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寝床に背中をおしつけたまま仰臥した父は、床ずれのために腰から臀部にかけて紫褐色に変容し、肉そのものは、ブヨブヨにうじゃじゃけて……その部分から死にかけていた。
人口肛門からはいやな臭いが立ち上り部屋に満ちていた。
風の吹き具合によっては家の外にまで流れだすのだった。
硬直した死屍のような形で仰向けに寝たままだが、父は痛みの遠のいている時など、あいかわらず重層的に罵詈雑言をぼくらにあびせかけた。
母は到底腕力などふるえるはずのない父におろおろしていた。
それでも、懸命に父の汚物の処理をしていた。
黄色く濁った瞳孔と肉のこけた父を見下ろす。
かさかさにひからびた海藻のような腕。
しぶきをあげてきらめく魚紋のようにいきてきとぼくらに迫ってきた父の腕がなつかしかった。
完全なる愛情がないように、完全に肉親を憎しみとおすことは不可能なことを、衰えた父の指先かなにかつもうとして……ピクット動くたびにぼくはおもいしらされた。
それはまったく、やるせないみじめな感情だった。
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