Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

2009年総選挙:「歴史的」という意味

2009-08-31 18:45:12 | Weblog
総選挙の結果,民主党が308議席を獲得して大幅な単独過半数。メディアの世論調査どおりの結果で,アナウンスメント効果はなかったということに。非自民党政権の誕生は細川内閣以来16年ぶりで,野党第一党が総選挙で過半数をとって政権交代するのは戦後初である。したがって,この出来事を「歴史的」瞬間と呼ぶことができる。

といっても,議会制民主主義の国で政権が交代するのは当たり前のことだ。当たり前のことが起きて,それを歴史的だというのは,本当は情けないことである。しかし,一度これを経験すれば,今度政権交代が起きたときに,歴史的だといって騒ぐことはなくなる。その意味で,この出来事は,日本における歴史的な瞬間なのである。

開票速報の序盤,与党の大物・有名議員が次々小選挙区で敗退していくのを見て,まるで「革命」が起きたような感じがした。これまで権勢を誇った政治家たちが民衆から石を投げられている・・・。しかし,しばらくすると彼らは続々と比例で復活し始めた。結果として,自民党の当選議員たちの顔ぶれが変わったという感じがしない。

与党議員の多くが,負けたのは「風」のせいだという。よくわからない力に吹き飛ばされたが,そんなものは長続きしない,いずれ変わる,というわけだ。一方,民主党側は,これは地殻変動だという。そう捉えている自民党議員も少数ながらいるのは救いだ。逆風のときこそ,自分の責任を問えというのが世阿弥-片平先生の教えである。

これが本当に歴史的瞬間であったどうかは,これから様子を見ないとわからない。新政権はマニフェストに盛られた公約を逐次実行するというより,最も重要なことを一つか二つ実現すれば十分歴史的といえる。多くの有権者は,それは官僚制度の改革だと思っているはずだ。もちろん,そのスケールは大きすぎて,とても想像がつかない。

戦後初めて起きた出来事なのだから,これまでの経験則が使えない。しかし,日本人は経験のないことをするという選択した。つまり,国自体のイノベーションをするのだと。これまでの自分の人生にないことは信じないと考えるか,これまでないことだからこそ新たに経験したいと考えるか。その間で揺らいでいる人は少なくないはずだ。

LGS6@筑波大学 再訪

2009-08-30 13:26:21 | Weblog
土曜の早朝,つくばに向かう。午前中は Simulation and fMRI Studies on Human Cognition and Social Phenomena というセッション。和泉さんの人工ファイナンス市場,秋山さんの進化ゲーム理論は,もはやぼくにとってなじみ深いテーマである。秋山さんの研究は「リーダーシップの創発」を扱う。コーディネーションゲームの利得行列が所与とされているが,それもまた進化で創発されるところまでいけば,なおうれしい。

このセッションで新鮮に感じたのが,認知科学者である奥田先生による Memory and Prospection of the Brain: Implications for Decision-making という発表だ。経験からの学習を強調する帰納的ゲーム理論は,認知科学や脳神経科学の立場から見て同意できる点が多いという。で,今回の発表でも,人間が行なう未来の予見が過去の経験の記憶と深く関連していること,そのことを支持する fMRI の解析結果などが示された。

お昼のパネルディスカッションでは,金子先生が Exploring New Socio-Economic Thought for a Small and Narrow Earth と題する問題提起を行ない,社会学者の盛山和夫氏らがコメントするという趣向。金子先生は社会全体の最適性といったレベルで考えるのではく,アフリカ等の極度な貧困の克服を考えるべきだという。理論としては,Hobbes-Einstein の社会契約理論を提案する。ぼくがふだん考えたことがない big question だ。

昼休み,旧知の三宅さん(東北大)と「ふくむら」で食事。昔話+近況について話す。

午後は Inductive Game Theory and Related Topics セッションを聴講。元同僚,石川さんによる A Simulation Study of Learning a Structure: Mike's Bike Commuting では,シミュレーションのアルゴリズムがわかりやすく説明されたので,帰納ゲーム理論の意図するものがより明確に理解できたと思う。A. Mitra, An Analysis of Discrimination in Festival Games with Limited Access からは,この理論の応用可能性が伺える。

夜,つくば駅の周辺はお祭りでものすごい人手であった。その喧噪をよそに,片隅で?元同僚たちといろいろ意見交換する。分野を超えて意見交換したり,共同研究を推進したりする風土を,いまとなっては大変貴重なことに感じる。
 

