4月29日、コロンビア大学で開かれた Four-School Conference を聴講した。4校とはコロンビア、NYUスターン、ウォートン、イェールの経営大学院で、各校からマーケティング教員が一人ずつ最新の研究を発表する。会場は持ち回りで、昨年は NYU で開かれた。
最初にイェールの Aniko Oery 助教が、Collective Branding の研究を発表。これは、ワインの産地とか企業ブランドのような複数ブランドを上位「ブランド」で括る戦略である。こうした戦略の違いで評判均衡(reputation equilibrium)がどう変わるかが解析される。
何らかの上位ブランドがあると、その評判に低品質の個別ブランドが「ただ乗り」するインセンティブが生じ得る。企業と消費者が合理的に自己利益を追求した結果、低品質の均衡に陥るかどうかが検討される。つまりこれは、ゲーム理論に基づく、理論的研究なのである。
次いで報告に立ったのは、NYU の Eitan Muller 教授、普及モデル研究の大御所である。取り上げられたのはスマホ・アプリの「フリーミアム戦略」だ。フリーミアムとは、無料の普及バージョンと有料のフルバージョンを組み合わせた価格戦略としてよく知られている。
最初に市場データを一瞥したのち、フリーミアム戦略が利益を最大化する条件が解析される。つまり最初の2つの発表は、合理的な経済行動の帰結を探求する、ミクロ経済学的な研究といってよい。米国のマーケティング・サイエンスでは、それが主流になっているようだ。
3番目の報告は、一転して被験者実験を積み重ねる消費者行動(CB)の研究だった。報告者はコロンビア大学の Donald Lehmann 教授、彼も大御所の一人である。そこで取り上げられる Decision Confort という概念は、「決定における心地よさ」と訳せばよいのだろうか。
これは意思決定において、このへんで決めてしまおうと感じさせる、ソフトでポジティブな感情だという。それは意思決定における自信(confidence)とは違う。自信がなくても心地よく意思決定することはあるからだ。この概念が今後どのように発展していくか注目したい。
最後はウォートンの Ron Berman 助教で、レコメンデーションの効果をベイズ・ルールで信念を形成する消費者を仮定して解析する。それによれば、過去の購買履歴の類似性に基づくレコメンはニッチな製品については顧客の効用を高めるが、売れ筋については逆効果になる。
この研究も最初の2つの研究と同様、ミクロ経済学的なモデルに立脚している。違うのは実験による経験的な検証まで行っている点だ。いずれにしろ、要因と結果の統計的関係を把握するだけでなく、市場の現象を合理的行動の結果として理解しようとする流れに沿っている。
日本のマーケティング・サイエンスも早晩そのような流れに追随すべきか、あるいは別の道を行く(孤立する?)べきか、いずれにしろそれを選択するのは、これからの研究を担う若手研究者であろう。それはともかくコロンビア大学の構内には、まだ春の風景が残っていた。
最初にイェールの Aniko Oery 助教が、Collective Branding の研究を発表。これは、ワインの産地とか企業ブランドのような複数ブランドを上位「ブランド」で括る戦略である。こうした戦略の違いで評判均衡(reputation equilibrium)がどう変わるかが解析される。
何らかの上位ブランドがあると、その評判に低品質の個別ブランドが「ただ乗り」するインセンティブが生じ得る。企業と消費者が合理的に自己利益を追求した結果、低品質の均衡に陥るかどうかが検討される。つまりこれは、ゲーム理論に基づく、理論的研究なのである。
次いで報告に立ったのは、NYU の Eitan Muller 教授、普及モデル研究の大御所である。取り上げられたのはスマホ・アプリの「フリーミアム戦略」だ。フリーミアムとは、無料の普及バージョンと有料のフルバージョンを組み合わせた価格戦略としてよく知られている。
最初に市場データを一瞥したのち、フリーミアム戦略が利益を最大化する条件が解析される。つまり最初の2つの発表は、合理的な経済行動の帰結を探求する、ミクロ経済学的な研究といってよい。米国のマーケティング・サイエンスでは、それが主流になっているようだ。
3番目の報告は、一転して被験者実験を積み重ねる消費者行動(CB)の研究だった。報告者はコロンビア大学の Donald Lehmann 教授、彼も大御所の一人である。そこで取り上げられる Decision Confort という概念は、「決定における心地よさ」と訳せばよいのだろうか。
これは意思決定において、このへんで決めてしまおうと感じさせる、ソフトでポジティブな感情だという。それは意思決定における自信(confidence)とは違う。自信がなくても心地よく意思決定することはあるからだ。この概念が今後どのように発展していくか注目したい。
最後はウォートンの Ron Berman 助教で、レコメンデーションの効果をベイズ・ルールで信念を形成する消費者を仮定して解析する。それによれば、過去の購買履歴の類似性に基づくレコメンはニッチな製品については顧客の効用を高めるが、売れ筋については逆効果になる。
この研究も最初の2つの研究と同様、ミクロ経済学的なモデルに立脚している。違うのは実験による経験的な検証まで行っている点だ。いずれにしろ、要因と結果の統計的関係を把握するだけでなく、市場の現象を合理的行動の結果として理解しようとする流れに沿っている。
日本のマーケティング・サイエンスも早晩そのような流れに追随すべきか、あるいは別の道を行く(孤立する?)べきか、いずれにしろそれを選択するのは、これからの研究を担う若手研究者であろう。それはともかくコロンビア大学の構内には、まだ春の風景が残っていた。