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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(3月18日)  

2023年03月18日 | COVID-19
今回のキーワードは,long COVID患者に対するワクチン接種は120日後の寛解率を2倍に高める,抗ウイルス薬の塩野義製薬ゾコーバはlong COVIDを改善するかもしれない,経口糖尿病治療薬メトホルミンはlong COVIDの予防薬として有望である,感染後に出現する特定のケモカインに対する自己抗体は良好な予後と関連する,COVID-19感染後4〜7週間で発症したパーキンソン病6例の症例集積研究,感染後のてんかんは軽症例でも生じ,とくに小児で高い,母体の感染後,胎児脳に皮質出血を伴うSARS-CoV-2ウイルス感染が生じうる, COVID-19に伴う頭痛の機序として三叉神経血管系が有力視されている,全身におけるACE2発現マップ,です.

Long COVIDの治療研究がいよいよ報告され始めました.ワクチン接種,抗ウイルス薬ゾコーバは持続感染が病態として有力視されていたことを考えると理にかなっていますが,驚いたのは経口糖尿病治療薬メトホルミンの効果です.メトホルミンは安価で副作用もなく,long COVID治療のブレークスルーになると指摘する研究者もいます.一方,注目されていたCOVID-19感染後のパーキンソン病の症例集積研究も報告されています.感染がまったく新たにパーキンソン病を引き起こすというより,アルツハイマー病でも推測されているように,感染に伴う炎症が脳に波及し,もともと存在していた脳の病理変化(アミロイドβやαシヌクレイン病理)を加速させるものと考えられます.

◆long COVID患者に対するワクチン接種は120日後の寛解率を2倍に高める.
Long COVID患者におけるワクチン接種の効果を検討した研究がフランスから報告された.対象は感染後3週間以上,症状が持続する成人910人で,ワクチン接種群455人,対照群455人とした.接種群では,ワクチンを参加登録後60日目までに接種した.120日後に評価を行った.ワクチン接種によってlong COVID症状(全部で53症状と設定)は減少した(接種群13.0対対照群14.8,平均差-1.8).寛解率は2倍であった(16.6%対7.5%,ハザード比1.93;図1).ワクチン接種により日常生活への影響度も軽減した(インパクトツールスコア24.3対27.6,平均差 -3.3).症状が許容できない患者の頻度も低下した(38.9%対46.4%,リスク差 -7.4%).以上よりlong COVID患者に対するワクチン接種は,120日後の症状を軽減し,寛解率を高め,生活に及ぼす影響を軽減した.
BMJ Medicine 2023;2:e000229.



◆抗ウイルス薬の塩野義製薬ゾコーバはlong COVIDを改善するかもしれない.
Nature誌のNewsに,2月21日に開催されたレトロウイルスと日和見感染症に関する会議(CROI 2023@シアトル)で発表された塩野義製薬の経口抗ウイルス薬ゾコーバ(ensitrelvir)について紹介されている.軽~中等度のCOVID-19患者において,感染可能なSARS-CoV-2ウイルスが検出されなくなるまでの期間を29時間短縮することがPh2/3試験(SCORPIO-SR)の第3相解析で示された.SARS-CoV-2陽性期間を短縮できた薬剤としてはゾコーバが最初のものとなる.また当初予定のなかった付加的(exploratory)解析で,投与開始時の症状スコアが中央値以上の集団において,ゾコーバ125 mgはCOVID-19に特徴的な咳や喉の痛み,倦怠感,味覚・嗅覚異常など14症状のいずれかの長期持続を認める患者の割合を,偽薬群と比較して有意に減少させた(14.5% vs 26.3%;45%の相対リスク低下;p<0.05).以上より抗ウイルス薬がlong COVIDを改善する可能性が示された.残存ウイルスがlong COVIDの原因であり,抗ウイルス剤がlong COVIDを予防するという仮説を支持する結果である.しかし本研究はlong COVIDへの効果を検討することを当初目的としていなかった点で問題がある.
Nature News, 03 March 2023

◆経口糖尿病治療薬メトホルミンはlong COVIDの予防薬として有望である.
メトホルミン,イベルメクチン,フルボキサミンの3剤のいずれかがlong COVIDを予防できるか検討した研究が米国から報告された.2x3並行群間ランダム化試験で,偽薬対照を効率的に共有している.試験の特徴として,対象を30~85歳の肥満を認める患者としている(中央値45歳,女性56%).参加者1323人のうち8.4%がlong COVIDと診断された.イベルメクチン(ハザード比0.99),フルボキサミン(1.36)は無効であったが,メトホルミンは有効性を認め,ハザード比0.58であった(P=0.009;図2).メトホルミンは偽薬と比較して,long COVID発症率が42%相対減少し,10.6%から6.3%への4.3%の絶対減少した.メトホルミンの効果は,ウイルス変異株を含むサブグループ間で一貫していた.また症状発現から4日以内に開始された場合,ハザード比は0.37まで向上した.2週間のメトホルミン投与による副作用のリスクはほぼなく,コストも1~2ドルときわめて安い.メトホルミンはlong COVID予防において重要な薬剤となる可能性がある.
Preprint with the Lancet.



