田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

ぼくはもう生きていけない/超能力シスターズ美香&香世 麻屋与志夫

2011-01-06 08:45:17 | Weblog
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きけないものには、聞こえない。
きこえてしまうものには、聴こえてくる。
 
A少年にはその朝「殺せ。刺せ」という声がどこからともなくキコエテきた。
魂をゆさぶるような、声。
それも、悪寒から吐き気をもよおすような声。
それでもうれしかった。
声をかけられたことに感動した。
陰気な、地獄の底からひびいてくるような声だ。
でも……声を身近にきいたよろこび。うれしかった。

学校は二週間も休んでいる。
みんなは、高校受験でさいごの追いこみをかけている。
徹夜で勉強しているものもいる。
A少年は母親の帰りをまって夜も眠れなかった。
明け方まで起きていた。
A少年には、どうして勉強しなければならないのか、わからない。
勉強することじたいに意義をみいだせない。
ただ呆然と教室にいて、座っているだけだ。
もちろん、先生もはじめのうちは、注意した。
ノートをとれ。
黒板をにらみつけろ。
なにか覚えろ。
と、ウザかった。
イヤミもいわれた。
いまでは、完全無視。
A少年がそこにいることすら、忘れさられている。
それで不登校。

家庭崩壊。
父親がまず蒸発した。
母が昨夜外泊。
寝ずにまっていたが。
もうもどってこないかもしれない。
いや、もどってはこないだろう。
じぶんは捨てられ。

そうした朝だった。

「殺せ。刺せ」

A少年には、キコエた。

「殺せ。刺せ」

A少年はナイフをもって街にでた。
Iモールの地下駐車場。

「殺せ! 刺せ!! そいつを殺せ」

パタンと無神経な音がした。
男が車のドアを閉めたのだ。
朝一で通勤してきたモールの従業員だ。
ナイフをかまえた。
突きすすんだ。
いや一歩も動いていない。
後ろから腕をつかまれている。
ターゲットが去っていく。

「離せ!!! だれだ、おまえを刺すぞ」

うしろで声がした。
優しい声だ。

「Aクン。あなたにきこえる声はわたしにもきこえるの。あなたは、こういう怪物にあやつられているの。それでも……わたしを刺す気。刺すことができるの」

百子の妹の兆子だった。
ケガをした。
病院に入院した。
アパートのひとたちがそう噂していた。
きれいなお姉さんだ。
A少年の隣のお姉さんだ。
A少年が幼いころからよく遊んでくれた。
大学生のお姉さんと住んでいる。
ふたりともバイクにのっている。
ほとんどさいきんでは、部屋にいない。
あやしげな商売をしているのだ。
とこれまたアパートの住人がクチサガナイ。

「Aクン、止めて」
「やだぁ。離せよ」
「わたしがめんどうみてあげる。さあナイフをわたしなさい」

A少年はしぶしぶ兆子にしたがった。
隣のお姉さんだ。
よちよち歩きのころから近所の遊園地で遊んでくれた。
逆らえない。
ナイフをわたした。

「いいこね。イイ子だわ」
バシッとナイフを手首のスナップだけで前方に投げた。
信じられない行為だ。
信じられない早業だ。

「みて!!! ほうら、あんな怪物がいたのよ。アイツにあやつられていたのよ」
「アンナひどい鬼になるところだったのよ」
「鬼だの、怪物たのと、いってくれるじゃないか」

ナイフが肩につきたっている。
ソノモノが変身した。
ゲームでみる吸血鬼そのものの姿だ。

「かむなら、カンでみたら。わたしには抗体ができたの。吸血鬼に噛まれても、アンタラのウイルスはわたしの体にワルサできない。Aクンとわたしをレンフイルドしようったってできないシ。そうはいかないシ」

ザワッとそのものは、変形を完成させた。
吸血鬼のそのものとなった。

「ジャァこれでどうだ」

衣服のボロボロになった女を車の陰からひきだした。
体が原型をとどめていない。
数か所、欠落している。
吸血鬼にくいちぎられたのだ。
息もたえだえに「わたしのぼうや……」とささやいた。
A少年の母だった。昨夜もどってこなかった母だった。

「やっと、お父さんをみつけたんだよ。おとうさんは吸血鬼に噛まれてね。家来にされていた。家をあけてゴメンね。お父さんを、探しあるいていたの。お父さんに会ったらおまえが伝えておくれ。お母さんはお父さんを、愛していた。死ぬまで愛していた……と……」 


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