Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

プロ野球ファンクラブ比較研究

2014-06-30 09:09:25 | Weblog
面白いことを考える人がいるわけで、本書の著者は、日本のプロ野球全球団のファンクラブに入り、その特典やファンとのコミュニケーションを比較するという偉業を10年にわたって実行した。本書はその集大成である。

各球団の CRM 活動としてのファンクラブは、球団によって異なるし、年々変化してもいる。そこで垣間見える各球団の戦略のちがいが面白い。球場で応援するのとは別の楽しみが、ファンクラブ加入によって得られる。

著者は東京生まれだが長年ヤクルトを応援している。しかし、全球団のファンクラブに入ることで、各球団へそれなりの親しみがわいてくる。巨人の金満的なファンサービスも、受益者になると好意へとつながっていくようだ。

プロ野球12球団ファンクラブ全部に10年間入会してみた! ~涙と笑いの球界興亡クロニクル~
長谷川晶一
集英社

「わが」カープについては、一般向けのファンクラブの設立が他球団より遅かったり、特典がアイデアに満ちているがややプアであったり(著者はこれを「カープ・クオリティ」と呼ぶ)、あまり高くは評価されていない。

しかし、先ほどいったように、各球団のファンサービスはめまぐるしく変わっている。ファンクラブが相互に比較されることで、各球団のファンサービスの質が高まっていくなら、日本のプロ野球全体の発展につながる。

・・・とまあ、肩肘を張らなくても、プロ野球好きには十分楽しめる本である。


【拙著のご紹介】
マーケティングの基本的枠組みを押さえつつ、最新の実践や研究を紹介する入門書です。自分なりに、現在のマーケティング研究の最前線と課題を整理しました。

これからマーケティングについて本格的に学びたい方、すでに知識や経験を持つ実務家、マーケティングとの境界領域の研究者にも読んでいただきたいと願っています。

マーケティングは進化する
-クリエイティブなMaket+ingの発想-
水野 誠
同文館出版


JIMS@関西学院大学

2014-06-23 14:09:01 | Weblog
21、22日は関西学院大学で開かれた日本マーケティング・サイエンス学会(JIMS)研究大会に参加した。美しいキャンパスの広すぎる教室に、ぱらぱらと聴衆が座っている。そのアンバランスに、一抹の寂しさを感じる。

時刻を間違えて遅刻したが、今回の目玉の1つは、筑波大学の西尾チヅル先生の「環境マーケティング」に関するチュートリアルだろう。正しいテーマを選び、一貫して追い続ければ、価値の高い研究が生まれることを教えられた。

自分はといえば、2日目の朝一番、阿部誠、新保直樹両先生との共同研究を発表した。Twitter 上の影響伝播を分析したもので、昨年長崎で発表した内容を発展させたもの。今回はフォロワーに焦点を当ててモデル化している。

この研究で面白いのは、インフルエンサーの影響を受けるフォロワーの比率は限られるが、初期に活性化させるインフルエンサーの選択(seeding)を適切に行うと、かなり大きな効果が得られるという結果にある。

それはさておき、今回、ビッグデータということばをあちこちで耳にした。そして、ビッグデータの興隆は、マーケティング・サイエンスにとって好機であるとともに、脅威であるとということを考えさせられた。

ビッグデータを強く意識した発表としては、東北大学の石垣司先生らの「変分ベイズ法」を用いた研究があった。MCMC などより高速に計算できるので、ビッグデータの分析に相応しい手法だということである。

ただ、討論者の中島望先生は、選択モデルの枠組みを踏襲していないこと、コメントに立った星野崇宏先生は、変分ベイズ法に一致性がないことが統計学者に不評で、代替的手法が検討されていると指摘されていた。

中西正雄先生の「個人データによる小売吸引力の測定」に対する片平秀貴先生のコメントで、個人の移動や買物行動を捕捉したビッグデータが、新たな研究フロンティアを生み出していると指摘されたのも印象に残る。

