Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

JAFEE20@東大・本郷

2016-03-27 12:02:35 | Weblog
3月26〜27日は東京大学本郷キャンパスで開かれた進化経済学会(JAFEE)第20回大会に参加した。今回は、3つの併行セッションがある国際会議も同時開催され、Alan Kirman を始めとする国際的に著名な研究者が招待された。国際色豊かな、華やか大会であった。



国際会議での発表の多くはエージェントベースモデル、複雑ネットワーク、経済物理学などに関するものであった。これらの流れに沿った研究がこの学会で近年活発かというと必ずしもそうではない。今回、1つの学会のなかに2つの違う世界があることを実感した。

そうした2つの世界を、必要以上に対立的に捉えるべきではないかもしれない。ただ、どちらが evolving かは明白だろう。データ解析やシミュレーションによる経済科学の受け皿にならないなら、当然そこで淘汰圧が働くだけのことだ。学会もまた進化から無縁ではない。

Complex Economics: Individual and Collective Rationality (The Graz Schumpeter Lectures)
Alan Kirman
Routledge

今回、私は国内会議のほうで「クリエイティブな仕事とクールな消費~社会関係資本・文化資本・消費行動」と題する報告を行った。社会階層を多次元的に測定し、何が一般的な消費意識やブランド選好、イノベーションへの態度に関係しているかを統計的に分析する研究である。

階層を規定する要素として、所得や階層意識以外に、学歴、社会関係資本、文化資本、そしてクリエイティブ資本などを考えた。多くの消費意識の差異を説明しているのは、社会関係資本・文化資本(これらは1つの因子を構成した)と(広義の)クリエイティブ資本であった。

セッションには5、6人の聴講者しかいなかったが、10分近くいろいろ質問やコメントをいただいて、気分よく発表を終えることができた。粗削りな分析ではあるが、これを精緻化するよりは、湯気が立っているうちに投稿したほうがいいかもしれない。問題は時間である。

小林至氏の『スポーツの経済学』

2016-03-04 00:39:16 | Weblog
著者の小林至氏は、東京大学からドラフトでロッテに入団した元プロ野球選手であり、またソフトバンクホークスの球団幹部として活躍されたこともあり、プロ野球ファンの間では有名である。現在は江戸川大学で教鞭をとる小林氏が、スポーツビジネスに関して概説したのがこの本だ。

小林氏は、プロ野球選手を引退した後米国にわたり、コロンビア大学でMBAを取得している。しばらく米国で働いていたこともあって、米国のプロスポーツやメディアの事情に詳しい。もちろん、本書ではオリンピックや欧州のサッカービジネスなど、広範な領域をカバーしている。

スポーツの経済学
小林至
PHP研究所

しかし、何といっても、ホークスの幹部であった彼が、日本のプロ野球の成長戦略をどう描いているかが興味深い点である。なぜ米国のメジャーリーグは、日本と比べて人口比以上に成長しているのか。テレビメディア市場の違い、自治体と球団の関係など、教えられることが多かった。

小林氏は1リーグ制論者で、ホークスに招かれたのも、そのことで巨人のオーナーであった渡辺恒雄氏の知己を得たことがきっかけになっているという。小林氏は日本のプロ野球をサッカーのような縦型のリーグ組織にして、アジアでの決勝大会を上位に置く仕組みを構想している。

そのことへの賛否はおいて、プロ野球ビジネスの現場に長く身を置き、ホークスの経営的な成功に関わった著者の発言には説得力がある。もちろん、カープファンの自分としては、別のかたちの成長戦略を模索したい。そのためのヒントになる情報も、本書で見出すことができる。

最後に私事になるが、気鋭の研究者たちと私が分担執筆した「プロ野球研究書」が数ヶ月後に刊行される予定だ。そこではファンの心理と行動、また選手の人事管理や球団の財務会計が扱われる。小林氏の著書が経営者目線だとしたら、その本はファン目線の本といえるかもしれない。