Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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Senataxin変異は眼球運動失行を伴う失調症(AOA2)を来たすとは限らない

2005年03月17日 | 脊髄小脳変性症
CHARCOT-MARIE-TOOTH DISEASE, PROGRESSIVE ATAXIA, AND TREMOR(OMIM #214380)という遺伝性疾患が1980年に報告されている.この疾患はFrench-Canadianの大家系に認められたもので,神経学的には進行性の小脳失調,振戦,四肢遠位部の筋萎縮を認める.表現型としてはAOA1(ataxia-oculomotor ataxia 1;aprataxin欠損症),AOA2,SCAN1(spinocerebellar ataxia, autosomal recessive, with axonal neuropathy type 1)およびCMTに一部類似するとも言える.ちなみにAOA2は,小脳失調,眼球運動失行,およびAFP上昇が特徴的で,発症はAOA1よりやや遅い.原因遺伝子は昨年同定されsenataxinと命名された.Senataxin遺伝子変異は,ヘリカーゼ活性の障害またはRNA processingの障害によって神経変性を引き起こすと推測されている.
今回,French-Canadianの10家系に対する連鎖解析の結果がカナダより報告された.計24症例の表現型は均一で,2~20歳で発症(平均14.8歳),失調,振戦,構音障害,眼振,四肢筋力低下・筋萎縮,DTR低下,深部覚低下はほぼ必発だが,眼球運動失行は1例もなし.痙性もなし.連鎖解析の結果はAOA2と同じ9q34の遺伝子マーカーとの間に連鎖不平衡を認め,Senataxin遺伝子のdirect sequenceしたところ,4つの遺伝子変異を同定し,うち2つは報告のない新規ミスセンス変異であった(L1976R,E65K).L1976Rはcarrier chromosomeの85%(17/20)を占め, French-Canadian家系において最も頻度の高いfounder mutationであることが判明した.以上の結果は,senataxin遺伝子変異がFrench-Canadianの家系に見られる疾患の原因遺伝子であったことを明らかにしたとともに,senataxin遺伝子変異イコールAOA2とは限らないことを示している.
実はこれ以外にもsenataxin遺伝子変異は,昨年6月に若年発症ALS(ALS4)の原因遺伝子として同定されている(Am J Hum Genet 74; 1128-35, 2004).ALS4は常染色体優性遺伝を呈し,四肢遠位部の筋力低下・筋萎縮を主徴とし,錐体路症状を呈する.25歳未満で発症するが生命予後は良い(健常人と変わらない).ALS4を呈する遺伝子変異は3種類知られているが,AOA2や今回のFrench-Canadian家系で認められた変異とは異なる.いずれにしてもsenataxin遺伝子変異によって引き起こされる疾患の表現型は様々であり,中核症状は四肢遠位部の筋力低下・筋萎縮で,そこに変異の種類によって小脳失調や眼球運動失行などを合併しうるということなのであろう.いずれこれらの疾患を包括する概念としてsenataxinopathy (?) などという表現も使われるのかもしれない.文献を検索した限り本邦からの報告例はないが,表現型が多様であることから診断は難しいかもしれない.

Ann Neurol 57; 408-414, 2005

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脊髄小脳変性症8型(SCA8)のはずが多系統萎縮症(MSA)だった !?

