5
「兆子、なかはどうなっている」
入口に残った百子からだ。
「この穴、フェイクだったみたい。でも掘り方がおかしいの。土遁の術で、おおぜいで逃走路を掘った感じがする」
穴に潜り込んだのは兆子のほかに、但馬姉妹と翔子だ。
「わたしもアイツラのテンプルではない、と思う。引きかえしておいで」
「このさきに、なにかある」
兆子の照らすハンドライトのさきに。
香世がいうように。
朽ち果てた棺桶があった。
「やだぁ。ここカタコンベ」
「香世。カタコンベってなによ」
「オネエ。地下墓地のことよ。ゲームなんかによくでてくる」
「わたし、ゲームやらないシ」
「美香、なにかはいっている」
「兆子、ミイラだ」
「なにか……みたことあるみたい」
「香世。それってどういうこと」
美香のほうが質問する立場になっている。
きょうの香世の能力はさえざえとしている。
でも――美香にも死者の声がきこえてきた。
ミイラには胸に新しいと思われる傷跡があった。
刀傷というより、鉤爪で突かれたような――。
血。血。……血が飲みたい。……血が欲しい。
「コレって彼……」
「わたしもそうおもうよ。オネエ」
美香は死者の声に感応した。
死者の欲しがっている血をあげる。
わたしの血をあげる。
指先を浮船で少し切った。
「オネエ。オネエ。いいの、そんなことして」
「この若侍は、体をはってわたしを守ってくれたのよ」
ふたりが話す間にも鮮血がたらたらと――。
ミイラの口に赤い血がしたたった。
唇が動いた。
喉が鳴った。
肉がもりあがる。
「ありがとう。美香ちゃん。こんなに早く復活出来るとは期待していなかった」
闇法師だった。
「ホームレスの仲間をヤンキーの吸血鬼から守らないと」
急いで入口までもどった。
だれもいない。
サテュロスの像まで消えている。
「穴はいくつもわれら伊賀組の同心がほった」
「だから……土遁術と感じたのね。法師はわたしたちのご先祖様かぁ」
兆子が感激している。
「無念だったが、薩長連合の鉄砲隊にはかなわなかった」
「それで彰義隊は全滅したのね?」
兆子が悲しい眼で聞く。
「それより、急がないとホームレスがみんな噛まれて吸血鬼の従者にされてしまう」
闇法師ははしりだした。
いくつも同じ形の洞窟がある。
「きこえた? 香世、百子の声よ」
「そうです。百チャンの声よ。戦っている」
みんなで、洞窟に跳びこんだ。
広い。
「こんな大きな穴はほらなかった。こここそ、舶来吸血鬼の牙城だ」
「地下テンプルへ、ようこそ。ウェルカムね」
マスター・エイドリアン率いるロックバンド。
4人のメンバーもそろっていた。
ホームレスのひとびとをかばって百子たちクノイチ48がいた。
先ほどの、雪の上で戦場の再開だ。
首からすでに血をながしているホームレスもいる。
吸血鬼は食事中。
その気配。
その血の臭い。
を。
感知して。
百子たちが駆けつけた。
だから、犠牲者はまだあまりでていない。
今日も遊びに来てくれてありがとうございます。
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「兆子、なかはどうなっている」
入口に残った百子からだ。
「この穴、フェイクだったみたい。でも掘り方がおかしいの。土遁の術で、おおぜいで逃走路を掘った感じがする」
穴に潜り込んだのは兆子のほかに、但馬姉妹と翔子だ。
「わたしもアイツラのテンプルではない、と思う。引きかえしておいで」
「このさきに、なにかある」
兆子の照らすハンドライトのさきに。
香世がいうように。
朽ち果てた棺桶があった。
「やだぁ。ここカタコンベ」
「香世。カタコンベってなによ」
「オネエ。地下墓地のことよ。ゲームなんかによくでてくる」
「わたし、ゲームやらないシ」
「美香、なにかはいっている」
「兆子、ミイラだ」
「なにか……みたことあるみたい」
「香世。それってどういうこと」
美香のほうが質問する立場になっている。
きょうの香世の能力はさえざえとしている。
でも――美香にも死者の声がきこえてきた。
ミイラには胸に新しいと思われる傷跡があった。
刀傷というより、鉤爪で突かれたような――。
血。血。……血が飲みたい。……血が欲しい。
「コレって彼……」
「わたしもそうおもうよ。オネエ」
美香は死者の声に感応した。
死者の欲しがっている血をあげる。
わたしの血をあげる。
指先を浮船で少し切った。
「オネエ。オネエ。いいの、そんなことして」
「この若侍は、体をはってわたしを守ってくれたのよ」
ふたりが話す間にも鮮血がたらたらと――。
ミイラの口に赤い血がしたたった。
唇が動いた。
喉が鳴った。
肉がもりあがる。
「ありがとう。美香ちゃん。こんなに早く復活出来るとは期待していなかった」
闇法師だった。
「ホームレスの仲間をヤンキーの吸血鬼から守らないと」
急いで入口までもどった。
だれもいない。
サテュロスの像まで消えている。
「穴はいくつもわれら伊賀組の同心がほった」
「だから……土遁術と感じたのね。法師はわたしたちのご先祖様かぁ」
兆子が感激している。
「無念だったが、薩長連合の鉄砲隊にはかなわなかった」
「それで彰義隊は全滅したのね?」
兆子が悲しい眼で聞く。
「それより、急がないとホームレスがみんな噛まれて吸血鬼の従者にされてしまう」
闇法師ははしりだした。
いくつも同じ形の洞窟がある。
「きこえた? 香世、百子の声よ」
「そうです。百チャンの声よ。戦っている」
みんなで、洞窟に跳びこんだ。
広い。
「こんな大きな穴はほらなかった。こここそ、舶来吸血鬼の牙城だ」
「地下テンプルへ、ようこそ。ウェルカムね」
マスター・エイドリアン率いるロックバンド。
4人のメンバーもそろっていた。
ホームレスのひとびとをかばって百子たちクノイチ48がいた。
先ほどの、雪の上で戦場の再開だ。
首からすでに血をながしているホームレスもいる。
吸血鬼は食事中。
その気配。
その血の臭い。
を。
感知して。
百子たちが駆けつけた。
だから、犠牲者はまだあまりでていない。
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