ではない

2007-12-15 23:38:22 | Weblog
博多に向かう機内で,島田裕巳『慶應三田会 組織とその全貌』(三修社)を読む。冒頭で筆者は,安倍(前)首相の弱点は,出身大学である成蹊大学の同窓生が国会内にほとんどいなかったことだという。一方,慶応卒の国会議員は,東大,早稲田に続いて3位。しかし,東大卒の首相は宮沢氏以降出ていないものの,慶応は橋本,小泉両首相を輩出している(野党党首の小沢,綿貫両氏も慶応卒だ)。確かにそうだが,だからといってなあ…というのが最初の印象。

数ある大学の同窓会のなかで,三田会は傑出した団結力を誇っている。ライバルの早稲田大学の稲門会とは全然違う。ビジネス界において,三田会の支援機能は大きいという。このへんの話はエピソードベースなので,どこまで正しいかわからない。だが,慶応の卒業生の満足度は卒業後に上がるという指摘は興味深い。具体的なメリットの有無に関わりなく,コミュニティの持つ効用があるのだろう。

面白いのが早稲田の稲門会だ。こちらは一般的な団結力はないが,海外や一部業界で,三田会との交流(飲み会やゴルフコンペ)がさかんに行われているという。早稲田OBは自分たちだけで交流するというより,慶応を媒介に交流する。早慶は競合的であると同時に,相補的であるということなのか。かつての自民党と社会党とか,巨人と阪神とかもそういう関係かもしれない(電通と博報堂はどうなのだろう…)。

最近,国立大学を含む多くの大学が同窓会組織の強化に努めている。しかし,元々福沢諭吉の思想に発する慶應三田会の組織力は,そう簡単に模倣できるものではない。そもそも創始者のどれだけ強いビジョンがあったかが問題だ。三田会に匹敵する団結力を持つのは如水会だが,その一因は,一橋大学がその出発点において一種の私学であり,創始者がいたからだという指摘は初耳で新鮮だった。

ということで,最終的にはこの本を面白く読んだが,しょせん自分には関係のない話。夜,メールをチェックすると,高校の同窓会からの案内状が届いていた。いかなる権力や権威とも無縁な,ちっぽけな同窓会…。だが,地下に「秘密結社のような」東京三田倶楽部があるという帝国ホテルで開催される。その瞬間は,同じ空間にいるということだ。

今日,博多駅前で買った本:

『タビリエ福岡』JTBパブリッシング
『天神ウォーカー』
スコット・バークン『イノベーションの神話』オライリー・ジャパン
橋本健二『新しい階級社会 新しい階級闘争』光文社

「旅」には2種類の活字が必要だ。