Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

文化資本とクリエイティブ資本

2017-05-29 18:09:16 | Weblog
5月19日、慶応大学三田キャンパスで開かれた SCP-JACS Collaborative Conference に参加した。SCP とは Society for Consumer Psychology で国際的な消費者心理学会、JACS とは Japan Association for Consumer Studies で日本の消費者行動研究学会、両者の合同会議が初めて開かれた。

SCP 側の参加者には、Jeffrey Inman、C.W. Park、Andrew Stephen といった有名な研究者が含まれている。2つのセッションが並行で用意され、1つは心理学より、もう1つはマーケティングよりの発表で構成されたとのこと。教室が違う建物なので、発表ごとに行ったり来たりすることはできない。

消費者行動・消費者心理学系の国際会議に出たことがなかったので、どんなものかに興味があった(在外研究中には、その種の発表を何度か聴く機会はあったが)。案の定、いくつも研究(実験)を積み重ねて1つの発表とするものが多い。使われる分析は分散分析一本、という時代ではないようである。

モバイル・クチコミを取り上げた発表がいくつかあった。モバイルほど発言が情動的になるというのはともかく、モバイルからのレビューは本人の努力のシグナルになるのでより効果がある、という話は一見無理がある。しかし、そこを納得させる怒涛の論証ができるのが、超一流の証しなのだろう…。

翌日の JACS で行われた招待講演では、Inman、Park 両氏がこれからの消費者研究は、「理論」より「問題」や「現象」の面白さを重視すべきだと主張されていた。要は面白い問題設定をしろよ、ということでそのとおりだが、一方で理論がつまみ食いされた研究が量産されるのもどうかな、と思う。

さて、自分はそこで以下のようなタイトルの発表をした。

Creative-Class Consumers: The Effects of Newly-Defined Social Class on Consumer Behavior

所得、学歴のような基本的な社会階層の変数に社会資本、文化資本、さらにはクリエイティブ資本と名付けた変数を加え(それらは緩やかに相関しているが、多重共線性の問題はない)、消費者のイノベイティブ度(画期的な新製品・サービスの所有や利用程度)やオピニオンリーダー度を説明する。

社会資本や文化資本は先行研究を参考にして数量化した。クリエイティブ資本は、職業威信スコアを参考に職業クリエイティブ度を測定、それに基づき本人職業がクリエイティブか、クリエイティブな職業への人的ネットワークがあるか、クリエイティブな職業に就きたいかなどで数量化した。

クリエイティブ資本の変数には、職業のクリエイティブ度の自己評価値も加えた。これらに消費者のイノベイティブ度やオピニオンリーダー度の違いを回帰させると、文化資本、クリエイティブ資本(の一部)の係数がかなりのケースで有意になった。問題は、ここから話がどう進むかなのだが…。

方法論に問題が多いことにも、発表準備や発表の過程で気づくことができた。これは発表の機会を得たおかげといえる。ともかく、いろいろ学ぶことの多かったこの国際会議、運営の労をとられた諸先生には感謝とともに尊敬の念を抱かざるを得ない。なお、再来年にも2回目が開かれるという。

*以下の写真を撮影いただいた寺本高先生にも感謝!