2005年03月16日 | 脊髄小脳変性症
SCA8は1999年,ミネソタ大のRanumらのグループが報告したSCDで,13q21におけるCTG repeatの異常伸長より発症すると言われる(このグループはZNF9遺伝子におけるCCTG repeat伸長により発症するMyotonic dystrophy type 2; MD2も報告している).この論文によると,正常アレルは16~91 repeat(16~37 repeatで99%を占める),伸長アレルは107以上.常染色体優性遺伝形式をとり(ただし原著8家系のうちADは5家系,ARは2家系,1家系は孤発とバラバラ),発症年齢は18~65歳(平均39歳),歩行障害や球麻痺症状が初発症状になる.進行が遅いのが特徴とされるが,重症例では40~50歳代で歩行困難になる.疾患重症度とrepeat数は相関するという.本邦でも複数の報告例がある.
ただ当初よりこの疾患の存在については反論が相次いでいた.①健常者にもCTG repeat伸長を認めること(遺伝子変異と表現型がsegregateしない),②遺伝形式が不明瞭であること,③精神疾患の中にCTG repeat伸長を示す者がいて,この遺伝子変異のみでは必ずしもSCDを引き起こさない,などである.
今回,さらにSCA8の存在に疑問を投げかける症例が報告された.米国在住の56歳男性で,53歳時に構音障害と小脳失調にて発症した.またインポテンツなど自律神経障害も認めた.進行性の経過であったが,商業ベースの遺伝子診断(おそらくAthena社)の結果,SCA8遺伝子が145/28と伸長しており,SCA8と診断した.この患者は発症4年目に自殺,剖検の結果はMSAにcompatibleであった.著者らは遺伝子変異と小脳失調の関連が明らかになるまで,SCA8遺伝子診断は利用すべきではないと述べている(結構,怒っている感じがする).
最近,RanumのグループはSCA8の遺伝形式については”complex inheritance with extremes of incomplete penetrance”と述べ,CTG伸長を認めながら発症しないケースについては浸透率を増加させる環境因子や遺伝的因子の存在を想定し,実際にハプロタイプ解析の結果を報告している(Am J Hum Genet 75; 3-16, 2004).かなり混沌としてきたが,少なくともSCA8の確定診断は伸長ではなく,慎重に行うべきであろう.
余談だがRanum女史にラボに来ないかと誘われたことがある.MD2がScienceに掲載された時期のことだが,そんなこともあってSCA8とMD2の話題には関心がとてもある.

Ann Neurol 57; 462-463, 2005

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シャルコー・マリー・トゥース病は妊娠・出産のハイリスクグループと考えたほうが良い

2005年03月14日 | 末梢神経疾患
 シャルコー・マリー・トゥース病(CMT)は遺伝学的にheterogeneousな疾患群であるが,末梢神経障害を主徴とするため,一般に妊娠・出産における異常は生じないと考えられてきた.今回,NorwayよりCMTにおける妊娠・出産に関して多数例を調査したretrospective studyが報告された.
 対象は1967年から2002年にかけてNorwayのMedical Birth Registryに登録した妊婦で(登録は強制),このなかで108名のCMTを基礎疾患として有する妊婦を見出した(診断は臨床所見と遺伝歴の確認にて行っており,2001年からは遺伝子診断も導入している;完全に他の疾患を除外できているかはやや不安).対照としてはその他の210万人の妊婦のデータを使った.結果としては,両群間で妊婦の年齢,妊娠期間,子供の性別,出生時体重等に有意差なし.しかし,新生児の奇形合併はCMT群で有意に高く(9.3 vs 4.5%;p = 0.04;奇形の詳細についての記載なし),分娩後出血もCMT群で有意に高頻度であった(12.0 vs 5.8%;p = 0.02). 手術分娩の頻度もCMT群で2倍高頻度であり(29.6 vs 15.3%; p = 0.002),鉗子分娩は3倍の頻度であった(9.3 vs 2.7;p <0.001).帝王切開はNorwayでは他の欧米諸国と比較し行われていないが,CMTを伴う妊婦では行われる傾向にあり,かつ緊急帝王切開として行われていた.子供のCMTの罹患との関係については,追跡調査は行われておらず不明.以上の結果より,CMTは妊娠・出産のハイリスクグループに加えるべきと思われる.Norwayのデータではあるが,CMTの妊娠・出産は注意を要することを,本人・家族,および産婦人科医に伝え,緊密な連絡をとりながら出産の準備を進めるべきであろう. Neurology 64; 459-462, 2005