差別化のモデルと手法

2009-08-29 17:54:51 | Weblog
昨日まで,日経の「やさしい経済学」欄に清水大昌氏による「『ゲーム理論』で読む立地政策」が連載されていた。最終日には,経済学あるいはゲーム理論の「立地モデル」が製品差別化を分析するツールとして今後も有望であることが語られていた。確かにこの理論が重要な出発点になるとは思うが,いろいろ不満もある。ともかく,この連載はこの分野の研究がどのように進んでいるかがコンパクトにまとめられていて,参考になった。

最初に紹介されるのは,いうまでもなくホテリングの立地モデルだ。一次元空間上で競争する複数の店舗がどこに出店するのがゲームの解になるか。これを政党間の競争に応用したのがダウンズのモデル。いずれのモデルでも,自己利益を追求する競争の結果,お互いが同じ位置に立地する。政党でいえば,お互いの主張が全く同じになってしまうわけだ。今回の総選挙で各党が出した政策を比較すると,そうした傾向を見出せなくはない。

企業や政党の差別化競争の結果,互いの差異がなくなっていくという結論がつねに成り立つわけではない。ダウンズのモデルの設定を少し修正し,同じ政策を訴えた場合カリスマ性のある政党が勝ってしまう,ただし惜敗率が高いとある程度の議席を確保できる,という設定にすると,カリスマ性に欠ける政党は,少し違う政策を打ち出すことが最適になるという。こういう新しい知見が紹介され始めるにつれ,この連載が面白くなってくる。

さらに,企業は一次元空間上の立地を決め,それに基づき価格を決めるという2段階の意思決定(それを合わせて利益最大化する)とすると,相手との差異を最大にする(つまり空間の端っこに)立地することになるという。一方,立地を決めたあとで数量を決める(価格は市場全体の需給を均衡させるように決まる)という設定も考えられている。この場合,競争する企業が製品ラインを構成して対峙する状況を分析できるという。

つまり,空間的競争モデルは,均衡では製品の差異がなくなるという結論がすべてではない。そうでない現実が存在する以上,それを説明するようモデルが拡張されてきた。では,こうしたモデルが差別化競争の実態を十分にで捉えているといえるだろうか。ぼくにとってしっくりこないのが,空間が所与であり,固定しているという設定だ。企業や政党は,この空間をどう自分に有利に変えるかをめぐって競争しているのではないか。

そういう観点での研究がすでにあるかどうか。

マーケターにとっては,消費者が選択を行なう「空間」の計測が課題となる。だが,調査データに因子分析等々を行なえば,それができる・・・というのは,素朴すぎる考え方だと思う。それはある時点の空間でしかない。しかもそれは,企業や政党が差別化しようとする軸や,消費者がそれに依拠して最終的な選択を行なう軸を正しく反映していないかもしれない。それを捉えるには,汎用的な統計ツールだけでは不足だと思う。

つくばラーメンめぐり

2009-08-28 01:38:40 | Weblog
昨日までつくばに3日間滞在したが,毎日ラーメンを食べにいった。まず,到着次第向かったのが「いっとく」だ。ふつうのラーメン+トッピングのキャベツを注文。以前も書いたが,ここのラーメンには中毒性の物質が入っているかと思うぐらい,クセになる味だ。しかし,それをどう形容していいかわからない。ことばにできなくても強い選好は形成されるということだ。

次に訪れたのが「Ben-Bella」。前回つくばを訪れたとき見つけられなかったが,今回はある方の助言ですんなり発見。つい見過ごしてしまいそうな大人しい店構えだ。この店は「トマトラーメン」で有名なのだが,今回は少しフェイントして「冷やしトマトラーメン」を注文した。トマトソースのミートスパゲティ風冷やしラーメンであった。今度は温かいのを頼もう。

かつての通勤経路にあった「戎(えびす)」。スープやトッピングがキメ細かく上品な味わい。ガテン系よりはファミリーに愛される,草食系ラーメンというべきか。ここも「いっとく」と並んで,ぼく的にはつくばを代表するラーメン屋である。ここでのイチ押しはつけ麺である。ただし,揚ニンニクの粉末がなくなったのは残念。あれがかなりの目玉だったんだが・・・。

最後に「青葉」のつくば店に行った。中野本店の有名店だが,つくばでしか行ったことがない。汁そばとつけ麺しかなく,いずれも美味しいが,もう少しバラエティがあってもいいのにと思う(せめてトッピングがいろいろ選べるとか)。ともかく今回はつけ麺を注文。なお,関係ないが,同じビルの Bonne Sante という酒屋の品揃えは素晴らしい。三軒茶屋にもあるらしい。