そこで気になるのが、こうしたデータに、既存の確率モデルなり選択モデルをうまく適用できるか、だ。そうしたモデルは、限られたデータしかない時代に、強い仮定をおいて情報を汲み取ろうとする工夫のようにも思える。

不完全だが詳細なデータが溢れる時代には、モデルを緻密にすることより、Googleの自動翻訳技術のような、データ量を生かした力業が効果を発揮するかもしれない。自分流には、それも一種のボトムアップなアプローチである。

つまり、豊富な事例に「自ら」語らせるというアプローチだ。結局は、データやモデルに何を期待するか次第だが、大きな発想の転換を求められているのは確かだろう。ともかく、具体的に何をやってみるしかない。


Marketing Science Conference@Emory

2014-06-21 10:31:03 | Weblog
本日から日本マーケティング・サイエンス学会が関西学院大学で始まるが、先週参加した国際学会、INFORMS Marketing Service Conference のことを書いておこう。場所はアトランタの郊外にあるエモリー大学である。

実は、何年か前にも、この大学でこの会議が開かれている。そのときは、ランチがリンゴとパンだけだったとか、ホテルから炎天下歩いて行くのが大変だっとか、いい思い出がない。しかし、今回は気候も食事も問題なし。

下の写真のような回廊で各フロアを移動しながら、マーケティング・サイエンスの最新の研究動向を、主に social media、social influence というテーマを中心に拝聴した。このテーマ、例年のごとく、大変人気である。



この学会では、特に若手研究者は(必要以上にかどうかはともかく)自分が超高度な手法の使い手であることを競いがちなのだが、そうしたなかで(自分の個人的嗜好で)清涼剤のように爽やかな発表に出会うこともある。

それは、適切にしてシンプルなモデル・手法を使って、データから明快なパタンを導き出したような研究だ(自分の研究については棚に置く)。あるいは、現状は到達していなくても、大きなビジョンを掲げた発表とか。

ピッツバーグ大学のステファン氏の「フェイスブック・ゲノム・プロジェクト」は、ブランドページを大量に収集してエンゲージメントに影響を与えるパタンを見いだそうとするもの。タイトルが野心的で素晴らしい。

分析結果は、いろいろなパタンがありそう、というもので、そんなに明快ではない。進行中の研究でもあるし、今後に期待したいところ。一方、大量データを用いて、それなりに面白い発見をしている研究もある。

ペンシルバニア州立大学のリン氏の「ファッション学」という発表では、デザイナーブランドのウェブページを大量に集めて記述の類似性からネットワークを作り、掲載の時間的順序で「影響」の方向を推定している。

そうして作られた巨大な有向ネットワークから、最も影響力のあるデザイナーを推定、それはラルフ・ローレンだという。発表者はコンピュータ科学者だが、モデルの経験もあって、このテーマで研究しているという。

こうしたデータリッチな研究がいくつかあるものの、全般にはモデルリッチな研究が多い。自分の偏見を抑制すれば、それはそれで素晴らしいものがあって、そんな手法があるのかと勉強になったことは確かである。

最近、この学会の楽しみの一つは、米国で活躍する日本人研究者にお会いすることだ。今回は NYU の石原さん、バークレイの鎌田さん、あまりお話はできなかったがイェールの上武さんとお会いすることができた。

いずれの方も、バックグラウンドは産業組織論だったりゲーム理論だったり、つまり最先端のミクロ経済学だ。こうした分野からのマーケティングへの参入、あるいはモデルの輸出は、今後いっそう進むだろうと思う。

最後の時間に、慶応大学の院生である郷さんたちの発表を聴いたが、堂々たる発表で、日本の若手研究者の将来に不安はないことを実感した。問題は・・・そろそろ国際学会に疲れ気味の、自分のなかにあるようである。

この学会は、来年はジョンスホプキンス大学、再来年は何と上海復旦大学で開かれる。中国系の研究者の多さを考えると、上海での開催は不思議ではない。日本からの参加者は、そのときはいつもより多いのだろうか・・・。