田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

下痢25  麻屋与志夫

2019-11-23 07:51:42 | 純文学
25

 ――どうや、爽やかな、朝やろ。
 ぎこちない関西弁だ。Kだ。ぼくも調子をあわせて大阪弁で応じている。まだよく目覚めていない。翳りのなかに存在している。父の背後霊から――思い出からぬけだせないでいる。
 口をきくのもおっくうだ。
 そうじやない、明朗快活な声がまだ受話器のなかにのこっている。

 自動扉が音もなく後ろで閉まる。
 まばゆい朝の街にでた。
 喫茶店はすぐにわかった。薄暗い空間に入りこむにはすこしだけ違和感があった。
 Kはモーニングをぼくのぶんも注文しておいた。長いつきあいだ。お互いのことはよくわかっている。
 話しているうちに、彼の言葉はしだいに故郷の言葉にもどっていた。
 ――いまごろ家のヤツと「虹の街」でもほっついているだろうよ。
 彼はさぐるような眼でぼくに訊く。
 ――彼女ほんとうは、キミのワイフなんだろう。……しばらくぶりで会ったおれをからかってんだろう?
 ――いや。とぼくは真顔で応えている。見ず知らずの女さ。新幹線の中でひろったんだ。わからない、といった顔がニタリと笑いにかわる。
 ――からかおうとしても、ダメダメ。会ったばかりの女が、ああも巧く、おまえの酒の相手ができるかよ。ぼくはなにを彼に話しているのだろう。
 ――ホテルに連れていかなかったことだけでも……わかるだろう。あれはほんとうに……ぼくが……。
 ――ところで。わからないまま、あやふやなまま、女の身元洗いはやめてKは話題をかえたらしい。
 ――お父さんは、残念だったな。苦しんだのか?
 幾つだった。と訊かれている。




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