かつて学生に,つくばでうまいラーメン屋を聞いたところ,サイエンス通り沿いのいくつかの店の名前が挙がった。いずれもこってりさや量が売り物で,ぼくのような中年には向いていない。

ふつうに考える人間が出てくるゲーム理論

2009-08-27 22:59:58 | Weblog
LGS62日目。Kline 先生の「帰納的ゲーム理論」のチュートリアルを聞きながら,その考え方はきわめて自然なものだなと思う。人間は自ら経験したことから学び,ときには忘却しながら,限られた認知能力を用いて意思決定する。このいわば当たり前の前提を,厳密なゲーム理論に展開していくという驚き。記号論理学を用いた論証にぼくは正直歯が立たないが,行動経済学や進化経済学とはまた違う(しかしその精神においてどこかつながるような)新しい社会科学の息吹を感じる。
もっとも,この会議でもほとんどの報告が,伝統的なゲーム理論のパラダイムにしたがっている。じゃないと,論文が書けないでしょ,ということかもしれない(ぼく自身も,別の文脈で似たようなことをいった記憶がある・・・そういったわりには,たいして書いていないわけだが。
ネットを検索したら,この理論の創始者である金子先生が早稲田大学で行なった講義録が見つかった。また,啓蒙的な書物として下記の本を忘れるわけにはいかない(ぼくも数年前に読んだ)。ゲーム理論や経済学の門外漢には難解なので,amazon の書評は否定的なものが多い。標準的な理論を効率よく学んで単位を取りたい学生(あるいは論文を書きたい研究者?)には不評ということか。一部ニックネームに紛らわしい偽名?を使った書評もあり,惑わされてはならない。

ゲーム理論と蒟蒻問答
金子 守
日本評論社

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明日は大学で月末までに処理すべき仕事に取り組む。さっさとすまして,LGS 最終日に再び聴講に行きたい気がするが,果たして・・・。

LGS6@筑波大学(つくば)

2009-08-26 21:51:27 | Weblog
昨日からつくばに来ている。約半年ぶりである。目的は,Logic, Game Theory, and Social Choice を聴講すること。何でお前が? といわれそうだが,自分でも不思議に思っている。いくつかの偶然が重なり,不可逆的にそうなったというしかない。会場は「懐かしい」大学会館。3トラックあって,いずれもゲーム理論や社会選択理論の発表が行なわれている。ただし,大会委員長である金子守先生の意向を反映してか,Limited Cognitive-Inferential Abilities and their Behavioral Consequences が強調されている。単に Bounded Rationality としていない点が「深い」。

最初に,Interactions among monkeys, humans and programs というセッションに出る。藤井(理研),飯塚(阪大),池上(東大)の各先生が,相互作用を生じていかに社会的ルールが生成されるかを,実験やシミュレーションを通じて探求した結果を報告。藤井氏は猿を使って,お互いの優越関係を反映した行動ルールが創発されることを示す。飯塚氏は行動ベースのチューリングテストにおける試行錯誤の重要性を指摘。池上氏は,ゲームの相手に対する多様なメンタルモデルが同等の予測精度で形成されることをシミュレーションで示す。

これまでのゲーム理論が,しばしば相手の利得(選好)に関する理解やゲームのルールを所与・固定的なものとして扱ってきたのに対して,それらがエージェント間の相互作用から創発されるプロセスを問う。こうした考え方を厳密に定式化したものが,帰納的ゲーム理論(inductive game theory)なのだろう。自分に理解できるか半信半疑ながら Jeffrey Kline 氏によるチュートリアルを聞いたが,その輪郭がおぼろげながらわかってきたような気がする。より具体的なイメージをつかむには,明日の午前中に予定された「実験」の報告を聞く必要があるようだ。

ところで,上述の藤井先生には下記の著作があることが,あとでわかった。実はすでに購入済みなのだが,まだ読んでいない。

つながる脳
藤井 直敬
エヌティティ出版

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ロングテールな広告

2009-08-24 23:46:46 | Weblog
クリス・アンダーソンの『ロングテール』の改訂版邦訳書を読む。「マーケティングのロングテール」という章が追加されている。そこで紹介される主なエピソードとアンダーソンの解釈が興味深い。

・GMシボレーのSUV「タホ」のキャンペーンで,消費者にCMを作らせるというコンテストをウェブ上で実施した。シボレーはビデオクリップや音楽を素材として提供,参加者は画像編集ソフトを使ってCMを作る。多数の作品の応募があり,それらの閲覧者の数も膨大であった。しかし,そのなかにはタホを揶揄した,ネガティブな作品が相当数含まれていた。