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椎骨動脈解離では半数が間欠性の頭痛を呈し,診断が難しい

2005年03月13日 | 脳血管障害
椎骨動脈解離を診断する契機になる初発症状は,突発する一側の後頭部~後頚部にかけての痛みである.これは血管解離が後頭蓋窩の血管を神経支配する上頚部神経群に影響を与えるためと考えられている(関連痛).今回,アルゼンチンから椎骨動脈解離に伴う痛みの性状についての報告があった.方法は10年間に及ぶprospective studyで10名の症例を集積.診断はMRAないし血管造影で行った.頭痛の出現時期と虚血に伴う神経症状の出現時期,および頭痛の性状・持続時間について検討した.10名の発症年齢は54.3歳(30-67歳),1例のみ外傷性.痛み(頭痛もしくは頚部痛)は全例で出現し,6名は初発症状であった.頭痛は8名(一側性4名,後頭部痛3名,前・頭頂部痛1名).頭痛の出現時期は虚血症状より先が5名,同時が2名,遅れて出現が1名であった.クモ膜下出血の合併例(出血型椎骨動脈解離;つまり解離が外膜側に破れること)はなし.痛みの持続時間に関しては5名は持続型(平均26.4時間の持続)で,残り5名は間欠型(平均4.6時間).後者は診断にいたる時間が前者と比べ長かった(7.7日vs 3.1日).間欠期を伴う理由に関して解離は段階的に生じうる可能性を考えている(最初の解離のエピソード→安定期→血管壁内の出血の増強による解離の進展ということらしい).
本研究は椎骨動脈解離による痛みが間欠期を伴いうることを示した点で重要である.画像診断の普及に伴い,椎骨動脈解離と診断される症例は急速に増加しているが,多くの症例は重篤な後遺症を伴わず杜会復帰しているので,原因不明のまま対症療法のみ施行されていた症例も多いと思われる.さらに持続時間が短く,間欠期を伴うとなると虚血に伴う神経症状をきちんと評価しないと診断を誤る可能性が高い.

Neurology 64; 925-926, 2005 

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片麻痺患者さんの大腿骨頚部骨折を予防するためには?

2005年03月11日 | 脳血管障害
 片麻痺を呈する脳梗塞の患者では2-4倍も高率に大腿骨頚部骨折を合併するとの報告がある.骨折側は80%が患側である.原因としては易転倒性に加え,重力が加わらないことによる骨吸収の増加や(宇宙飛行士の骨粗鬆と同じメカニズム),低栄養状態や日光に当たらないことによるvitamin D欠乏が考えられる.
 今回,片麻痺を呈する脳梗塞患者において,大腿骨頚部骨折を予防する方法が本邦からの2つの論文で報告されている.ひとつはビスホスホネート(risedronate)である.方法は12ヶ月間に及ぶランダム化比較試験で,187名がrisedronate 2.5mg/日を使用し,187 名はplaceboであった.観察期間においてplacebo群は7名の股関節部骨折を認めたのに対し,実薬群では1名のみであった(p=0.0360; OR=7.0).骨塩も有意に増加した(p<0.0001).  もうひとつの報告は,葉酸とvitamin B12の投与である.高ホモシステイン血症は脳梗塞だけでなく,骨粗鬆症による骨折のリスクファクターとしても知られているが,葉酸またはvitamin B12の摂取により高ホモシステイン血症が改善することが分かっている.方法は脳梗塞により片麻痺を呈した65歳以上の高齢者628人を対象とし,ランダム化比較試験を行った.この結果,葉酸(5mg/日)とvitamin B12(1500μg/日)を服用すると,転倒の頻度に差はなかったものの,実薬群での股関節部骨折の頻度は10人/千人-年,placebo群では43人/千人-年であった. (p<0.001).相対リスク,絶対リスク低下,NNTはそれぞれ0.20 (95% CI, 0.08-0.50), 7.1% (95% CI, 3.6%-10.8%), 14 (95% CI, 9-28)であった.片麻痺を呈する脳梗塞患者の股関節部骨折に対し,予防的治療介入が有効であるというエビデンスを日本からの2つの研究が示した.今後,片麻痺患者に対して,より積極的に骨粗鬆症の予防的治療を心がける必要がある. Neurology 64; 811-816, 2005
JAMA 293; 1082-1088, 2005

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一過性脳虚血発作後の検査・予防的治療はいつまでに完了すべきか?

