Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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SCA36の臨床像

2012年07月03日 | 脊髄小脳変性症
これまでの研究で,常染色体優性遺伝性脊髄小脳変性症において,30以上の異なる遺伝子座,22の原因遺伝子が同定されている.本論文は,そのなかのひとつで,昨年,本邦より報告された脊髄小脳変性症と運動ニューロン病の両方の特徴を併せ持つSCA36(ニックネームAsidan; この名前はAsida river familyに由来しているようだ)の臨床像の詳報で,岡山大学を中心とするグループからの報告(AJHGの際の5家系から8家系に増えている).ちなみに本疾患の原因遺伝子はnucleolar protein 56(NOP56)遺伝子のイントロン1のGGCCTGリピートの伸長であることが判明している.

今回の論文では遺伝子診断で診断が確定した9家系18名の症例が検討され,1名では筋生検,1名で剖検が行われている.

まず家系図をみると1名のみ発症者の家系があり,孤発例のように見える症例も存在する.発症年齢は53.1 ± 3.4歳(47~58歳),罹病期間は6~19年で,緩徐進行性の経過をとる.4家系の5遺伝子伝達での発症年齢の変化は-10~0歳(平均14.4歳)であったが,表現型の促進現象は父方由来,母方由来のいずれにおいても明らかではなかった.

主な症状は体幹失調(100%),失調性構音障害(100%),四肢失調(93%),腱反射亢進(79%)であった.舌の線維束性収縮とそれに引き続いて生じる萎縮が71%で認められ,とくに罹病期間10年以上の症例で目立った.線維束性収縮は挺舌時に目立った.しかし嚥下機能は比較的保たれ,これらの特徴は球脊髄性筋萎縮症に似ている.四肢・体幹の線維束性収縮や萎縮は57%に認められた.しかし筋力低下よりも体幹の失調により車椅子使用になることが多かった.末梢神経障害の合併はなし.うつなど精神症状も認めなかった.血清CK値は正常.画像所見では少脳萎縮と第四脳室拡大を認めるが,中小脳脚,脳幹,大脳は保たれ,異常信号も認めない.SPECTでは小脳・橋の脳血流低下を認める.

筋電図と筋生検では下位運動ニューロン障害が認められた.剖検例の病理学的解析では小脳プルキンエ細胞の変性所見と,舌下神経核と脊髄前角における下位運動ニューロンの著明な脱落を認めた.免疫組織ではNOP56は種々の神経細胞の核における局在が認められたが,残存神経細胞ではNOP56,TDP-43,ataxin-2陽性の核内ないし細胞質内封入体は認めなかった.ALSで知られるTDP43の核外移動も認められなかった.

以上より,SCA36は比較的純粋な小脳性運動失調に, 舌や四肢の進行性の運動ニューロン症状を呈する疾患であることがわかった(舌萎縮は脊髄小脳変性症では稀だが,SCA1では15%,SCA3/MJDでは15%,繊維束性収縮についてはそれぞれ20%,35%と報告されている).脊髄小脳変性症と運動ニューロン疾患の「交差点」的な,双方の特徴を併せ持つ疾患と言える.

Clinical features of SCA36: A novel spinocerebellar ataxia with motor neuron involvement (Asidan).
Neurology 79; 333-341, 2012

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