Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

Four School Conference@Columbia U

2016-04-29 22:15:28 | Weblog
4月29日、コロンビア大学で開かれた Four-School Conference を聴講した。4校とはコロンビア、NYUスターン、ウォートン、イェールの経営大学院で、各校からマーケティング教員が一人ずつ最新の研究を発表する。会場は持ち回りで、昨年は NYU で開かれた。




最初にイェールの Aniko Oery 助教が、Collective Branding の研究を発表。これは、ワインの産地とか企業ブランドのような複数ブランドを上位「ブランド」で括る戦略である。こうした戦略の違いで評判均衡(reputation equilibrium)がどう変わるかが解析される。

何らかの上位ブランドがあると、その評判に低品質の個別ブランドが「ただ乗り」するインセンティブが生じ得る。企業と消費者が合理的に自己利益を追求した結果、低品質の均衡に陥るかどうかが検討される。つまりこれは、ゲーム理論に基づく、理論的研究なのである。

次いで報告に立ったのは、NYU の Eitan Muller 教授、普及モデル研究の大御所である。取り上げられたのはスマホ・アプリの「フリーミアム戦略」だ。フリーミアムとは、無料の普及バージョンと有料のフルバージョンを組み合わせた価格戦略としてよく知られている。

最初に市場データを一瞥したのち、フリーミアム戦略が利益を最大化する条件が解析される。つまり最初の2つの発表は、合理的な経済行動の帰結を探求する、ミクロ経済学的な研究といってよい。米国のマーケティング・サイエンスでは、それが主流になっているようだ。

3番目の報告は、一転して被験者実験を積み重ねる消費者行動(CB)の研究だった。報告者はコロンビア大学の Donald Lehmann 教授、彼も大御所の一人である。そこで取り上げられる Decision Confort という概念は、「決定における心地よさ」と訳せばよいのだろうか。

これは意思決定において、このへんで決めてしまおうと感じさせる、ソフトでポジティブな感情だという。それは意思決定における自信(confidence)とは違う。自信がなくても心地よく意思決定することはあるからだ。この概念が今後どのように発展していくか注目したい。

最後はウォートンの Ron Berman 助教で、レコメンデーションの効果をベイズ・ルールで信念を形成する消費者を仮定して解析する。それによれば、過去の購買履歴の類似性に基づくレコメンはニッチな製品については顧客の効用を高めるが、売れ筋については逆効果になる。

この研究も最初の2つの研究と同様、ミクロ経済学的なモデルに立脚している。違うのは実験による経験的な検証まで行っている点だ。いずれにしろ、要因と結果の統計的関係を把握するだけでなく、市場の現象を合理的行動の結果として理解しようとする流れに沿っている。

日本のマーケティング・サイエンスも早晩そのような流れに追随すべきか、あるいは別の道を行く(孤立する?)べきか、いずれにしろそれを選択するのは、これからの研究を担う若手研究者であろう。それはともかくコロンビア大学の構内には、まだ春の風景が残っていた。




NHK大河「真田丸」のお伴に

2016-04-24 00:01:21 | Weblog
私の Twitter タイムラインでは、(日本時間で)日曜夜となると NHK大河ドラマ「真田丸」に関するツイートが多い。かくいう私も、日本から半日遅れでテレビジャパンの「真田丸」を視聴している。その魅力の1つは、草刈正雄が演じる真田昌幸の機会主義的行動の面白さであろう。

とはいえ、真田家を取り巻く諸大名の関係、加えて地理的な関係はわかりにくい。真田のジオポリティクスは、地図を見ながらでないと理解できない。その意味で「真田丸」の時代考証も務める丸島和洋氏による「図説」を手元に置いておくと、ドラマの理解が格段に深まるのである。

図説 真田一族
丸島和洋
戎光祥出版

この本は、中学あるいは高校時代に用いた日本史の副読本を思い出させる。真田家に関わる歴史が、ふんだんに掲載された地図、家系図、当時を伝える史料の写真などカラーの画像で語られる。丸島氏の解説も、この時代・地域を専門とする歴史学者としてのウンチクが満載で楽しめる。

『1からの消費者行動』

2016-04-11 13:14:40 | Weblog
消費者行動論の教科書はすでに多く出版され、本ブログでも紹介してきた。たとえば、2012年には守口・竹村先生青木・新倉・佐々木・松下先生の教科書が出版され、昨年は田中先生の教科書が改訂された。消費者行動論を教える教師にとっては、どれを選択するか悩ましいことだろう。

より本格的な教科書には、昨年刊行されたマイケル・ソロモンの教科書がある。この分野を極めたい読者には格好の書物だが、量的にも価格的にも一般学生には手を出しにくい。ところがソロモン本の訳者たちが、新たによりコンパクトで読みやすい教科書を執筆した。それが本書である。

1からの消費者行動
松井剛,西川英彦
碩学舎

小石川家という仮想的な4人家族のエピソードを通じて、消費者行動論の基本的な話題が解説されていく。ソロモンの単なる概説書ではなく、著者独自の視点も反映されているという。となると、この本はソロモンの教科書へ導く補完品なるのか、それともより手軽な代替品になるのかが気になる。

おそらく学部の一般的授業では本書を、ゼミや大学院で消費者行動なりマーケティングを専門とする人はソロモンを、という棲み分けになるのだろうか。いずれにしろ、消費者行動論については次々によい教科書が出るが、マーケティング・サイエンスについては・・・などと思ってしまう。