・デルのカスタマーサービスのひどさに憤慨した有力ブロガーが,その一部始終を「デル地獄」と題してブロクで公開したところ,膨大な数のアクセスと被リンクがあった。このことはマスメディアでも話題になった。これに気づいたデル・コンピュータは当人に謝罪するとともに,創業者が復帰してカスタマーサポートの改革を行なった。しかし,いまだに検索すると,この事件の情報が出てくる。

・マイクロソフトは独立したソフト開発者のなかであまり人気がない。これを打破するために,社内のある開発者が,実際のソフトの開発プロセスをビデオカメラで撮影し,動画をウェブで公開した。多くのアクセスがあったにもかかわらず,会社の公式見解と違う発言をする社員が現れたり,企業機密に触れる恐れもあったりして,社内の各部門から猛反発があった。

これらのキャンペーンが成功したかどうかの判断は,評価指標しだいである。シボレーとマイクロソフトのキャンペーンは,消費者間で波風を立てることで,ポジとネガの2つの感情をともに引き起こしている。しかし,いずれにしても大きな関心を呼び起こし,少なくとも一定数のファンを活気づけたことは間違いない。つまり,日本語に訳すのが難しいといわている,provocative なコミュニケーションだと呼ぶことができる。

たとえ規模は限られようと,熱狂的な顧客を獲得・維持できたなら,それは成功とみなすべきである。ただし,それがどれぐらいの確度で起きるのかは,従来以上に予測が難しい。なぜなら,これはキャンペーンといっても,顧客や従業員が参加し,そこで何を発言するかにかかっている。それを事前にコントロールできないし,そうしようとすると反発を招く。計算不能な不確実性をそのまま引き受ける態度が望まれる。

ロングテール(アップデート版)―「売れない商品」を宝の山に変える新戦略 (ハヤカワ新書juice)
クリス アンダーソン
早川書房

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アナウンスメント効果はいかに

2009-08-22 23:08:19 | Weblog
先週1週間,大学は一斉休業。この土日は研究棟が停電。まだ夏休みモードのなかにある感じだが,8月末までの課題を考えると,そうのんびりはしていられない。芸能界の麻薬騒動はそろそろ落ち着き始め,高校野球は準決勝へ,世界陸上は明日で終わる。総選挙は30日の投票日まであと1週間,ぼくの目の届かないところで,熱い戦いが繰り広げられているのだろう。

3日前にコメントしたクチコミ@総選挙の予測結果は,それを見たときは少し現実離れしているように感じたが,その後出た新聞各紙の世論調査の結果を見ると,そうでもないようだ。

「民主」300議席超「自民」100議席台 朝、毎、読、日経4紙世論調査

なお,この記事で紹介されている,今週実施された世論調査の結果を要約すると,以下の通り。
毎日新聞・・・ 民主党:320議席を超す勢い,自民党:100議席を割り込む
読売新聞,日経新聞・・・ 民主党:300議席を超す勢い
朝日新聞・・・ 民主党:300議席台をうかがう勢い
こういう結果になると,当然アナウンスメント効果が問題になる。つまり,報道された世論の動向を見て,勝ち馬に乗ろうとしたり,逆に負けそうなほうを応援しようとする投票行動が出てくるのではないか,と。朝日新聞社が発行する Journalism 誌での専門家による座談会では,その効果がどちらに働くかは一概にいえず,また,事後的にその効果を検証することすら困難だという。

確かに統制実験のような厳密な因果関係の検定はできないにしろ,選挙期間中の態度変容を同一個人から定点観測できれば,アナウンスメント効果の状況証拠をつかかめるかもしれない。もっとも, Journalism 誌に紹介された世論調査の現場を考えると,そうした負担の大きい調査に協力する有権者から得られた回答には,バイアスがかかっていてもおかしくない。

Journalism 8号

朝日新聞出版

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複雑系として社会を見る立場では,アナウンスメント効果を含む,コミュニケーションがもたらす態度変容こそ興味深いテーマだ。何とかそこを分析できないかと思う。したがって,調査対象者に選択バイアスがあるとしても,社会的相互作用による態度変容(選好の形成や変化)に接近するという目的に照らして,上述のような定点観測調査は次善といえるのではないだろうか。

とはいえ,パネル調査にはそれなりの費用がかかる。そこで1つの簡便法として,ネット上で個々のブログの論説がいかに変遷したかを追跡するのはどうだろう。しかし,選挙期間中,自分の率直な政治的態度を何回も書き込む人がどれだけいるだろう。いたとしても,強固な政治的信念の持ち主だとしたら,書き込みはプロパガンダなので,この研究に対象には向いていない。

