Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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血清αCGRPレベルは慢性片頭痛の初めてのバイオマーカーである

2023年04月18日 | 頭痛や痛み
Ann Neurol誌のオンライン版に,慢性片頭痛(chronic migraine;CM)患者におけるCGRP関連抗体治療期間中の血清αおよびβCGRPレベルの推移を検討した研究がスペインから報告されています.1984年にカルシトニン遺伝子関連ペプチドとして初めて単離されたものがCGRPで,中枢・末梢神経系に幅広く分布します.αとβの2種類が存在し,産生量は身体の部位によって異なります.感覚ニューロンでは,αCGRPはβCGRPの約6倍存在し,消化管においてはβCGRPのみ認めます.CGRP関連抗体治療の副作用である便秘はβCGRPの抑制によるものと推測されています.

対象はCGRP関連抗体投与を開始したCM患者103人と,健常対照者(HC)78人で,初回投与前,2週間後(M0.5),3ヶ月後(M3)に血清を採取,αおよびβCGRPの血清レベルを各々に特異的なELISAを用いて測定しました.

さて結果ですが,ベースラインのαCGRP値は,CM患者で中央値50.3 pg/mL,HC で37.5 pg/mLと,CM患者で有意に上昇し,かつ抗体治療(n=96)で有意に減少しました(M0.5: 40.4 pg/mL; M3: 40.9 pg/mL).このαCGRP低下は,月間の片頭痛日数の減少と正の相関がありました.さらにpatient global impression of change scaleおよび鎮痛剤の過剰使用の改善と有意に関連していました.一方,βCGRPは,CM患者(4.2 pg/mL)とHC(4.4 pg/mL)で差がなく,抗体治療でも変化しませんでした(M0.5 : 4.5 pg/mL; M3: 4.6 pg/mL ).さらに便秘を認めるCM群と認めないCM群の間にも差はありませんでした.



以上より,CMに対する抗体治療は上昇したαCGRPレベルを正常化し,かつその変化は有効性の指標と相関することから,αCGRPはCMの初めてのバイオマーカーとなるものと考えられました.今後,αCGRPを測定してからCGRP関連抗体の処方を決めたり,中止の目安になったりするのかもしれません.

一方,βCGRPの減少が便秘の原因という仮説は証明できませんでした.この理由として,αCGRPと比較しβCGRPの濃度が約10分の1と低いことから,血清がβCGRP測定に適した試料ではない可能性が示唆されました.血清より唾液でははるかに高いペプチド濃度を示すことが確認され,今後,検討が必要と著者は述べています.
Gárate G, et al. Serum alpha and beta-CGRP levels in chronic migraine patients before and after monoclonal antibodies against CGRP or its receptor. Ann Neurol. 2023 Apr 11.(doi.org/10.1002/ana.26658)
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