スティーブ・ジョブズについて書かれた本は多数あるが,彼以外のアップル経営陣,また社員について書かれた書物は少ない。同社の秘密主義が徹底しているからだが,長年アップルを取材してきた著者は,アップルの退職者や取引業者を取材して,その真空を埋めようとしている。
本書が描き出すアップルの組織,その背後にある戦略は,予想通りかなりユニークだ。それはある目的を遂行するために,最も効率的に,最もシンプルに作られている。その目的を一言でいえば,新しいユーザ体験を世のなかに送り出すことだ。その使命が何よりも優先されるのである。
したがって,社員たちは強烈なプレッシャーのもと,死ぬほど働かされる。能力と成果により徹底的に選別される。その結果,同社を去る人々が当然出てくるが,辞めたあと悪口をいう者は少ないという。つまり,人生のある時期アップルに属した経験の価値が大きいということだ。
彼らが文句をいわないのは,もともとアップル製品のファンであったからだろう。つまり,この会社が従業員や取引業者にいかに傲慢であったとしても,掲げた使命を追求している限りにおいて,やむを得ないことと思うしかない。つまり特命を帯びた秘密部隊のような企業ということだ。
こういう組織が,特にカリスマの死後どれだけ持続するかは大変興味深い。本書でもそれが論じられているが,明確な答えは出されていない。それより重要な問いは,アップルが実現したような「価値創出」を,他の組織でも一定期間実現できるのか,そのためには何をすればいいか,である。
アップルの製品開発や広告-広報戦略についても,それぞれ章を立てて詳しく書かれている。アイザックソンによる伝記と並んで,いまの時代を生きようとするマーケターが熟読すべき本だと思う。ある変わった会社の稀少例が,凡百の事例や統計分析などよりはるかに価値が高いことがある。
インサイド・アップル | |
アダム・ラシンスキー | |
早川書房 |
本書が描き出すアップルの組織,その背後にある戦略は,予想通りかなりユニークだ。それはある目的を遂行するために,最も効率的に,最もシンプルに作られている。その目的を一言でいえば,新しいユーザ体験を世のなかに送り出すことだ。その使命が何よりも優先されるのである。
したがって,社員たちは強烈なプレッシャーのもと,死ぬほど働かされる。能力と成果により徹底的に選別される。その結果,同社を去る人々が当然出てくるが,辞めたあと悪口をいう者は少ないという。つまり,人生のある時期アップルに属した経験の価値が大きいということだ。
彼らが文句をいわないのは,もともとアップル製品のファンであったからだろう。つまり,この会社が従業員や取引業者にいかに傲慢であったとしても,掲げた使命を追求している限りにおいて,やむを得ないことと思うしかない。つまり特命を帯びた秘密部隊のような企業ということだ。
こういう組織が,特にカリスマの死後どれだけ持続するかは大変興味深い。本書でもそれが論じられているが,明確な答えは出されていない。それより重要な問いは,アップルが実現したような「価値創出」を,他の組織でも一定期間実現できるのか,そのためには何をすればいいか,である。
アップルの製品開発や広告-広報戦略についても,それぞれ章を立てて詳しく書かれている。アイザックソンによる伝記と並んで,いまの時代を生きようとするマーケターが熟読すべき本だと思う。ある変わった会社の稀少例が,凡百の事例や統計分析などよりはるかに価値が高いことがある。