日々・from an architect

歩き、撮り、読み、創り、聴き、飲み、食い、語り合い、考えたことを書き留めてみます。

愛しきもの(1) 小林春規の「初冬」

2007-10-10 10:07:49 | 愛しいもの

版画家小林春規さんと出会ったのは何時のことだったのだろう。`新潟絵屋`で、新潟市内の、下町(しもまち)を題材にした5人の作品を展示し、美術評論家大倉宏さんの司会によってシンポジウムをやったことがあった。そのときだったような気がする。
僕はハーフサイズカメラで町屋の並ぶ下町を撮ったが、その写真を気に入ってくれた大倉さんから、展覧会での展示と下町を語るシンポジウムへの誘いがあって参加した。そこに新潟を描き続けている、小林さんの作品があり、小林さんがいた。

いや小林さんに初めて会ったのはもっと前の、新潟絵屋`ができた直後だったかもしれない。
この画廊は、大倉さんを中心とした、新潟の街並みを愛する人たちが集まって、下町の一角にある連子格子の町屋を借りて、手を入れ開設したのだ。
展覧会は必ずしも新潟の作家や作品にこだわっていないが、新潟にゆかりのある作家を大切にする。だから`新潟絵屋`は新潟に根付いた。
その下町も都市計画道路開設によって、大半の木造家屋、つまり町屋がなくなった。絵屋も取り壊されることになり、並木町から上大川前通りに6月3日(2007年)に移転した。僕はまだ行っていない。今月末に訪れるのが楽しみだ。

大倉さんとは、もう10年も前のことになるが、JIAの保存大会を新潟でやって以来のお付き合いだ。僕の設計したホテルの定期点検で 新潟に行くと、仕事が終わった後、絵屋を覗き、大倉さんや大会以来親しくなった人たちと一杯やるのが楽しみ。そこに小林さんがいたりすることがある。

昨年の秋、絵屋と姉妹関係にある画廊フルムーンで、小林さんの個展が行われた。
そして発見したのだ、小林さんの版画を。小林春規の版画が突然見えたのだ。不思議な出来事だ。小林さんの素朴な木版画は、何度も見ているし、版画論を時を忘れて語ることもあるのに。
電流が背中を走ったように身体が震えた。
「新潟の光ってこうなのですよ」と大倉さんは云う。「初冬」の重い空の厚い雲の間から、北の光が僕に突き刺さる。