私達はレム睡眠中に夢を見る.このとき,筋は弛緩しているため,夢で見ている通りの行動をすることはない.しかしこの仕組みが作動せず,レム期において夢体験の行動化が見られることがある.これがレム睡眠行動障害(RBD)であり,インターネット上で,RBD患者さんのビデオをYouTubeで見ることができる.REM behavior disorderビデオ とても眠っているように思えないが,脳波上は睡眠状態にある.怖い夢や争っている夢が多いため,怒っているような寝言や,相手を叩いたり蹴ったりするような行動が見られる.
原因が不明の「特発性RBD」をしばしば経験するが,脳内におけるαシヌクレインの蓄積(αシヌクレイノパチー)により引き起こされることが多い.つまり,RBDは,αシヌクレイノパチーであるパーキンソン病やレビー小体型認知症,多系統萎縮症の運動前症状と捉えることができる.よってRBDを合併する小脳性運動失調を見た場合,通常,多系統萎縮症を考えてしまう.しかし必ずしもそうとは限らないことを最近認識した・・・それは遺伝性脊髄小脳変性症3型,マシャド・ジョセフ病(Machado-Joseph disease;MJD)である.
調べたところ,MJDにおけるRBDの報告はいくつもある(Mov Disord 2002; Mov Disord 2003; Neurology2003; Mov Disord 2005など).発症前や発症時に見られ,病期の進行に伴うレム期の減少とともに認められなくなるMSAとは異なり,MJDではレム期頻度は徐々に減りつつも発症後の経過中に出現する例が多い.かつ運動前症状として認められた症例も複数報告されている(Mov Disord 2005).
つまり認識すべきことは「RBDはαシヌクレイノパチーに特異的なものではなく,特定の部位の病変により,レム睡眠における生理機能に変化が生じて生じる症候である」ということである.具体的には,橋被蓋背側部の神経機構が延髄大細胞性網様核を介し,錐体路の出力を遮断し,夢体験が行動化されないと報告されているが,この経路が種々の原因により障害され,錐体路の出力を遮断できず,夢体験が行動化されるのである.MJDの場合,病因蛋白のataxin-3がこの経路を障害するものと考えられる.またMJD以外の原因を検索したところ(症候性RBD),以下のような疾患が報告されている・・・脳血管障害,脱髄疾患,変性疾患(PSP/CBD),脳幹部腫瘍,傍腫瘍症候群,ウィルソン病.さらに抗コリン作用を有するビペリデン(アキネトン®),三環系抗うつ薬などによる薬剤性RBDも報告されている.傍腫瘍症候群に伴う症例ではステロイド治療でRBDが改善したことも報告されている.
以上より,「RBD=αシヌクレイノパチーとは限らないこと」を認識する必要があると言える.
MJDとRBDの合併に関する文献検索
原因が不明の「特発性RBD」をしばしば経験するが,脳内におけるαシヌクレインの蓄積(αシヌクレイノパチー)により引き起こされることが多い.つまり,RBDは,αシヌクレイノパチーであるパーキンソン病やレビー小体型認知症,多系統萎縮症の運動前症状と捉えることができる.よってRBDを合併する小脳性運動失調を見た場合,通常,多系統萎縮症を考えてしまう.しかし必ずしもそうとは限らないことを最近認識した・・・それは遺伝性脊髄小脳変性症3型,マシャド・ジョセフ病(Machado-Joseph disease;MJD)である.
調べたところ,MJDにおけるRBDの報告はいくつもある(Mov Disord 2002; Mov Disord 2003; Neurology2003; Mov Disord 2005など).発症前や発症時に見られ,病期の進行に伴うレム期の減少とともに認められなくなるMSAとは異なり,MJDではレム期頻度は徐々に減りつつも発症後の経過中に出現する例が多い.かつ運動前症状として認められた症例も複数報告されている(Mov Disord 2005).
つまり認識すべきことは「RBDはαシヌクレイノパチーに特異的なものではなく,特定の部位の病変により,レム睡眠における生理機能に変化が生じて生じる症候である」ということである.具体的には,橋被蓋背側部の神経機構が延髄大細胞性網様核を介し,錐体路の出力を遮断し,夢体験が行動化されないと報告されているが,この経路が種々の原因により障害され,錐体路の出力を遮断できず,夢体験が行動化されるのである.MJDの場合,病因蛋白のataxin-3がこの経路を障害するものと考えられる.またMJD以外の原因を検索したところ(症候性RBD),以下のような疾患が報告されている・・・脳血管障害,脱髄疾患,変性疾患(PSP/CBD),脳幹部腫瘍,傍腫瘍症候群,ウィルソン病.さらに抗コリン作用を有するビペリデン(アキネトン®),三環系抗うつ薬などによる薬剤性RBDも報告されている.傍腫瘍症候群に伴う症例ではステロイド治療でRBDが改善したことも報告されている.
以上より,「RBD=αシヌクレイノパチーとは限らないこと」を認識する必要があると言える.
MJDとRBDの合併に関する文献検索