日々・from an architect

歩き、撮り、読み、創り、聴き、飲み、食い、語り合い、考えたことを書き留めてみます。

韓国建築便り(9) 興味深かった三国の近代建築保存へのスタンス

2008-03-13 16:42:02 | 韓国建築への旅

手元にシンポジウムの資料として配布された冊子がある。
セッション1で行われる国際シンポジウムのパネリストの主題解説(講演)の原稿が、バイリンガルで掲載されており、更にセッション2と3に分けて一日をかけて行われる近代建築研究成果の報告が記載された134ページに及ぶものだ。ちなみに僕の日本語で書いた原稿は、英語とハングルに翻訳されている。

興味深いのは、基調講演をした金晶東前会長の書かれた、1987年と1999年に開催された、韓国、中国、日本の三国による国際シンポジウムの記録だ。
1989年は台湾(自由中国と書かれている)で行われており、日本からは神奈川大学の富井教授と、まだ東大生研藤森研究室の院生だった西澤泰彦現名古屋大准教授が講演をしており、記念写真には若き日の藤森照信教授、同じく藤森研の村松伸さんや、金晶東教授、尹(ユン)教授などが写っている。

1999年には「東北亜都市環境会議」として中国の瀋陽で3日間に渡って行われた。日本からは、槇文彦、伊藤滋、三宅理一、陣内秀信、益田兼房、北澤猛各氏、それに西澤さんや志村直愛さんなど、17名もの発表者がいるという大きな会議だったようだ。韓国からも金晶東教授を始め数多くの方が参加している。この会議で、中国と韓国の国旗が初めて同時に上がり、地元の韓国人が涙を流したとの逸話が残っていると、尹教授が感慨深けに話してくれた。

僕は日本の文化財行政について、文化財保護法や指定や登録の文化財を管轄する文化庁のシステムなどを報告した後、JIA、DOCOMOMO、建築学会やそれをバックにして行ってきた僕自身の保存活動と共に、草の根といってもいい市民の活動にもふれた。そして、高度成長期に建てられたモダニズム建築保存の抱える課題、市民になかなかその魅力が受け止めてもらえない状況と、財界、政界の経済優先問題に直面して、次々と解体される現状の悩みを、パワーポイントによって建築を紹介しながら伝えた。
最後に、ジャーナリストとの信頼関係を築くことによって、市民との建築文化共有の期待ができるのではないかと会場の方々へ問いかけた。

1stセッションが終わった後、日本からは同行した山名理科大准教授が参加して、意見交換が行われた。そこでの好奇心に満ちたChong、Jae UK壇国大学教授(M。Arch)のコメントに、今回の近代建築保存についての3国の問題意識が上手く総括的されていると思った。
『韓国は、都市を生誕時からの変遷を説き起こしながら現在を把握してその是非を考察し、中国は建築単体(その価値についての)保存への関心はなく、開発の中で一街区を残すことに興味を持つ。日本は単体の建築の価値、建築家の存在や建っている建築への記憶の必要性を把握してその保存の持つ意味に関心があり、三国のまち(都市)としてのアイデェンティティが異なるのが興味深い。』そしてそこに、探っていくべき東北アジアの課題があると思ったというものだ。

僕が歴史の研究者ではなく建築家だということもあるような気がするが、近代建築の保存は、国のシステムや国情によって異なってくるという実感を改めて得ることになった。中国のDOCOMOMOへの加入は検討案件かもしれないが、自分がかかわろうとは思わないという、ユンジェ副教授同済大准教授のコメントも伝えておきたいことだ。

シンポジウムの後、尹教授に案内していただいて、ユンジェ副教授や山名さんと共に未だ観ていないという三星美術館を訪れた。記念写真の撮りっこをした。シャープで論旨の明快なユンジェ副教授は30代半ば、それでも400名ほどいる教師陣の中ではもう年輩のほうなのだそうだ。将来へ向けての、中国の底力のようなものも感じ取れる。

年の開けた1月12日、建築学会大ホールに於いて、三宅理一教授のコーディネートによる「朝鮮通信使」に関するシンポジウムが行われた。パネリストとして招かれた金晶東教授とがっちりと握手し、尹教授が金正新教授を引き継いで、DOCOMOMO Koreaの代表に就任すると報告を受けた。
尹教授とは、来春Seoulの近代建築見学ツアーを、DOCOMOMO JapanとKoreaの連携によって企画する約束をしてきた。
韓国の丹下健三とも言われた金寿根の傑作、空間工房のホールで会合を行い、庭で懇親会を開きたいものだ。あの楽しかったDOCOMOMO Koreaの設立総会の一瞬を蘇らせたい。

<写真、三星美術館にて、中央に尹教授、向かって右にユンジェ副教授>


最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
会報 (moro)
2008-03-28 18:49:43
本日、会報が届きました。有難うございます。T君や卒業生に渡したいと思います。

三宅理一教授は芝浦工大時代の、製図の先生でした。懐かしく思い出されます。韓国のちょっと日本とは異質なモダニズムはとても興味深いです。
返信する
いざ韓国へ。1年先ですけど (penkou)
2008-03-31 00:21:50
来春に実現したい韓国建築ツアーには是非ご一緒に!三宅先生が製図とはねえ(笑)
返信する

コメントを投稿