もちろん,この選挙の結果がいま出ている世論調査の結果とさほど変わらないことになれば,そのアナウンスメント効果はそう大きくなかったことになる。どうであるかは,約1週間後にわかる。

さて,クチコミ@総選挙の予想(8月22日時点)を眺めて,個人的に驚かされた例を挙げると―

・茨城県で小選挙区は自民党全滅・全員民主党 ・・・かつての住民としては信じられない。

・東京都で,小選挙区1位となる自民党の候補者は3人。そのなかで11区の下村博文氏の予想得票率が大きく 60.66%。一方,同じ区に新党日本から出ている,ジャーナリストの有田芳生氏の予想得票率が3.88%。幸福実現党や共産党に比べても,1桁小さい数字だ。一定の知名度がある候補であり,ちょっと信じられない。

・神奈川県でも自民党全滅。2区の菅義偉氏,11区の小泉進次郎氏,15区の河野太郎氏といった「大物」が小選挙区で落ちることになり,各種メディアの予測とは全く異なる。大方の予測に反して,クチコミ@総選挙の予測が的中することになれば,この方法はすごいということになる。

・注目選挙区の1つ,静岡7区では片山さつき氏(自民党)38.93%,斉木武志氏 (民主党) 33.3%,城内実氏(無所属)20.0% という予測。メディアの予想では,郵政造反組の城内氏が優勢であったはずだが,かなりの差で3位とは意外。

・前回の選挙では,堀江貴文氏の立候補で話題を呼んだ広島6区。ここは小島敏文氏(自民党)が 56.58% であるのに対して,カメイ静香氏(国民新党)は 8.72% で4位!これは正直,信じられない。クチコミのテキスト処理で,カメイと亀井を同義語扱いできなかったせい?

ネット上のクチコミだけで予想しているのだから,予測がうまくいく地域といかない地域があっても不思議ではない(その地域における CGM の活発度が影響する?)。他方で,通常の世論調査には乗りにくい若者の声を,この手法ならうまく拾ってくれる可能性もある。予想の当たり外れで,その地域のコミュニケーション特性がわかる,という副産物があったりして。

新聞・TVは消滅する?

2009-08-20 16:55:22 | Weblog
物心ついてから,ほぼ途切れなく新聞を購読している。最近でもほぼ毎日,最低1時間はテレビを見ている。そういう立場からすると,新聞・TVが消滅する,といわれても実感はない。しかし,現在進行する技術や経済システムの変化がどのような環境を生み出すのか,そこでメディアはどうなる可能性があるかと問われると,そういうシナリオを考える価値はあると答えるしかない。

佐々木俊尚氏は新著で,今後確実に危機を迎えるのが新聞メディアだと述べている。米国では新聞社の経営危機が現実のものとなっているが,それは対岸の火事ではない。ニュースの配信において,新聞はもはやネットに代替されるしかない。しかし,だとしたらネットでの課金をうまくやれば,新聞社は生き残れるのではないか?ところが,そんな考えは甘いと佐々木氏は指摘する。

その点,TVのほうがまだ可能性があるという。映像コンテンツ制作への参入はそう簡単ではないし,さまざまな視聴形態に合わせた裾野の広いビジネス機会があるからだ。では,TV局が安泰かというと,「編成権」を視聴者に移行させる技術トレンドが存在する以上,そうはいかないと佐々木氏は見ている。映像コンテンツに大きな可能性がある以上,どんな競争が起きるかわからない。

2011年新聞・テレビ消滅 (文春新書)
佐々木 俊尚
文藝春秋

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ひろゆき(西村博之)氏の本は,「テレビはもう死んでいる」というタイトルが検討されていただけあって,テレビ放送に関して多くのページが割かれている。インターネットの世界で成功した著者ではあるが,テレビメディアの価値をそれなりに高く評価している。ただし,現在はあまりに高コスト体質であり,縮小した広告需要に適合した,ダウンサイジングが必要だと示唆している。

本書の後半にある,日テレの土屋敏男氏との対談が面白い。土屋氏は「第2日本テレビ」の経験に基づき,映像コンテンツのネット配信は,少なくとも当面は地上波と一体化した形の広告モデルしかないと述べるのに対して,ひろゆき氏はそれには将来性がないとして,課金モデルを主張する。この対談を通して両者の言い分が全く歩み寄らないのが,この点である。

