田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

下痢24  麻屋与志夫

2019-11-22 06:10:29 | 純文学
24

 周りの調度品が薄闇のなかに浮かび上がった。
 ぼくは無理な姿勢で横になっていた。
 夢をみていたらしい。明かりが入ってくる窓の方向に顔を向ける。
 狭い空間なのに、あまりにも、調和のとれた調度品の配置は、ここが関西本線の始発駅天王寺の「都ホテル」の一室だからだ。
 ぼくは朝はやく目覚めてしまった。
 街には朝日が輝いていなかった。
 建物の壁面、屋根、道路や街路樹の色彩の判別がつかない。
 原稿を書き、それから長旅の疲れで寝込んでしまったらしい。
 鉛筆をにぎったまま……。
 骸のように足をのばしきった父の描写をしていた。
 反対に、ぼくは胎児のように丸くなって眠りこんでいた。
 夢をみていた。
 夢の内容をおもいおこそうとしても、夢をみていたということだけが記憶のひだに残滓となってとどまっているだけだった。
 腕が顎の下に触れていた。

 ぼくは自分の喉をしめようとしていたのだろうか?
 喉仏に触れていた。英語ではAdam's apple。
 いずれも、宗教に関係あるネーミング。おもしろい。

 喉をしめつけるような感覚だけがのこっているのは、言葉によってあの当時の時間をここに呼びもどしたためなのか。
 
 まばゆい朝の太陽が窓からさしこんでくる。
 通天閣の天辺に朝のはじめの光が照り映えている。
 ふいに背後で電話がなった。


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