Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(2月13日);ウイルス感染症は神経変性疾患の引き金となる!    

2023年02月13日 | COVID-19
今回のキーワードは,ウイルス感染症はアルツハイマー病やALSなど神経変性疾患発症の引き金となる,swabサンプルで評価したウイルスの持続感染はlong COVIDと関連がある,Long COVID患者に見出されたウイルス特異的T細胞の残存は,隠れたウイルスリザーバーの存在を示唆する,血液脳関門の破綻はlong COVIDにおける神経障害の出現に寄与する,long COVID発症の危険因子は急性期の重症度,併存疾患,ワクチン未接種である,COVID-19患者の脳梗塞の血栓内にスパイクタンパクがフィブリンとともに認められた,小児における中枢神経系へのSARS-CoV-2ウイルス侵入が初めて報告された,です.

3月13日から「脱マスク」との報道がされています.しかしウイルスが変わったわけではなく,第8波では過去最高の死者数が記録されています.5類への変更や「脱マスク」は高齢者や基礎疾患を持つひとをより多くの危険に晒すことが容易に推測できます.神戸女学院大の内田樹名誉教授は「自己防衛できない人が亡くなってもそれは自己責任だというメッセージを政治が先導していると解釈される.この政策転換は,生産性がない人,行政コストに負荷をかける人は公的支援を期待すべきではないと公然と口にする人たちが世論形成にかかわってきたことと符合する」と述べています(東京新聞2023年1月26日).弱者こそ優先的に配慮されるべきという人としての優しさを大事にすれば「脱マスク」を急ぐ必要などないと思います.また最初の論文で紹介するように,ウイルス感染はアルツハイマー病やALSのような神経変性疾患を発症するリスクを大幅に上昇させることが初めて示され,大変驚きましたが,その威力はCOVID-19が最強と推測されます.いい加減な情報に惑わされず,正しい情報を知り,脳を守るために感染予防を続ける必要があります.

◆ウイルス感染症はアルツハイマー病やALSなど神経変性疾患発症の引き金となる.
SARS-CoV-2ウイルス感染による脳への障害に関する不安が高まっていることから,ウイルス感染が神経変性疾患を発症するリスクについて検討した研究が米国から報告された.解析には30万人規模のデータを含むフィンランドのバイオバンクFinnGenを使用し,その結果は50万人規模の英国のバイオバンクUK Biobankにて確認した.この研究ではCOVID-19は含まれていないが,神経変性疾患のリスク増加と有意に関連する45のウイルス感染が同定され,そのうち22が2つのバイオバンクで確認された.もっとも関連が強かったのは,ウイルス性脳炎とアルツハイマー病であった(ハザード比30.72および22.06!!)(図1).



インフルエンザ肺炎も5つの神経疾患(アルツハイマー病,ALS,認知症,パーキンソン病,血管性認知症)と有意に関連を認めた(英国データでALS発症は約8倍になる!).一部の感染は,感染後15年まで神経変性疾患のリスク上昇と関連していた.以上より,COVID-19を除いてもウイルス感染は神経変性疾患や認知症をきたす.直接,神経変性疾患を引き起こすというより,潜在的な病理変化をみとめる人で進行が促進されるのかもしれない.既報を併せ考えると,神経向性をもつSARS-CoV-2ウイルスによるCOVID-19ではよりリスクは高くなると考えられる.→ 昨年,インフルエンザワクチンの接種はアルツハイマー病のリスクを低下させることが報告されているが(J Alzheimers Dis. 2022;88:1061-1074)(図2),ウイルス感染症に対するワクチン接種は神経疾患予防の重要な戦略になると考えられる.
Neuron. 2023 Jan 11:S0896-6273(22)01147-3.(doi.org/10.1016/j.neuron.2022.12.029)



◆swabサンプルで評価したウイルスの持続感染はlong COVIDと関連がある.
英国からの研究で,10万以上の咽頭ぬぐい液等のswabサンプルから30日以上持続感染する381人の感染者を見出し,うち54人は60日以上持続していることを確認した.これらの持続感染者は,非持続の感染者と比較して,long COVIDを申告する確率が50%以上高かった.計算上,感染者の0.09〜0.5%が,少なくとも60日間持続するものと推定された.持続感染の70%近くでは,ウイルス配列のコンセンサス変化がない期間が長く,非複製ウイルスが長期にわたって認められることと一致した.また,同じ系統のウイルスに再感染することはまれであり,多くの持続感染症は,ウイルス動態の再燃によることが示唆された.
medRxic Jan 30, 2023.(doi.org/10.1101/2023.01.29.23285160)

