1月26日は僕にとってもIさんにとっても特別の日だ。
1985年1月26日、新横浜に建てたIビルの竣工式が行われた。Iさんの誕生日で大安だった。
以来僕たちは21年間1月26日前後の土曜日の午後6時、Iビルの8階につくったIさんの別邸に集う。
僕たちというのは、設計をした僕。工事を担当したM建設のOさん。彼は北大建築学科のOBで余市の生まれ。剣道4段の体育会系好男子。当時はぺいぺいの現場員だったが,今では大きな現場を仕切る大所長になった。それに新横浜の不動産を担うMさん。彼は僕をIさんに引き合わせてくれたHOさんの2代目だが、当初からのメンバーだ。僕のクライアントでもあり、グルメでもあり、飲み友達でもある。
それに清掃などの管理を委ねるUMEさん。彼は新横浜で僕の設計した全てのビルの清掃を担い、彼抜きにして僕の新横浜はない。
このところ常連になったAさん,Mさんのサポーターだ。彼女は僕の大学の先輩かと思ったら後輩らしい。年を明かさない彼女の若々しさ?(? いや失礼)に敬意を表して、飲むと僕は先輩風を吹かしてえらそうなことを言うことにしている。
集うメンバーは、定年になって退職して故郷へ帰った人がいたりして多少変わったが、皆このビルの建設や管理やテナント対応などで縁のある人々だ。
21年前僕はこのビルを、グレーのタイルで覆いたいと思った。日本の街が白や茶で満ち満ちていたからだ。
えーっ!グレー、灰色?と難色が示され、それでは事例をと、INAXをはじめメーカのデータリストを見せてもらったりしたが、京都の電電のビルなどといわれてサンプルを見ると、グレーとはなっているもののアイボリーグレー調で納得できる色ではなかった。数年後、日本のオフィスビルがグレーに染まっていくことを考えると、僕の感性を自画自賛(誰も褒めてくれないので)したくなる。
まあ仕方がない、それではちょっと建築を観て歩こうとIさん一家と車に乗って東京を回遊し、山下和正氏のペガサスビルと同じ色にすることになった。艶のないベージュ。
ところが数日して敷地の前で工事をやっていたビルのシートがはずれ、なんと同色のベージュが現れた。その瞬間Iビルがグレーになった。サンプルを焼き、黒に近いダークグレーにした。
Iさんの子息Tさんから弾んだ電話が入った。横浜線を跨ぐ路を走らせたら黒いおしゃれなビルが表れた。おお!新横浜にもこういうビルが建つようになったかと親父と話していたら、なんと足場の外れたうちのビルではないか!僕はこの電話の一瞬を、多分死ぬまで忘れない。
今では数多くの建物が建ち、こじんまりとしたその姿は近寄らないと観えなくなってしまったが、当時はまだ野っ原の、新横の街に黒が屹立(格好良すぎるかな)したのだ。
実は集うといっても、I一家総出でつくって下さる手料理をご馳走になるのだ。
定番がある。
まずごまめ黒豆や数の子が出てくる。そこで乾杯。市場まで出向いて手に入た中トロやいかの刺身。うーん!思い出すと唾がたまる。サラダ。今回は細いソーメンサラダだ。奥さんの煮物。今年は里芋。絶品としかいいようがない。そのほか2,3品あってなんと言っても鳥ももの照り焼き。油が乗っていてこれも思わず溜め息が出てしまう。これだけは我が家では食えない。我が愛妻が鶏だめなので。おつゆと最後に小さく握ったおにぎりが!なにせTさんの嫁さんが米所、味所の秋田の出。
馴れ初めを聞かされたものだ。いや好奇心旺盛な僕達が、根掘り葉掘り聞き出したのかもしれない。新年を迎えるとメニューを考えはじめ、一週間掛けてお料理を作る。幸せな僕たちだ。
お酒!実はこれが目当てでもあるのだ。
Mさんの、井波の親戚の造り酒屋が、毎年新酒を桶から汲み取って送ってくれる。焼きを入れない原酒。まあちょっとやそっとでは飲めない酒だなあ!と自慢してるみたい。自慢してるのだけど。
今年はこの寒さのためか出来がよい。毎年同じことを言っているような気がするなあ・・・
今年は1月28日だった。UMEさんが体調を崩して今年は居ない。チョット心配だ。当主のIさんも足の調子はよくないが、飲み食いは極めて快調だと奥さんに向かって煙幕を張る。
昔は明るい時間に集合し、屋上から一階まで検査をした。しかし時を経ていつの間にか歓談の為だけに集まるようになった。見なくてもメンテは皆が自分の役割を心得て素早く対応してくれるからだ。それになんといってもIさん一家は土曜日になると本家から此処へ集まり掃除をする。外壁のタイルまで雑巾がけをしてくれるのだ。
僕はいつのころから集合写真を撮るようになった。モノクロだったが今ではデジタル。アーカイヴだ。
二人のお孫さんはヨチヨチ歩きだったのに上は大学生になった。竿縁天井に組み込まれた白熱球に光る頭がなんと4人。それもまた格好の話題だ。変わらないのは僕とUMEさんだけ。髭が白くなったのを僕は自慢する。奥さんは白髪になり格好良い。
八畳のお座敷から見るバルコニーの小さな和風の庭に咲いた一輪の赤い椿がきれいだ。僕の友人の庭師の会心の作庭。雪を被った年もあったけ。
Oさんよ、余市の町長になれ!などとたわいのない馬鹿を言いながら楽しい一夜は過ぎてゆく。
Iビルよ、永遠なれ。
<写真 迎えてくれるIビル>