Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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可逆的な脳ドーパミントランスポーターシンチ異常

2023年08月12日 | 運動異常症
【パート1.カタトニアとは?】
カタトニアは,広範な運動,言語,行動の異常によって特徴づけられる複雑な神経精神症候群です.統合失調症や気分障害に認められることが多いため,精神科領域にみられる神経症候と考えがちですが,感染症(ウイルス性脳炎,神経梅毒,SSPE,プリオン病等)や自己免疫性脳炎(NMDAR脳炎,傍腫瘍症候群,SLE),変性疾患(ハンチントン病,パーキンソン病),低/高ナトリウム血症,自閉症,アルコール離脱症候群,薬剤性などさまざまな原因で生じ,ときどき経験します. 症候学的には,重力に抗して姿勢を自発的・能動的に維持し(posturing),受動的にとらされた姿勢を重力に拮抗したまま保持し(カタレプシー:catalepsy),屈曲の際に検査者に蝋(ろう)を曲げるような感触を与えるという筋トーヌスの特徴を示します(waxy flexibility).



上記の3つがカタトニアでよく認められる運動異常症ですが,他にも多くの特徴があり,正確な診断のためには,この現象の全スペクトルを認識することが重要です.DSM-Vでは以下の12項目のうち,3項目を満たせばカタトニアの診断が可能になります.
1.昏迷(stupor)
2.カタレプシー(cataplexy:受動的にとらされた姿勢を重力に拮抗したまま保持する)
3.蠟屈症(waxy flexibility:他者が姿勢を取らせようとすると,ごく軽度で一様な抵抗がある)
4.無言症(mutism)
5.拒絶症(negativism:指示や刺激に対して反対する,あるいは反応がない)
6.姿勢保持(posturing:重力に抗して姿勢を自発的・能動的に維持している)
7.わざとらしさ(mannerism:普通の所作を奇妙,迂遠に演じる)
8.常同症(stereotypies:反復的で異常な頻度の,目的指向のない運動)
9.外的刺激の影響によらない興奮(agitation)
10.しかめ面(grimacing)
11.反響言語(echolalia:他人の言葉を真似する)
12.反響動作(echoplaxia:他人の動作を真似する)

治療についてはRCTは不足してエビデンスレベルは高くないものの,ベンゾジアゼピン系薬剤が第一選択薬とされ,N-メチル-d-アスパラギン酸受容体拮抗薬も有効であると考えられています.具体的にはロラゼパム,ジアゼパム,ゾルピデム,アマンタジン,メマンチン,トピラマート,オランザピンの有効性を示した前方視的試験,症例集積研究があります.電気けいれん療法(ECT)は薬物治療に抵抗性の患者に用いられます.カタトニアを早期に完全に消失させるためには,その根本的な原因を特定し,治療する必要があります.以下の総説がお薦めです.動画が3つほどありますが,フリーで見ることができます.次回,意外なことが判明したカタトニアのDATスキャンについて議論します.
Wijemanne S, Jankovic J. Movement disorders in catatonia. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2015 Aug;86(8):825-32.

【パート2.DAT-SPECTの集積低下が回復する疾患】
DAT-SPECTは,パーキンソン病(PD)やレビー小体型認知症(DLB)などの診断に役立つ画像診断法です.岐阜大学チームは自己免疫性脳炎に伴うパーキンソニズムの2症例におけるDAT-SPECTの集積低下が免疫療法で改善しうることを報告しています(文献1, 2).ただし集積が回復する機序は不明です.

さてDAT-SPECT集積低下の改善を認めたうつ病5症例が鹿児島大学精神科から報告され注目を集めています.全例女性でカタトニアも認めました.Yahr 2度のパーキンソニズムを2名で,認知機能低下を3名で認め,2人はDLBの診断基準をprobableで満たしていました(ただしMIBG心筋シンチに異常はなく,レム睡眠行動異常症や嗅覚障害もなし).治療として抗うつ薬,ベンゾジアゼピン,カタトニアに対するロラゼパム,ECTが行われ,うつ症状,パーキンソニズム,認知機能障害は軽快しました.DLBの2名はいずれも診断基準を満たさなくなりました.同時にDAT-SPECTの集積低下も改善しました!



考察されることは以下の3点です.
1)5症例に認めたDAT集積低下は,うつ病よりもむしろカタトニアと関連している.逆にカタトニアの病態の一部に,線条体のドパミン作動性伝達障害が関与している可能性がある.
2)5症例におけるDAT集積低下は,恐らくαシヌクレイノパチーに伴うものではない.
3)集積低下が回復した機序は不明.

以上より,カタトニアでは可逆的なDAT-SPECT集積低下を認めることが示されました.DAT-SPECTで集積低下を認め,DLBを疑っても,カタトニアを合併する場合は,慎重に診断する必要があります.

1) Fuseya K, et al. Mov Disord Clin Pract. 2020 May 5;7(5):557-559.

2) Ono Y, et al. Autoimmune encephalitis presenting with atypical parkinsonism: A case report and review of the literature. Neurol Clin Neurosci 28 April 2023

3) Arai K, et al. Aging-Related Catatonia with Reversible Dopamine Transporter Dysfunction in Females with Depressive Symptoms: A Case Series. Am J Geriatr Psychiatry. 2023 Jun 2:S1064-7481(23)00310-X.

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