田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

下痢2  麻屋与志夫

2019-11-02 06:11:24 | 純文学
2

 父は一言も話せなくなってしまったが、ぼくはあの苦役の時期に遡行し……過去のなかに糊塗されているものを白昼の下にひきもどして、まったくちがった角度から光をあててみたいのだ。
 これは断言できる。
 この方法によってしかぼくは文章を回復させることは不可能だろう。
 いわば、これは、ぼくがこれから生きていくために父に捧げるレクイエムであり、それをぼくは文章にできないことになれば……考えると恐ろしい。
 生きていても、死んでいることになるだろう。
 あの苦難の時代を振りかえって文章にするのだ。けっして物語る訳ではない。物語……過ぎ去った時に秩序をあたえる技巧はぼくのもっとも不得意とするものだ。
 断片的なことでいい。だからむしろ、詩を書くことができたらどんなにすばらしいことだろう。そうぼくは、詩を書きたかったのだ。レクイエムには詩の言葉こそふさわしいはずだ。そのことを告白してしまったら、いくぶん気がらくになった。
 
 さきにすすめそうだ。

 ぼくがまず書いておきたいことは、完全にあの当時の実感をあなたに伝えることは不可能だ。と思うが……それでも書きたいことは……。間欠的にやってくる下痢に悩み。かならずしも、いやな臭いをともなったものではない下痢の予感にも悩まされながら、父は七十余年の生涯の悔恨を吐き出していた。……ということだ。



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