田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

魔王の登場? /さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-09-25 07:06:23 | Weblog
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純が瞬時に翔子の前にでた。
ふたりを砂嵐のような空気の流れがおしつつむ。
砂の粒には悲嘆、苦悩、失望がへばりついている。
ざらついた紙やすりで頬をこすられたような攻撃が襲ってきた。
強烈なむきだしの『悪意』をふくんだ気の流れのなかにとらわれてしまった。
わたしより正面からまともにこの凶悪な風圧をくらった純は
……と見る。
肩でおおきく息を吸っている。上半身が揺らいでいる。
だが、ぶじだ。
後ろから純を支える。
純の体がこきざみに震えている。

「マイナスの念波だ。のみこまれるな、翔子」
「わたしは大丈夫よ。やっとふたりだけの時がきたのにね」

遮蔽の壁となって翔子を守ってくれた。
翔子は後ろから純に抱きついた。
純が悪意の風圧に耐えきれずずっと後ずさりした。

「自傷行為です。犯人はこの気の流れです。ナイフを所持しているものが、このマイナス思考の嵐に耐えきれず、じぶんを傷つけている。そうとしか思えません」
「そんなバカな。SF小説じゃあるまいし。念の力でそんなことができるのか」
「はっきりとは――断言できませんか」
「サイコパワー、なんて在ること、それだっておれには信じられない」 

群衆のなかで悲鳴が起きた。吸血鬼の姿はない。
吸血鬼のいるアトモスフィアは感じる。
ひとびとは、目に見えない殺戮者に怯えている。
おたがいに、顔を見合わせている。
隣にいるものが信じられない。
隣にいるものに疑惑の視線を集中する。

純の顔がゆがんでいる。翔子がはじめて見る純の苦しそうな顔。
ふたりだけになれてうれしいね。
と万葉の歌を口ずさんで翔子に伝えていたのに。
苦しそうな、悲しそうな顔。

「敵はかなりの大物だ」
「いままでの吸血鬼とはけた違いみたい」
「吸血鬼でないのかもしれない」
「……??……」


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