Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(6月4日)  

2022年06月04日 | COVID-19
今回のキーワードは,感染前のワクチン接種のlong COVID抑制効果は15%にとどまる,オミクロン株の亜種は感染率がさらに上昇し,免疫を回避しやすくなっている,1wayマスクの効果は不明,オミクロン株による重症化の予防には3回接種が必要,COVID-19後のパーキンソニズム20例の特徴と治療反応性,です.

ワクチン3回接種,4回接種の有効性の問題が議論されています.4回目についてのエビデンスは当然これからですが,3回目は行ったほうが良いというエビデンスが蓄積されつつあります.具体的には,2回接種のみではlong COVIDの抑制効果はなくないものの15%と限定的であること,そしてオミクロン株とその亜種の場合,重症化しないためには3回接種する必要があることが次第に明らかになってきています.Long COVIDは感染者の10~30%にみられるとも言われています.周囲に3回目接種をしていない人がいたら情報を伝えていただければと思います.

◆ワクチン2回接種では,long COVID抑制効果は15%にとどまる.
ワクチン接種後のブレイクスルー感染(2回接種後14日経過したあとの感染)でlong COVIDがどれほど生じるかを検討した研究が米国報告された.本研究では,米国退役軍人省の全国医療データベースを用いて,ブレイクスルー感染患者と対照を比較した.ワクチン接種歴のない感染者(11万3474人)と比較して,ブレイクスルー感染者(3万3940人)では死亡はハザード比0.66,そしてlong COVIDはハザード比0.85(95%CI 0.82~0.89)との発生リスクが減少した(図1).つまり感染した場合,long COVIDの発生率はワクチン2回接種では減少はするものの15%にとどまる.感染前のワクチン接種はlong COVIDに効果はなくはないものの,2回では限定的な防御にとどまることが示唆された.ブースター接種の効果についてはまだ結果が出ていないが,2回では不十分であることを認識する必要がある.
Nature Med. May 25, 2022(doi.org/10.1038/s41591-022-01840-0)



◆COVID-19の最新キーワード ―オミクロン亜種,1wayマスク,アップ・トゥ・デート―
【オミクロン株の亜種は感染率がさらに上昇し,免疫を回避しやすくなっている】
オミクロン株の亜種(BA.1)は,2021年11月に南アフリカで初めて確認された後,急速に世界に広がり,多くの国で急速に優勢な亜種となった.さらにいくつかの系統と亜系統が出現し,最も一般的なのは,BA.1,BA.1.1,BA.2,BA.2.12.1である.BA.2型の有効再生産数はBA.1型の1.4倍である.BA.2感染の症状はBA.1と似ており,軽い上気道炎症状(咽頭痛,咽頭炎など)が多い.また非特異的な症状(筋痛,頭痛,鼻閉,疲労感など)とともに,消化器症状を認める.

BA.2.12.1は,現在,米国で主流となっている.BA.2の変異にスパイク変異S704LとL452Qが加わったもの.L452QによりウイルスがACE2受容体とより強く結合し,感染力が強くなる.BA.1に感染してもBA.2.12.1に対する交差免疫はほとんどなく,BA.1でオミクロン感染をしてもBA.2.12.1感染する.

BA.4とBA.5の2つの亜種は,最近南アフリカとヨーロッパで出現した.やはり著しく感染力が強く, BA.2.12.1と同様に,BA.1感染してもそれらの感染からあまり保護されない.幸いなことに以前の変異体よりも重篤な疾患を引き起こすことはない.以上のようにオミクロン株の出現以降,さらに感染率が上がり,免疫を回避しやすくなっている.

【1wayマスクの効果は不明】
マスク着用が義務づけられなくなったことを考えると,マスクをしたい人はどうしたらいいのか,1wayマスク(マスクを着用し,周囲の人はマスクをしていない状態)で防御できるのかが今後の問題となる.高性能マスク装着が1つのアイデアであるが,米国で販売されているKN95マスクの60%は偽造品であり,米国労働安全衛生研究所(NIOSH)の基準を満たしていないことが推定されている.NIOSH承認のマスクは,承認ラベルがマスク本体またはパッケージ内に貼られている.

【オミクロン株による重症化の予防には3回接種が必要】
CDC は,4 回目のワクチン接種を,少なくとも 4 ヶ月前にブースター接種を受けた 50 歳以上の高齢者と,中度または重度の免疫不全の 12 歳以上で,少なくとも 4 ヶ月前にブースター接種を受けた人にのみ推奨している.他のワクチンと同様に,COVID-19に対するワクチン接種の目的は,重症化から守ることであり,すべての感染を防ぐことではない.しかし重要なこととして,オミクロン株とその亜種の場合,重症化しないためにはmRNAワクチンを3回接種する必要があることが次第に明らかになってきており,CDCはこれを「アップ・トゥ・デート」と呼んでいる.

SARS-CoV-2が完全に根絶されることはないことは明らかである.また感染後10~30%の人がlong COVIDを経験すると推定されている.よって次の段階では,地域社会の感染が低く,予防措置を「ダイヤルダウン」できる時期と,感染の増加により緩和努力を「ダイヤルアップ」しなければならない時期があることを認識する必要がある.→ long COVIDの社会への大きな影響を考えれば,緩ませたままではダメということだ.
JAMA. May 27, 2022(doi.org/10.1001/jama.2022.9655)

◆COVID-19後のパーキンソニズム20例の特徴と治療反応性.
多くのウイルス感染が(一過性)パーキンソニズムを来す(図1).SARS-CoV-2感染でも当初からパーキンソニズムの出現に関する懸念が指摘されてきた.このため,2022年2月までの文献をレビューし,健常者がSARS-CoV-2感染後に新たにパーキンソニズムを発症した症例について検討した研究が報告された.結論は感染と同時あるいは感染直後にパーキンソニズムを呈した20例が報告されていた.そのうち11例では脳症に伴ってパーキンソニズムが出現し,4例では脳症を伴わない感染後パーキンソニズムで,残り4例では特発性PDと類似していた.9例はドパミン作動薬による治療で,4例は免疫調節薬による治療で良好な改善を得られていた.以上より,現在までに得られたデータでは,COVID-19パンデミックに伴うパーキンソニズムに関して明確な関連は見いだせない.しかし,今後,長期的な影響が出現する可能性があるため警戒が必要である.
Mov Disord. April 19, 2022(doi.org/10.1002/mdc3.13461)




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