Leukoencephalopathy with vanishing white matter(VWM)は,髄鞘形成不全を認める常染色体劣性遺伝形式の白質脳症で,臨床的には小脳失調・痙性を主徴とする.通常,小児期に発症し,慢性進行性の経過をたどることから,神経内科医にはあまり馴染みのない疾患であるが,新潟大から成人発症したVWMも報告されており(進行性痴呆,不穏,痙性を主徴とした;Neurology 62:1601-1603, 2004),原因不明の白質脳症では鑑別診断として考慮する必要がある.診断の決め手となるのは,①発熱やminor trauma後に症状が急速に悪化すること(ときにcomaに陥ることがある),および②MRI所見である.MRIではびまん性で比較的均一な白質病変を認めるが,病名の由来になっているように,MRIの各シークエンスにおいて白質の異常信号の一部が,斑状にすべて髄液のintensityに置き換わり,あたかも白質が消失してしまったような部位が認められる(この部分は病理学的にもスポンジ状で,髄液が侵入している).
さて今回,VWMに関してふたつの興味深い報告があった.ひとつは急性増悪の誘因に関する報告で,VWMを発見し,原因遺伝子EIF2B5を同定したオランダのグループからの報告である.上述のようにVWMの増悪因子として発熱やminor traumaが知られていたが,今回,飛行機に乗った後に急速に増悪した2症例が報告されている.この機序については不明であるが,EIF2B5が蛋白の翻訳開始に必要なことから,これらのストレスから脳を防御する際に通常合成されるストレス蛋白(HSPなど)が,これらの患者ではうまく合成できない可能性が考えられている.
もうひとつの報告は,本症の病態機序の本質に迫るもので,EIF2B5遺伝子変異を有し,明らかな白質病変を画像上認めた患者の剖検脳からcell cultureを確立し,解析を行っている.まず異常が予測されたoligodendrocyteは,不思議なことにほとんど正常であった.その一方,初代培養を行ってもGFAP陽性のastrocyteはごくわずかしか認められなかった.Lateral ventricular zoneよりneural progenitor cellを抽出し,培養後BMP-4やFBSを添加しastrocyteを誘導してみても,astrocyteへの誘導はきわめて不良で,まれに誘導された細胞も形態や抗原発現に異常が認められた.これらの結果から患者剖検脳に戻ってGFAP染色を行ったところGFAP陽性astrocyteが欠如していることが判明した.以上の結果を検証する目的で,正常のヒトglial progenitor cellに対しRNAiを用いたEIF2B5遺伝子発現抑制を行ったところ,同様にGFAP陽性細胞への誘導の障害が確認された.以上の結果は,EIF2B5遺伝子変異により,glial progenitorからastrocyteへの誘導が障害され,VWMでは白質の形成障害が生じる可能性が高くなった.すなわちEIF2B5は白質の形成段階で,さらにストレス後の段階で重要な役割を果たしている蛋白であることが予想される.
Ann Neurol 57; 560-563, 2005
Nat Med 11; 277-283, 2005
さて今回,VWMに関してふたつの興味深い報告があった.ひとつは急性増悪の誘因に関する報告で,VWMを発見し,原因遺伝子EIF2B5を同定したオランダのグループからの報告である.上述のようにVWMの増悪因子として発熱やminor traumaが知られていたが,今回,飛行機に乗った後に急速に増悪した2症例が報告されている.この機序については不明であるが,EIF2B5が蛋白の翻訳開始に必要なことから,これらのストレスから脳を防御する際に通常合成されるストレス蛋白(HSPなど)が,これらの患者ではうまく合成できない可能性が考えられている.
もうひとつの報告は,本症の病態機序の本質に迫るもので,EIF2B5遺伝子変異を有し,明らかな白質病変を画像上認めた患者の剖検脳からcell cultureを確立し,解析を行っている.まず異常が予測されたoligodendrocyteは,不思議なことにほとんど正常であった.その一方,初代培養を行ってもGFAP陽性のastrocyteはごくわずかしか認められなかった.Lateral ventricular zoneよりneural progenitor cellを抽出し,培養後BMP-4やFBSを添加しastrocyteを誘導してみても,astrocyteへの誘導はきわめて不良で,まれに誘導された細胞も形態や抗原発現に異常が認められた.これらの結果から患者剖検脳に戻ってGFAP染色を行ったところGFAP陽性astrocyteが欠如していることが判明した.以上の結果を検証する目的で,正常のヒトglial progenitor cellに対しRNAiを用いたEIF2B5遺伝子発現抑制を行ったところ,同様にGFAP陽性細胞への誘導の障害が確認された.以上の結果は,EIF2B5遺伝子変異により,glial progenitorからastrocyteへの誘導が障害され,VWMでは白質の形成障害が生じる可能性が高くなった.すなわちEIF2B5は白質の形成段階で,さらにストレス後の段階で重要な役割を果たしている蛋白であることが予想される.
Ann Neurol 57; 560-563, 2005
Nat Med 11; 277-283, 2005

脳の髄液が減少すると、どのような症状になるのでしょうか?