◆Long COVID患者に見出されたウイルス特異的T細胞の残存は,隠れたウイルスリザーバーの存在を示唆する.
米国から,呼吸器後遺症(肺性PASC)と完全回復した感染者において,SARS-CoV-2ウイルス特異的T細胞を比較した研究が報告された.肺性PASCでは,末梢血中のIFN-γおよびTNF-α産生SARS-CoV-2特異的CD4+/CD8+ T細胞の頻度が6〜105倍高く,血漿CRPおよびIL-6のレベルが上昇していた. 肺性PASCでは,TNF-α産生SARS-CoV-2特異的CD4+およびCD8+ T細胞は活発に分裂しており,かつ血漿IL-6と正の相関があり,肺機能(FEV1.0)と負の相関を認めた(図3).つまり,肺性PASCにおけるSARS-CoV-2特異的T細胞の頻度上昇は,全身性炎症の増加および肺機能の低下と関連しており,long COVIDの機序に関与することが示唆された.→ Long COVID患者で多くのウイルス特異的T細胞が残存することは,隠れたウイルスリザーバーが存在して症状を長期化させていることを示唆する.
PLoS Pathog. 2022 May 26;18(5):e1010359.(doi.org/10.1371/journal.ppat.1010359)



◆血液脳関門の破綻はlong COVIDにおける神経障害の出現に寄与する.
アイルランドからlong COVIDにおける血液脳関門(BBB)機能を検討した研究が報告された.long COVID患者32名のdynamic contrast-enhanced MRIの検討で,前頭葉,後頭葉,側頭葉を含む領域でBBB透過性の上昇を認め,神経障害を呈する患者では全脳容積および白質容積の減少と相関していた(図4).神経障害を呈する患者では,GFAP,TGFβ,IL8などの血液バイオマーカーが上昇し,とくにTGFβ値はBBB透過性および脳の構造的変化と相関していた.Long COVID患者から分離した末梢血単核細胞は,IFNA/G mRNAを含む炎症マーカーの持続的な発現亢進を示し,in vitroでヒト脳内皮細胞への接着も増加していた.最後に,内皮細胞にlong COVID患者由来の血清を暴露させると,ICAM-1,VCAM-1およびTNFが増加した.以上より,全身性炎症とBBB破綻が,long COVIDに伴う神経障害の発症に関与すると考えられた.
Research Square, Jan 23, 2023(doi.org/10.21203/rs.3.rs-2069710/v2)



◆long COVID発症の危険因子は急性期の重症度,併存疾患,ワクチン未接種である.
米軍医療システムを用いてlong COVIDの危険因子を検討した研究が報告された.1832人のうち728人(39.7%)が,28日以上症状が持続した.28日以上症状が持続するリスクは,感染前のワクチン未接種(リスク比[RR],1.39),初診時中等症または重症(RR,1.80および2.25),そして併存疾患をスコア化したCharlson Comorbidity Index スコアが5 以上と高いことと関連した(RR,1.55).ワクチン未接種者では,感染後のワクチン接種が,6 ヵ月後に症状を呈するリスクを41%低下させた(RR,0.59).
JAMA Netw Open. 2023 Jan 3;6(1):e2251360.(doi.org/10.1001/jamanetworkopen.2022.51360)

◆COVID-19患者の脳梗塞の血栓内にスパイクタンパクがフィブリンとともに認められた.
機械的血栓回収術を受けたCOVID-19陽性脳梗塞患者12例と対照12例の血栓を金標識ポリクローナルSARS-CoV-2 S1サブユニット抗体を使用し,透過電子顕微鏡を用いて観察した.COVID-19陽性患者では血栓内にSARS-CoV-2スパイク蛋白が認められ,それはフィブリンと関連して観察された(図5).高倍率視野あたりの免疫金粒子の定量でも COVID-19陽性患者では対照と比べ有意に高値であった(p=0.0043).SARS-CoV-2スパイク蛋白が血栓内に存在することから,脳卒中の発症にウイルス成分が直接関連する可能性を検討する必要がある.
ISC2023 Late-Breaking Science Posters. Stroke Clots From Covid-19 Patients Harbor Sars-cov-2 Spike Protein In Association With Fibrin



◆小児における中枢神経系へのSARS-CoV-2ウイルス侵入が初めて報告された.
脳脊髄液におけるSARS-CoV-2ウイルスPCRが陽性であった小児2症例が初めて報告された.36か月女児は発熱,下痢,軽度の左室機能障害に加え,奇異な運動異常症を呈した.5か月男児は発熱,下痢,脱水,斑状皮疹,2回のけいれん発作を呈した.いずれも4日間集中治療室に入院し,10日後に無事退院した.小児においてSARS-CoV-2ウイルスには神経向性を有することが示された.
BMC Pediatr 23, 49 (2023).(doi.org/10.1186/s12887-022-03806-0)


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