僕が2ちゃんねるを捨てた理由 (扶桑社新書 54)
ひろゆき
扶桑社

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マスメディアの危機という議論は,ぼくが広告業界に入った1980年代にもあった(当時の「論争」が佐々木氏の本に紹介されており,懐かしく感じられる)。景気が回復したら元に戻るのか,いよいよ本格的な変革期に入るのか。どれほど急激かは別にして,大きな変化が起きる可能性を否定できない。それに適合する研究の準備として,Complex09 などを位置づけてみたい。

eクチコミで選挙を予測

2009-08-19 18:01:27 | Weblog
ネットのクチコミ情報から,総選挙(小選挙区のみ)の議席数を予測するという試みを,ホットリンクが公開している:

クチコミ@総選挙

毎日予測が更新されており,現時点の数字は,民主党255議席,自民党40議席となっている。ここには比例区の数字が入っていないので,それを含めると,民主党は300議席を軽く超える議席数になる。小選挙区制のもとでは,得票数が僅差でも議席数が大差になる可能性がある,とはいっても,驚きの予測結果だ。

ネット上の「世論」では自民党支持の傾向が強いといわれてきた(たとえばニコニコ動画の調査)。ということは,民主党関連のクチコミが量的に多いとしても,その大半がネガティブな内容であったとしても不思議ではない。内容のポジ/ネガを考慮しても,民主党支持を示唆するクチコミが多いことから,こうした予測が出てきたのだろうか?

あるいは,内容のポジ/ネガは関係なく,クチコミの量自体が支持率と相関しているのだろうか?(過去にそういう研究を読んだことがある) この予測は,東京大学の松尾豊,末並晃両氏の研究に基づいており,すでにいくつかの地方選挙に適用された経験があるとのことである。ぼくが考えつくようなことは,ほぼすべて手が打たれているに違いない。

現時点の予測値が,今後どう推移していくかも興味深い。投票日に向けて,ネット上のクチコミの量が増加するだろうし,世論の中身も変化するだろう。それにつれ,予測値は実現値に収束していくだろうか。それとも,何らかのバイアスを残すのだろうか。どういう選挙区において特に予測がうまくいくか。公表予定とされるレポートが楽しみである。

総選挙後,このシステムが高い予測精度を挙げたことがわかったら,相当な費用をかけて世論調査や出口調査を実施している(はずの)メディア各社には衝撃かもしれない。もちろん,世論調査には長い歴史があり,その方法論は深く考えられており,そう簡単に新しい方法に取って代わられることはないだろう。そもそも目的が少し違うともいえる。

同じ日,たまたま本屋で以下の雑誌を見かけた。「世論調査を調査する」という特集で,鈴木督久さん他,この分野の専門家たちの座談会や論考が載っている。非常にタイムリーな企画だ。新聞社と世論調査,これからどうなっていくのか,第三者ながら(だから?)興味津々だ。さらにいえば,調査の方法論を超えた大きな枠組みの変化についても。

Journalism 8号

朝日新聞出版

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大学ランキングの多元化

2009-08-17 12:35:44 | Weblog
大学のランキングといえば「偏差値」だが,それだけで受験生たちが大学を選択しているわけではない。早稲田,明治,法政を選ぶ学生と,慶応,立教,青学を選ぶ学生はかなりの程度異なっているはずだ。大学としても,生き残りのためには偏差値を上げるという垂直的差別化以上に,独自の個性をつくるという水平的差別化が重要になる。

この本はさまざまな指標を取り上げる。最初に紹介されるランキングは「事務職員力」。全国の大学の事務局長に相互評価してもらったものだが,トップは立命館大学で,ダントツに評価が高い。研究者の論文(被引用)数でも学生の就職状況でもなく,この指標を最初に持ってきた点が興味深い。確かにスタッフの力が最重要かもしれない。

大学ランキング2010 (週刊朝日進学MOOK)

朝日新聞出版

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学生の満足度については多くの項目が用意されているが,全体に国際基督教大学が図抜けている。他方,高校(進学校)の進学指導教員が学生に勧めるのは,東京大学(100%!)と東北大学(74.5%)が群を抜く。使用満足度以上に「所有」満足度があるということか。東北大が他の帝大を大きく引き離している点が注目される。

教員の研究成果を論文で評価するならば,全体に東大・京大の一人勝ちのように見える。しかし,被引用数を論文数で割った指数(論文の質を表す)で見ると,分野によってさまざまな大学が顔を出す(ただし,すべて理工系)。つまり,優秀な研究者は分散しており,そこを研究拠点に大学の多峰化を図る可能性が伺える。