2005年03月10日 | 医学と医療
 脳梗塞患者の15-30%に一過性脳虚血発作(TIA)の既往があると言われている.TIAは警告発作として重要であり,小渕元首相のエピソードで一般の人にも知られるようになったが,果たしてTIAの患者を診察した場合,どのぐらいの緊急性をもって検査・治療を行うべきであろうか?1999年に米国心臓学会(AHA)から提唱されたガイドラインでは1週間以内,また同年のイギリスからのガイドラインでは2週間以内に検索を終了すべきと記載されている.しかしそれで間に合うのであろうか?
今回,TIA後の検索・予防的治療の時間的遅れによって患者が被るリスクを検討する目的で,TIA後から脳梗塞発症までの期間が調べられた.対象は2つのpopulation-based study(Oxford Vascular Study [OXVASC]; Oxfordshire Community Stroke Project [OCSP])と2つのランダム化試験(UK TIA Aspirin Trial [UK-TIA]; European Carotid Surgery Trial [ECST])で,4つの試験で合計2,416名の脳梗塞患者が対象となった.結果として,549名(23%)にTIAの既往を認めた(個別にはOXVASC 18%,OCSP 15%,UK-TIA 23%,ECST 26%).問題の脳梗塞の発症時期(一番最近のTIAから脳梗塞までの期間)に関しては,各試験間で非常に似通った結果であり,合計すると1週間以内に脳梗塞を発症する割合は43%,うち17%は当日に発症し,9%は翌日に発症していた(すなわち,4人にひとりは2日以内に脳梗塞を発症している!).その反面,1ヶ月以上前にTIA発作があったという患者も43%で認められた.またTIAと脳梗塞の時間的関係に影響を与える因子の解析が行われたが,いずれの危険因子(高血圧,心筋梗塞の既往,糖尿病,喫煙など)や臨床的特徴(年齢,性別,TIAのタイプ)も有意差を認めなかった.
 以上の結果は,TIA後,数時間のうちに検索・予防的治療を開始すべきであることを示している.エビデンスのある治療としては抗血小板薬,心房細動があれば抗凝固薬,さらに適応があればendarterectomyということになるであろう.いずれにしてもTIA後の治療は‘short time window‘との認識を持つことが必要である.

Neurology 64; 817-820, 2005
Comments (5)
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SLE に合併したreversible posterior leukoencephalopathy

2005年03月09日 | 白質脳症
エリスロポエチン投与や輸血により急激に貧血が改善すると高血圧性脳症が現れることは知られているが,時にけいれん発作を伴うreversible posterior leukoencephalopathy (RPL)が出現することがある.画像診断としてはMRI T2WI,FLAIR における頭頂葉・後頭葉の白質,ときに前頭葉・側頭葉白質,小脳・脳幹に信号異常を認める.血管造影では血管の攣縮を一過性に認めた症例も報告されている.
今回,RPL発作を繰り返したSLE症例が報告された.12歳時にSLEと診断され,18歳以降,急性糸球体腎炎の増悪時に,頭痛,視力低下,高血圧,けいれん発作を主徴とするRPL発作を繰り返した.MRIでは頭頂葉・後頭葉白質および視床に多発する信号異常を認め,うち1度の発作において右M1,左A2 portionの数珠状狭窄を認めている.治療としては,phenytoin,免疫抑制剤(ステロイドパルス,azathioprine),血圧コントロールを行い,症状も画像所見も改善した.
検索した限りSLEにRPLを合併した症例の報告はきわめて少ない.しかしコントロール不良のSLE症例で難治性けいれん発作を合併することは時々遭遇するので,もしかしたらこのような症例は急性期にDWIなどで評価を行えばRPL様の画像所見を呈しているのかもしれない.本論文で興味深かったのはRPLの発症機序の考察で,著者らはふたつの仮説を考えている.ひとつは血圧上昇→血管攣縮→ischemic and cytotoxic edemaというものである.もうひとつは血管の自動調節能の消失→頭蓋内細血管拡張→vasogenic edemaというものである.RPL急性期にMRIを撮影することは難しいが,ADC(見かけの拡散係数)の評価ができればこの辺ももう少しクリアになるのかもしれない.

