日々・from an architect

歩き、撮り、読み、創り、聴き、飲み、食い、語り合い、考えたことを書き留めてみます。

歌舞伎座:「襲名」という概念と、新オリンピック競技場

2013-07-15 14:49:17 | 建築・風景

JIAアーキテクツ・ガーデンという、6月15日から一月に渡って様々な行事を行った締めとして、一昨日(7月15日)鈴木博之青山大学教授に基調講演をしていただいた。会場は神宮前の建築家会館である。

僕はJIAメンバーとしてこの一連の行事に参加した。主宰している「建築家写真倶楽部」のイベントで、写真家村井修さんに師事している写真家鈴木正見さんを招いて「写真家鈴木正見の撮るインドとネパール & 師『村井修』の撮影裏話」と題した写真を使った講話を開催(7月5日)。興味深い話をたくさんお聞きすることができたので、いずれこの欄でも紹介したい。

さて鈴木教授の講演である。
タイトルは「建築の現在・継承・襲名」。僕はいくつかの委員会でご一緒しているし、DOCOMOMOの代表を担った鈴木教授と共に幹事長としてDOCOMOMO Japanを率いてきた縁もあって、来場した方々へプロフィール紹介をした。

講演は二つのテーマ、「建築と都市の日本的手法」と「2020年オリンピック施設応募案から」と題した興味深いものだ。前半は「庭園的都市、借景、縮景、見立て、読み替え」とのサブタイトルによる江戸から東京に変わっていく都市の変遷とそこにかかわる企業や建築家の実像、そして、現代に眼を向けた新設された歌舞伎座への論考、継承・襲名という概念構築問題である。
保存と絡んでくる大きな課題で、歌舞伎座はいわゆる保存でもなく、レプリカでもなく、単に新築ともいえない概念「継承(伝統の!)・襲名」だが、何でもありになることへの懸念も表明、襲名とは言いえて妙だと鈴木教授の語彙の豊富なことに一驚することになった。

関連したもう一つのテーマは、都市は「無から有」を生み出すのでない。そこに建築の現在に、継承(保存)の課題があるとの論考。余談だが、17日に愛知芸大の委員会の後大阪に行き、竹原義二さんに会ってヒヤリングすることになっていて、その竹原さんの事務所名は無から有を生み出すのだとなずけた「無有建築工房」だ。都市の一般概念を飛び越える建築家竹原さんの想いを感じ取ることにもなるだろう。

さて鈴木都市論に関しては、つい最近著した鈴木教授の著書「庭師小川治兵衛とその時代」(東京大学出版会刊)を読み進めていて感じ取っていることや、著作「都市へ」での問題提起に心を打たれたことを、関連しているテーマなので追記しておきたい。

後半のいくつかのコンペ応募案を画像で写し、その新国立オリンピック競技場コンペ案に関する論考は、審査員を務めた鈴木教授ならではのもので、来場した建築家は身を乗り出しながら聞き入った。歌舞伎座とこのコンペ案の底にある都市の概念との繋がりに興味深々となる。
勝ち取ったザハの案。丹下健三の代表作、代々木の体育館の空間構成の要、二本の構造体のイメージ,つまりオマージュが読み取れるのではないかとの指摘と他の案への審査員の評価などの裏話は興味が尽きないものだった。
会場からの質疑も的を得たもので、今までにない巨大なスケールによる建築・構築物に対して、使い、見る人間との関わりをどう捉えていくのかという課題が浮かび上がった。

会場には、建築学会の委員会でご一緒した構造の佐々木睦朗さんや、剣持デザイン事務所の松本哲夫さんもいらして話が弾んだ。