文系にとっては,メディア発信度が重要な指標かもしれない。これは全国紙の書評に取り上げられる,全国紙の文化欄や総合雑誌に寄稿する,といった活動を数量化したもの。ランキングでは東大がダントツで,京大,慶応,早稲田と続く。明治大学は7位に入っているが,斉藤孝先生の個人的貢献が非常に大きそうである。

研究によって大学に貢献するには,国際的に一定レベル以上の論文誌に投稿・受理されるか,新聞の書評に取り上げられるような著書を書くしかない。現在のぼくは,前者の基準ではわずかな数字しかなく,後者の基準では完全にゼロである。死後評価されればいいのだ,と開き直るにしても,何か書いてなきゃそれもない。

ちなみに女性ファッション誌に学生が何人登場したかというランキングもある。明治大学は24位。上位は神戸女学院,青学,慶応,成城,立教,成蹊で,そこに負けるのは仕方ない。しかし法政,駒沢,早稲田の後塵を拝しているのはどうか。逆に「質実剛健」ぶりを訴求するという路線も考えられるが,どうかなあ・・・。

iPod の成功要因を50分で学ぶ

2009-08-15 12:06:35 | Weblog
米国のドキュメンタリー専門TV局,ディスカバリーチャンネルで放映された iPod の成功を描いたドキュメンタリー。話は,スティーブ・ジョブズのアップルへの復帰から始まる。iMac の成功で一息ついたものの,その後の iPod の成功なしには,今日のアップルの繁栄はないだろう。このドキュメンタリーでは,P2Pソフトのナップスターをめぐる騒動で,アップルないしジョブズはデジタル音楽市場の将来性に気づいたことになっている。SONY が本格的に参入していなかったことも重要な要因になったという。

ディスカバリーチャンネル アップル再生: iPodの挑戦 [DVD]

Happinet(SB)(D)

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絶好の市場機会を見出したアップルは,ジョブズの神話的なリーダーシップのもと,猛スピードであの傑出した新製品を作り上げる。証言台に立つのは,いくつものアップル本の著者たち,新聞記者,アップルの元社員など。iPod はファッションになるだけでなく,時代の文化的アイコンとなり,強いロイヤルティを生み出す。ジョブズの華やかさに目を奪われるだけでなく,ユーザ側の行動にも目を向ける必要があるが,以下の本が参考になるかもしれない(それぞれ著者たちが番組に登場してコメントしていた)。

Sound Moves: Ipod Culture And the Urban Experience (International Library of Sociology)

Routledge

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下のような「カルト」な方もいらっしゃるわけで(笑)

The Cult of iPod

No Starch Pr

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こういうことに,マーケティングサイエンスは何ができるんだろう? というのが,ここ数年強く思うことだが,なかなか糸口を見出せない。

 

不思議の国の商学部

2009-08-13 20:54:50 | Weblog
「商学部」に籍をおくようになり,もうすぐ1年を迎えようとしている。商学部(School of Commerce)という存在は,欧米でも100年近い歴史があるという。農学部があり,工学部があるわけだから,狭義には商業,広義には第3次産業に対応する学部として商学部がある,と理解すればいいのだろうか。

商学部にマーケティングや流通論があるのはわかる。商学部=経営学部という通念からすれば,経営学や会計学があるのも理解できる。だが,交通論,貿易論,保険論,証券論といった科目には初めて出会った。それらを交通経済学や国際経済学,あるいは金融経済学と一緒くたにするのは,経済学的偏見だろう。

商学が何であるかは,商学の各分野を広く学んだことがない,商学部出身ではない教員にはわかりにくい。しかし,各専門のさわりを簡単に解説してくれる本があれば,一種模擬的にそれを経験できる。同僚の先生たちが数年前にまとめた以下の本は,本来は受験生向けとはいえ,こんなぼくにも役に立つ本だ。

これが商学部!

同文舘出版

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ぼくが最も気に入ったのは「世界が注目するドイツ車の魅力とは?」というタイトルが掲げられた「経営学」の章だ。ドイツの自動車メーカーに焦点を当て,企業提携戦略,ブランド戦略,生産管理,コーポレートガバナンス,労使関係を論じていく。ふだん,日米の企業しか視野に入っていないことが多いだけに興味津々だ。

ドイツ車が,優れたテクノロジーとクラフトマンシップに支えられ,強固なブランドを築いていることは,いまさらいうまでもない。しかし,その背後にある経営の仕組みは,さほど知られていない。労働組合の経営参加など,ドイツ的経営システムは,米国を模範に日本企業が追求してきたものとはかなり異質な部分がある。

