田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

下痢27 麻屋与志夫

2019-11-25 11:01:18 | 純文学
27

 後ろからふいに肩をたたかれた。
 彼女がほほ笑んでいる。
 フロワーを近づいてくるのに気づかなかった。
 服装が昨日とはかわっている。
 それを彼女に訊いて確認する暇はない。
 たしかに妻によく似た女てはあるが、それを言いだす気分ではない。
 彼女はぼくのとなりの席につく。
 三人は一斉に手ぶりをいれて話しだす。
 Kと彼女の話はうまくかみあっている。
 共通の話題。
 共通の記憶。
 場所。経験。
 
 ぼくはグラスの底についてした水滴で、黒いテーブルの上に「時間」と書いてみる。
 窓の外を行く人がにわかに増えて、通勤時間になったことがわかる。
 冬には全くそぐわない大きな葉をつけた熱帯植物の造花のように硬く動かない葉ごもりをとおして、それらの人びとの話し声や顔の表情までもよく見える。
 いや、話し声は聞こえるはずがない。
 その声はぼくらのものだ。
 だが、ぼくは三人の声をはるな隔たりをもってとらえている。
 貝殻をイメージさせる白い皿。
 あいかわらず水滴のついたグラス。
 レモンの香りの残っている透明な液体。
 
 白い……いや、あれは素焼き色をした小さな壺だった。むしろ銅色にちかい。けっして、白ではないことは確かだ。記憶のなかでは、どうしてすべてのモノが白に向かって色あせていくのか。透いて見える。白く。ぼくはいつも小さな骨壺を心の中にあれからというもの持ち歩いている。ぼくは骨壺の底で円形の火傷を膝に赤く刻印されたときから、心の均衡をかき、日常生活のゆがみ、あるいは白じらしさから、抜けだせないでいる。膝をひらくと半月形の火傷はいまでも消えていない。



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