J Neurol 252; 230-231, 2005

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橋梗塞の病型と長期的予後

2005年03月06日 | 脳血管障害
 橋における脳梗塞は特徴的な症候群を呈することで知られる(pure motor hemiparesis,ataxic hemiparesis,dysarthria-clumsy hand syndromeなど).その病態としては椎骨・脳底動脈の動脈硬化性病変やラクネ梗塞を惹起するlipohyalinosisが重要であるが,そのほか血行力学性に発症することや,塞栓が原因となることもある.一般に短期的予後は良好とされるが,再発率や長期的予後に関する情報は不足していた.今回,ギリシアから橋梗塞の長期予後に関する研究が報告された.
 方法は橋に限局する脳梗塞患者をprospectiveに100症例集積し,画像検査を行った後,以下のカテゴリーに分類した.①large artery-occlusive disease(LAOD;椎骨・脳底動脈にhemodynamicな脳梗塞を来たす程度の高度狭窄(>50%)ないし閉塞を認める),②basilar artery branch disease(BABD;large arteryの狭窄病変や塞栓源を認めないが,橋表面に及ぶ梗塞がある場合),③small artery disease(SAD;橋表面に達しない直径1.5cm未満の梗塞で,large arteryの狭窄病変や塞栓源を認めない場合).経過観察期間は平均46ヶ月.結果としてLAOD,BABD,SADの頻度は順に21%,43%,34%とBABDが最多.危険因子としては高血圧の合併が多く,とくにSADでは94.1%に認められた.LOADではTIAを52.4%で認めた.入院時における神経学的評価(Scandinavian stroke scale)ではLAODが最も重症で,頭痛の合併も多かった(28.6%).発症1ヵ月後の評価でLAODの死亡率は14.3%と1番高かった(入院中の感染症・発熱のエピソードも他の群に比べ有意に多い).5年再発率はLAOD,BABD,SADの順に14.3%,2.3%,29.4%であった.治療としてはaspirinが主体で(各群とも90%以上の症例で行われている),そのほかヘパリン・低分子ヘパリンが行われていた.
 Large arteryに高度狭窄ないし閉塞病変があれば機能予後・生命予後が不良ということは十分予想できるが,BABDでは再発率が少ないことは意外だった.またSADでは積極的に危険因子に対する治療を行うことがより重要であることも分かった.脳幹梗塞を診療する場合,血管評価やリスクファクターの評価をきちん行い,その病態を考えることが,長期的経過観察の方針を考えるうえで非常に重要であることを明確に示した論文といえよう.

J Neurol 252; 212-217, 2005

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MRIにおける上小脳脚の萎縮は進行性核上性麻痺の診断に有用である

