日々・from an architect

歩き、撮り、読み、創り、聴き、飲み、食い、語り合い、考えたことを書き留めてみます。

韓国建築便り(7)見事にコンバージョンされた遊仙島公園

2008-02-01 11:52:49 | 韓国建築への旅

SEOULを北へ向かう漢江の中に、島が浮かんでいる。遊仙島(Seonyudo)だ。かつては浄水場だった。その遺構を生かして公園にした。

SEOULの中心街から金浦空港へ向かって漢江沿いに走ると、一体なんだろうと思わせるダイナミックな半円形の橋が現れる。遊仙島へ渡る橋だ。
そこへ上るスロープは、まるで山田守が設計した東海大学湘南校舎に設置されているような、半円形になっている踊り場のあるコンクリートでつくられている。このスロープは浄水場があったときの遺構だが現役だ。
階段も在るが、このスロープをゆっくりと歩くと、高さが変わっていく廻りの景色が楽しめてなかなか乙なものだ。上りあがると「遊仙橋」と漢字で掛かれた案内板が、ハングルと英語併記で欄干に設置されている。

「遊仙橋」と「遊仙島」そして「遊仙島公園」。SEOULの人々の命を掌る(つかさどる)水瓶にふさわしいネーミングだと思った。架け直された橋にはウッドデッキが敷かれており、大勢の人々が楽しそうに渡っている。
まず僕たちが出会うのは、改造された円形の水槽だ。半面は円形劇場のような階段状の勾配になっており、下りると公衆便所がある。思わず手で触ってみたくなる割り肌のレンガで外壁が造られ、この公園は「只者ではない」と、建築家の僕は早、心が躍りだす。

上からこの情景が見えるようにウッドデッキと鉄骨、ワイヤーロープの手すりでつくられた通路(橋)が掛かっており、このデザイン構成は、この公園全体のモチーフになっている。通路に沿って水路があったり、水路から落ちる水が滑らかな帯状になる仕掛けもされたりしていて、思わず見とれてしまう。
10月なのに既に紅葉が始まっていて、潅木の中の風化したコンクリートの遺構を巡る散策は、とても気持ちがいい。コンクリートも風化していくと味わいが出てくるのだ。

そして現れるのが、やはり肌割りレンガによる管理棟と展示館だ。そのレンガの外壁の前の樹木は白樺だ。そして敷地の高低を支える塀は、錆びを生かしたコルテン鋼。釘で引っかいたり、白墨で書かれたハートマークの落書きも、ここではなんとも微笑ましい。
このコルテン鋼の錆びの質感と色は、韓国の人々の感性に合うのか、BOOK CITYに設置された彫刻や、町の店舗の外壁にも、無造作に使われたりしている。レンガの肌との風合い、僕も好きだ。
公園の仕組みと建築のコラボレーション。楽しんでつくっているなあ。だから楽しい。

展示館には、この浄水場の歴史資料や、遺構を生かしてつくった公園の紹介と共に、この建築を設計したときのスケッチや断面図なども展示され、このプロジェクトへの関係者の誇りや、市民にその経緯を伝えたいという想いが伺え嬉しくなる。
帰りはウッドデッキ通路を下りて,遺構の中を歩いた。密生した木々の中をL字型にくぐらせる路地の仕掛けがあったりして、仲のいいカップルが楽しんでいる。それを見る僕たちも、ふっと気持ちが暖かくなってきた。
この公園は、ソウル大学環境大学院ソン・ジョンサン教授によってつくられ、SEOUL市民愛賞を得た。建築の設計はイオンSLDである。