田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

下痢11  麻屋与志夫

2019-11-09 18:31:47 | 純文学
11
 
頬を、肉のすっかり剥離してこけた頬をさらにつぼめた。……残り少ない命の炎をかきたてるように、タバコの火が一瞬明るくなった。タバコは口から離れた。喉元におちた。すでに父は火の熱に反応をしめすことのないからだになっていた。
死骸は棺桶をいっぱいに充填し、しかしやせ細ったからだはさほど重くはなかった。

釘を打ちつける音がぼくのこころにひびいた。
庭からあわてて組内のひとが拾ってきたのだろう。
泥を落とすために洗った水が小石にみようになまなましい質感をあたえていた。
釘の頭と石がこすれあって、火花が散った。
薄暗い部屋に女たちの泣き声が一斉に上がった。
それはまえもって、打ち合わせておいたような、見事な泣きかただった。





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下痢10  麻屋与志夫

2019-11-09 06:45:24 | 純文学
10

 ある夜。父は口腔いっぱいに水をふくむと、死期の近づいたものの見せる、瞳でぼくを見上げた。
 かすかに、もりあがった掛布団のふくらみが痛々しかった。
 駆けつけた姉たちはただうろたえるばかりで、父の眼の奥の消えていく風景には気づいていなかった。
 ……女たちがうるさい。タバコが吸いたい。酒が飲みたい。父は声にならない声で、ぼくに訴えていた。ふるえる唇にぼくはタバコをくわえさせた。
 ――なんてこと、するのよ。二番目の姉が叫ぶ。
 いまは応えるべきではない。
 病人の枕元では、釈明はするべきではない。

 ぼくは耐えた。




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