◆感染後に出現する特定のケモカインに対する自己抗体は良好な予後と関連する.
ケモカインはサイトカインの一種で,白血球などの遊走を引き起こし炎症の誘発に関わる.COVID-19でっも,ケモカインが気管支肺胞液などに多量に検出され,肺の炎症を促進し,重症化の一因となる可能性が高い.今回,SARS-CoV-2感染後,ケモカインに対する自己抗体が出現し,特異的なケモカイン抗体の高発現が良好な予後と関連することが示された.具体的には,CXCL5,CXCL8,CCL25に対する自己抗体が検出された.これらのケモカインは,炎症と組織の再構築を促進する好中球などを引き寄せるため,自己抗体の存在は有害な炎症反応を弱めることによる保護効果を示すものと考えられる.またCCL21,CXCL13,CXCL16に対する自己抗体は,感染後1年のlong COVID患者と比較して回復した人で増加していた.ケモカイン抗体はHIV-1感染症や自己免疫疾患でも認められるが,これらの疾患では標的とするケモカインがCOVID-19とは異なっている.ケモカインのNループに結合するCOVID-19回復者由来のモノクローナル抗体は,細胞の遊走を阻害した.免疫細胞の移動を制御するケモカインの役割を考えると,ケモカイン抗体は炎症反応を調節する可能性があり,今後,治療標的となる可能性がある.
Nat Immunol (2023).


◆COVID-19感染後4〜7週間で発症したパーキンソン病6例の症例集積研究.
SARS-CoV-2ウイルスは神経向性ウイルスで,急性期に神経合併症をきたすのみならず,アルツハイマー病発症のリスクを増加させる.つまり感染からの回復後に神経疾患を発症しうる.イタリアからCOVID-19感染後にパーキンソン病(PD)を発症した6例の症例集積研究が報告された.感染後平均4〜7週間でPDを発症した.COVID-19の重症度との関連は認められず,画像検査にて明らかな脳構造の異常は認めなかった.全例で発症時に一側性の安静時振戦を認め,治療反応性は良好であった(5例L-DOPA,1例ロピニロール).3名で前駆症状としてレム睡眠行動異常症を認めたことから,著者らはこれらの症例において,COVID-19感染がもともと潜在していたαシヌクレイン脳病理を促進し,顕在化させたと推測している.→ アルツハイマー病リスク上昇も同様の機序が推測されている.
Eur J Neurol. 2023 Feb 18.

◆感染後のてんかんは軽症例でも生じ,とくに小児で高い.
英国から,COVID-19感染後6カ月間のてんかん発症のリスクについて検討した研究が報告された.電子カルテ86万934件を解析した.COVID-19では感染後6カ月以内のけいれん発作の発生率は0.81%であった(インフルエンザと比較したハザード比1.55).てんかんの発生率は0.30%であった(ハザード比1.87).COVID-19後のてんかんは,入院歴のない人,16歳未満で高かった.COVID-19感染後6カ月間の新規けいれん発作およびてんかん診断の発生率はインフルエンザより高く(図3),重症度が低い患者でもリスクがあることが示された.また小児はリスクが高く,小児におけるCOVID-19感染予防の重要性が示唆された.
Neurology. 2023 Feb 21;100(8):e790-e799.



◆母体の感染後,胎児脳に皮質出血を伴うSARS-CoV-2ウイルス感染が生じうる.
母体のウイルス感染とそれに伴う免疫応答は,胎児の脳の発達に影響を及ぼしうることが知られている. 英国からSARS-CoV-2ウイルスが胎児の脳に与える影響を調べた研究が報告された.驚くべきことに妊娠初期および中期の胎児脳組織において,SARS-CoV-2ウイルスの存在が確認され,大脳皮質出血も合併していた.スパイク蛋白は,大脳皮質の神経細胞や前駆細胞にはほとんど検出されなかったが,出血したサンプルの脈絡叢に豊富に存在していた.SARS-CoV-2ウイルスは,胎盤,羊膜,臍帯の組織にもわずかに検出された.大脳皮質出血は,血管の完全性(integrity)の低下と,胎児脳への免疫細胞の浸潤の程度と関連していた.以上の結果は,SARS-CoV-2ウイルスが妊娠初期の胎児脳に影響を及ぼす可能性を示しており,長期的な神経発達への影響について確認を行う必要がある.
Brain. 2023 Mar 1;146(3):1175-1185.

◆COVID-19に伴う頭痛の機序として三叉神経血管系が有力視されている.
SARS-CoV-2感染およびワクチン接種後の頭痛に関する総説が発表されている.病態機序について議論している.感染急性期の頭痛は①局所ないし全身の炎症に伴う三叉神経血管系の活性化,②ウイルスによる直接障害(?),long COVIDとしての頭痛は①局所の炎症に伴う三叉神経血管系の持続的活性化,②自己免疫(?),③潜在的な片頭痛素因の賦活(?)が推測されている.またCOVID-19ワクチン後の頭痛では①TNFαによる髄膜の感作,②ノセボ効果が推測されている.また現時点ではエビデンスに基づく有効な治療法は確立されていない.
Cephalalgia. 2023 Jan;43(1):3331024221131337

◆全身におけるACE2発現マップ.
SARS-CoV-2ウイルスの受容体であるACE2に関する総説.図4はACE2の全身の発現を示している.中央の赤はバルク(従来の)RNAシーケンス研究で,ACE2はおもに小腸,脂肪組織,腎臓,心臓,呼吸器系,精巣,胎盤で発現していることを示す.限られた範囲ではあるが脳でも発現している.これらの結果は,各臓器における細胞特異的発現を確認するためのシングルセルRNA(scRNA-seq)シーケンス研究によって裏付けがなされている.青は高発現,灰色は低発現の細胞タイプを示す.脳では血管に発現し,周皮細胞が高発現,内皮細胞が低発現であることを示している.
Cell. 2023 Mar 2;186(5):906-922.




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