2005年03月05日 | その他の変性疾患
進行性核上性麻痺(PSP)は,一般に40歳以降で発症する緩徐進行性の変性疾患で,パーキンソニズム,垂直性核上性眼球運動障害,構音障害・嚥下障害,前頭葉性の進行性認知障害などを呈する.MRI所見として被殻・中脳の信号変化や中脳被蓋部の萎縮,第三脳室の拡大などを認めるが,他のパーキンソニズムを呈する疾患(CBD, MSA, PD)と鑑別が困難な症例も少なくない.
1964年のSteeleらによる原著においてPSPの病理所見として,歯状核の神経細胞脱落・グリオーシスならびに上小脳脚の萎縮・脱髄が記載されているが,最近,病理学的に見て,上小脳脚の萎縮はPSPの鑑別診断において有用であるとの報告がなされた(Neurology 60; 1766, 2003).これらを踏まえ,今回,上小脳脚のMRIでの評価がPSPの診断に有用であるかの検討がイギリスから報告された.方法はvolumetric MRI(T1WI, 1.5T.上小脳脚の容積測定)をprospectiveに計53名(PSP 19名,MSA 10名,PD 12名,対照12名)に対し施行し,全頭蓋容積で補正した上小脳脚容積を算出した.この結果,14/19名のPSP症例で上小脳脚萎縮を認め,一方,34名のnon-PSでは2名のみ上小脳脚萎縮を認めた(この2例はMSAであった).さらにPSPは,対照,MSA,PDと比較し,上小脳脚は有意に萎縮していた(順にp<0.001,p=0.001,p=0.003).PSP群においてHoen-Yhar分類と補正上小脳脚容積に有意な相関はなく,また年齢や罹病期間,UPDRSII, III,MMSEとも相関はなかった.結論としてPSP診断におけるsensitivityは74%,specificityは94%であった.以上より,中脳被蓋部の萎縮などとともに上小脳脚萎縮はPSPの診断に有用であると考えられる. Neurology 64; 675-679, 2005

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MM2型孤発性プリオン病の臨床診断

2005年03月04日 | 感染症
 孤発性プリオン病(sCJD)はプリオン蛋白遺伝子の正常多型によって分類される.具体的にはコドン129がMetであるのかValであるのか,さらにproteinase K処理後の分子量の違い(タイプ1=糖鎖がないプリオン蛋白21kDa,タイプ2=19kDa)の2つが重要である.これらを組み合わせることによりMM1,MV1,VV1,MM2,MV2,VV2の6種類に分類できる.古典的CJDはMM1まれにMV1(両者で全体の7割を占める),視床型CJDはMM2,大脳皮質型CJDはMM2,アミロイド斑をもつCJD(失調と痴呆を呈する)はMV2またはVV2に対応する.
 MM2型は上述のように2つの臨床表現型を呈する.ひとつは視床型CJDで,孤発性致死性不眠症(家族性致死性不眠症FFIの孤発型と考えた上での命名)とも呼ばれ,他方は大脳皮質型CJDである.しかしMM2型sCJDを臨床所見から疑うことは非常に難しいと考えられている.今回,本邦よりMM2型sCJDの臨床像に関する研究が報告された.対象は病理学的に診断が確定したMM2型sCJDの8症例(視床型5名,大脳皮質型2名,混合型1名).生前の臨床診断はCJD 3名,PSP 2名.SCD 2名,AD 1名であった.臨床像に関しては,皮質型は高齢発症(60-70歳台発症),緩徐進行性痴呆,DWIにおける大脳皮質の高信号,および髄液14-3-3蛋白上昇が特徴的であった.一方,視床型では,痴呆,小脳失調,錐体路・錐体外路徴候,不眠など様々な所見を呈し,発症年齢も様々で,罹病期間も比較的長かった(最長73ヶ月).EEGやMRIに関しては特徴的な所見は認めなかった.しかしSPECTを施行した4名全例で大脳皮質に加え視床の血流低下を認めた.混合型では両者の特徴を示し,FDG-PETでは視床におけるhypometabolismを認めた.
 以上より大脳皮質型の診断にはDWIにおける大脳皮質の高信号,視床型にはSPECTもしくはFDG-PETにおける視床のhypometabolismの証明が有用であることが分かったが,臨床所見のみで診断することはなかなか難しいかもしれない.

Neurology 64; 643-648, 2005 

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