社会民主主義的な国家体制のもとで,企業がグローバルな競争力を持続させていることの秘密が何であるかは,今後の日本にとっても参考になるかもしれない。ドイツ経営学などと聞くと古くさいイメージがあるが,最新の経営理論も踏まえた,現代的な視点でのドイツ流の製品開発やブランディングを研究がないものかと思う。

さて,この本の続編が出るという。著者はある程度入れ替わって,実はぼくもその1人になっている。いくつか,上述のような面白い章が消えてしまうので,興味のある方はいまのうちお買い上げいただければと思います。

日本人による最初の重厚なマーケティング教科書

2009-08-10 22:52:36 | Weblog
日本人によるマーケティングの教科書は多数存在するが,コトラーに匹敵する包括的な教科書はなかった。そのことは,いわれて初めて気がつく「市場の空白」だったが,ついにそれを埋める本が登場した。小川孔輔『マーケティング入門』は,数々の良書を生んできた日本経済新聞社のマネジメント・テキストシリーズの1冊として,今後代表的なマーケティングの教科書になるだろう。

マネジメント・テキスト マーケティング入門
小川 孔輔
日本経済新聞出版社

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もちろん,この本の意義は分厚いことや,日本人によって書かれたことにあるだけではない。すばらしいのは,日本企業のマーケティング行動に関していわゆる「事例」にとどまらず,一歩踏み込んだ実証研究の結果を数多く盛り込んでいることだ。著者やその研究室の研究に加え,辻中俊樹氏や梅澤伸嘉氏のような,コンサルタントの著作からの引用が含まれている。

本書の冒頭で著者は「日本企業のマーケティング実践を、理論的な枠組みの中で整理して語り継ぐという伝統を、日本の研究者集団が醸成できなかった」と指摘する。この本はその課題に応え,日本の実証的マーケティング研究の集大成にもなっている。残念なのは,そこで(狭義の?)マーケティングサイエンスの存在感が薄く感じられることで,研究者はその現実を直視すべきだろう。

日本の事例を使うことは日本の学生にとってだけでなく,日本の研究者にとっても有用だ。日本企業のマーケティングに他にはない優れた側面があるのなら,それらを研究することには学問的な価値がある。これは,米国企業ほど米国流のマーケティング理論に忠実に実践し,高い成果を収めているという見方と対立する。そのどちらの立場につくかで,研究の方向性は変わってくる。

これから日本における標準的なマーケティングの教科書として,コトラーではなく,オガワを学生たちに薦めていきたい。しかし,まずこの本を読むべきは,日本企業のマーケティングの実状に必ずしも通じていない,マーケティングの教員ではないかと思う。その意味では,コトラーの教科書と同様,マーケティングに新しい現実が生じるごとに,この本が改訂・拡充されていくとうれしい。

それにしても,このように理論と実例,研究と実務のバランスのとれた教科書を執筆できる著者の力量には感服する。以前,著者から,ぼくらはそんなに年齢は変わらないと指摘されたことを思い出す。確かに「半周」ほどの差でしかない。ぼくはあと何年経ってもここまでの本を書けないが,自分の講義を本にまとめたいという気持ちもある。もちろん講義の中身を確立することが先決だが。

政党「温度」と決定延期

2009-08-08 17:31:09 | Weblog
計量政治学に「感情温度」という概念があることを,以前このブログに書いたことがある(あれこれ)。以下の読売新聞の記事に「政党温度」なるものが出てくる:

自民評価、やや持ち直し…読売ネット調査

それは「各党の評価を0~100度の「温度」で表現してもらう「政党温度計」(50度を超えればプラス評価)」というもの。感情温度とほぼ同じと考えられる(ただし,感情温度について詳しく書かれた文献が見つからない)。今回の調査結果では,いずれの政党の温度も,ここ数年上昇している。だから,議席にどう結びつくのかわからないが,どの党の支持者も「燃えている」ということだろう。

記事は,この1ヶ月ほどの「温度変化」について「民主党0・8度、自民党2・2度と自民党の方が大きかった」という。だから「自民評価、やや持ち直し」という見出しになるのは,さすが読売新聞だ。もっとも,グラフに不思議な非線形変換を施すよりは,ましかもしれない。なお,テレビの視聴時間と民主党への投票意向に正の相関があるという。新聞購読率との関係はどうなんだろう?

「温度」という絶対尺度で測られた選好を,どう選択に結びつければいいだろうか?上の例のようにすべての選択肢の温度が上昇している場合,投票率が上がるということか。選択という行為に参加する確率が増える=決定の延期が減るということだとしたら,まさに今回行動計量学会で発表した研究に結びつく。まあ,こじつけかもしれないが,こじつけもまた創造の源ということで。