田中洋『ブランド戦略論』は500ページを超えようとする大著である。したがって、簡単に読み通すことはできないが、拾い読みするだけでもその価値が伝わってくる。嘘だと思う人は本屋で本書を手にとってパラパラめくってほしい。この本を一言で評するなら、ブランド戦略に関して現時点で最も包括的で、かつ挑戦的な本だということになる。
本書がどれほど包括的かは、ブランド戦略に関する話題を何か思い浮かべ、本書でどう扱われているかを調べればわかる。私の見た限り、その守備範囲はかなり広い。定番的な話題に加えて、一般によく知られていない(もちろん私も知らない)最近の話題が多数紹介されている。それらを深く知るための参考文献のリストも、かなり充実している。
その意味で、本書はブランドに関して何らかの研究を行うとき、まず当たってみるべき百科全書的な本といえる。しかし、それだけではない。本書の後半には、日本で活動する企業の事例がなんと30も掲載されている。理論より事実に興味がある実務家にとって、あるいは実務的な教育を目指す教員にとっても、本書は役に立つ情報源となる。
一方、本書が挑戦的だと私が思ったのは、最初の数章がブランドについての原理的考察に当てられていることにある。そこでは交換という概念をめぐってマルクスが参照され、沈黙交易についての文化人類学の議論が参照されるなど、著者の教養の深さが示される。先史時代から現代に至るブランドの歴史が概観される章も、純粋に読んで面白い。
本書を「著者の永年のブランド研究の集大成」と呼ぶのは、いまなお精力的に研究中の著者に対して不適切だろう。長年の研究成果を体系的な書物として残したいと願う研究者は少なくないはずだが、本書を一瞥すれば、それがそう簡単ではないことも実感できる。その意味で、本書はマーケティング研究者に1つの模範を示したといえるだろう。
ブランド戦略論 | |
田中洋 | |
有斐閣 |
本書がどれほど包括的かは、ブランド戦略に関する話題を何か思い浮かべ、本書でどう扱われているかを調べればわかる。私の見た限り、その守備範囲はかなり広い。定番的な話題に加えて、一般によく知られていない(もちろん私も知らない)最近の話題が多数紹介されている。それらを深く知るための参考文献のリストも、かなり充実している。
その意味で、本書はブランドに関して何らかの研究を行うとき、まず当たってみるべき百科全書的な本といえる。しかし、それだけではない。本書の後半には、日本で活動する企業の事例がなんと30も掲載されている。理論より事実に興味がある実務家にとって、あるいは実務的な教育を目指す教員にとっても、本書は役に立つ情報源となる。
一方、本書が挑戦的だと私が思ったのは、最初の数章がブランドについての原理的考察に当てられていることにある。そこでは交換という概念をめぐってマルクスが参照され、沈黙交易についての文化人類学の議論が参照されるなど、著者の教養の深さが示される。先史時代から現代に至るブランドの歴史が概観される章も、純粋に読んで面白い。
本書を「著者の永年のブランド研究の集大成」と呼ぶのは、いまなお精力的に研究中の著者に対して不適切だろう。長年の研究成果を体系的な書物として残したいと願う研究者は少なくないはずだが、本書を一瞥すれば、それがそう簡単ではないことも実感できる。その意味で、本書はマーケティング研究者に1つの模範を示したといえるだろう。