Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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レム睡眠行動障害と多系統萎縮症における告知

2016年11月20日 | 脊髄小脳変性症
病名を含めた「病気に関する真実の告知(Truth telling)」は,原則として患者さんの意思表示能力が保たれる場合に実施される.しかし神経内科領域では,認知症を合併する神経難病が少なからず存在するため,告知の可否の決定は容易ではない.身体機能だけではなく,意思表示能力が進行性に低下する神経難病患者さんの意思表示能力の評価はときに難しく,主治医として,いつどのように告知を行い,その後の治療・ケアの方針の決定をサポートすべきか悩むことが多い.

これまで神経難病における告知は,筋萎縮性側索硬化症やアルツハイマー病を例として議論されることが多かったが,それ以外にも議論が必要な疾患が多数存在する.これまで検討があまりなされてこなかったレム睡眠行動障害と多系統萎縮症の臨床と告知について講演をする機会を得たので,その要旨を記載したい.

【レム睡眠行動障害(RBD)の告知】
RBDの告知は2段階で考える必要がある.つまり,(1)夜間の異常行動の診断,つまりRBDについての告知,(2)将来,高率にαシヌクレイノパチー(パーキンソン病,レビー正体型認知症,多系統萎縮症)を発症する(phenoconversionという)という真実の告知,である.Phenoconversionの頻度は,最大5年で35%,10年で76%,最終的に91%と高率であり,これを患者さんにいかに伝えるかで悩むことになる.以下,順に私見を述べたい.

1.将来の真実を告知(Truth telling)すべきか?
文献を渉猟した範囲では,告知を行うべきか,行うとすればいつ,どのように行うべきかについてコンセンサスはみつからなかった.しかし患者さんは,RBDの診断が意味することを「知る権利」を持つため,まったく伝えないことは選択肢になりにくいように思われる.医師が伝えなくてもインターネットなどで情報を得ることは十分考えられ,その場合,情報を伝えなかった医師に対する信頼は損なわれるだろう.また真実を伝えなかった医師も患者さんに対する後ろめたさを感じることになる.

2.医師の告知を妨げている要因は何か?
ひとつは,患者・家族が,発症頻度の高さに大きな衝撃を受けることが容易に想像がつくため,告知をできれば避けたいという心情である.もうひとつは,いつ,どの病型を,どの程度の確率で発症するか,正確な予測ができないため.告知しにくいということである.

3.告知する場合,いつ,どのようにすべきか?
伝える時期は,RBD症状が治療により抑制され,かつ相互の信頼(rapportラポール)が形成させた後が望ましいと思われる.また告知前には,家族から病前性格,つまり告知に耐えられるだけの精神的な強さをもつか,うつなどの精神疾患の合併がないかを探る必要がある.そして告知の内容としては,全員が発症する訳ではなく,多くは長時間を要すること,発症を遅らせる治療はまだ確立されていないが,パーキンソン病では種々の薬剤があることを伝える.そして,告知後も責任を持って定期診察を行い,精神面でもフォローアップを行うことを伝えることが大事だと考える.

【多系統萎縮症(MSA)の突然死リスクの告知】

MSAの告知においても,病名以外に,将来の突然死のリスクについての告知を検討する必要がある.以下,順に考察する.

1.いつ突然死のリスクを告知するか?

(1)非常に重い内容であるため,突然死の危険性が高くなる進行期まで,告知を避けたいという考え方と,(2)未告知の状態で,入院精査・加療中に突然死が起きるといった問題を避けるため,早期の段階で,具体的には初回入院時には告知を行うという考え方の両者がある.個人的にはあまりに早期の段階から,一律にリスクについて説明するのは患者さんに与える心理的ストレスが大きいと考え,突然死のリスクの高い症例(早期からの自律神経障害,重症・中枢性の睡眠呼吸障害)に対して告知を行なうことがより良いように考えているが,リスク予測が正確にはできないという問題もある.

2.医師の告知を妨げている要因は何か?
第一は苛酷な選択を強いる告知をできれば避けたいという心情である.人工呼吸器を装着すれば突然死は防止できる可能性は高くなるが(窒息や心臓死のため100%ではない),長期の人工呼吸器下の療養により認知機能障害が顕在化する可能性が高くなる.つまり,人工呼吸器を装着するか否かの判断は非常に難しく,苛酷な選択と言える.第二は患者さんの意思表示能力の低下である(前述の通り,意思表示能力を失った患者さんには告知は行われない).認知機能低下は必ずしも進行期に生じるものではなく,CPAP導入を検討する時期にはすでに約3分の1の頻度で生じること,認知機能障害にて発症する症例も存在することを認識する必要がある.さらに認知機能低下に加え,運動症状の増悪によっても意思の表示がしにくくなる.第三の要因は突然死リスク予測がまだ正確にできないということ(不確実性)である.欧米では突然死自体も検討されてこなかった.

3.どのように告知をするべきか?

分かりやすく説明することと,心理的配慮(思いやり,共感)をもって告知を行なうことは言うまでもない.病名のみではなく,病態,予後,治療法,医療チームの支援の関わり方,社会的サポート体制についても伝える.そして治療の自己決定(autonomy)をいかに支えるか?死の恐怖にいかに寄り添うべきかも考える.意思表示能力が不十分な場合もshared decision makingにより,残存能力を引き出す努力を惜しまないことが大切である.意思能力がないと判断した場合には代理判断となるが,これを避けるためにタイミングを逃さないことや,advanced directiveを検討することも大切である.

【まとめ】
以上より大切なことは,
1. 意思表示能力が保たれている状況での告知(タイミングを逃さない)
2. より正確な予後の予測を可能とするバイオマーカーの開発
3. 十分な心理的配慮と告知後の責任を持った対応

と考えられる.



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