Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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APOE4ホモ接合は遺伝性アルツハイマー病である! ―危険因子から原因遺伝子に変わる大きなインパクト―

2024年05月13日 | 認知症
Nature Medicine誌最新号に驚くべき論文が掲載されました.APOE4ホモ接合(アポリポタンパク質E遺伝子型がe4 /e4であること)がアルツハイマー病(AD)の遺伝的に独立したひとつの病型となるか検討するため,臨床,病理,バイオマーカーを調べた研究です.結論として,APOE4ホモ接合は完全浸透を示し(=100%の確率で発症し),発症年齢を予測でき,かつ遺伝性の早発型ADやダウン症候群に関連したAD(ADADとDSAD)と同様のバイオマーカー変化を示すという,遺伝性疾患としての特徴を有していることが示されました(図1).つまり今まで「危険因子」として理解されてきたAPOE4は「ホモ接合の場合,1つの遺伝性疾患として再定義すべき」という概念の転換を迫る内容です.もしそうなると人口の2%,ADの15%なので世の中で最も多い遺伝病になります(ただしADの診断をバイオマーカーで定義して良いのかという批判はあります).



研究では,5つの大規模コホートのデータが解析され,病理学的研究では3297人,臨床研究では10039人が対象となりました.ほぼすべてのAPOE4ホモ接合がAD病理を示し,APOE3ホモ接合と比較して55歳からADバイオマーカーのレベルが有意に高いことが示されました.また65歳までに,ほぼ全員に脳脊髄液中の異常アミロイド値が認められ,75%でアミロイドPETが陽性になりました.これらのマーカーの有病率は年齢とともに増加し,APOE4ホモ接合ではADの病態がほぼ完全浸透であることが示されました.発症年齢はAPOE4ホモ接合では65.1歳と早く(図2),その95%信頼区間はAPOE3ホモ接合よりも狭いものでした.さらにAPOE4ホモ接合における症状発現の予測可能性とバイオマーカーの変化の順序は,ADAD,DSADと同じでした.しかし,認知症期においては,早期から臨床的ないしバイオマーカー的変化が認められたにも関わらず,アミロイドやタウPETには違いを認めませんでした.



ここからが重要です.この研究の臨床・研究へのインパクトは非常に大きいと考えられます.
1)Aβ抗体療法と遺伝子診断・・・レカネマブ治療において,米国では副作用であるARIAを予測するために遺伝子診断が推奨されていますが,その遺伝子診断がより重大な意味を持つことになります.例えばAPOE4ホモ接合であることが判明し,結果を開示した場合,ホモ接合であればこそ,レカネマブを使用したいという気持ちをもつ患者が増加するものと予測されます.しかし同時にホモ接合はARIAを発症するリスクが大きいため,まさにアンビバレンツな状態になり,患者も医師も苦悩しますARIAをきたした患者の認知機能のデータが公開されていないことで,さらに治療の自己決定は難しくなります).

2)遺伝カウンセリング・・・ただでさえ難しいレケネマブ開始前の遺伝カウンセリングがさらに複雑化します.遺伝子診断の結果を本人に開示するかどうかがまず求められます.本人や家族への精神的影響を考えて開示しないことを選択する施設も増えそうです.その場合,患者さんが治療を選択するケースも増えますが,ARIAのリスクが高いので,安全のために医療者は当初の回数よりも多いMRIを施行し,かつ抗凝固薬やtPAに関する説明もするため,開示せずともホモ接合であることが分かってしまうものと考えられます.また遺伝カウンセラー数は少ないため,負担も大きくなります.カウンセラーへの教育に加え,増員,診療報酬改定が求められます.

3)臨床試験と治療開発・・・ApoE4ホモ接合の臨床試験参加者は,バイオマーカーの変化や経過が予測可能となるため,参加者の選択や試験デザインの設計において大きな影響が生じます.効果判定も遺伝子のタイプ別に行う必要が出てきます.治療の個別化が可能になり,発症前診断をして,発症前からの早期介入ということが検討されていくものと思います.

以上のように問題が複雑化して,患者さんも医療者もしっかり勉強しなければshared decision making(協働意思決定)が困難になりつつあります.抗体療法の開発前は,APOE遺伝子検査は臨床では推奨されない検査でしたので,大変なことになってきたと思います.患者さんも医療者も,人生の最後の時間をいかに過ごしたいと考えているのかを問われているような気がします.
Fortea J, et al. APOE4 homozygozity represents a distinct genetic form of Alzheimer's disease. Nat Med. 2024 May 6.(doi.org/10.1038/s41591-024-02931-w
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