田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

桜田門外の業物/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-09-17 06:03:40 | Weblog
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携帯ふるえた。
純からだった。
「翔子どこだ。なんども呼びだした」
「ごめん。ヤバイとこを……探っていたの」
「いまどこ。ぼくらは霊園口にきた」
「すぐいくね」
「あれ!! あれをみて、GG、ミイマ!!?」
純の声がとぎれた。
「もしもし。純。純???」
携帯はきられていた。
「なにかあったみたい。いそぐよ!!!」
声をかけることはなかった。
はるか先を、百子は走っている。
翔子の気配でわかったのだろう。

純になにか予期しないことが起きた。
わたしたちを待っている純とミイマたちになにか起きた。
GGもいるから心配はないだろうが。
あわてて携帯をとじなければならいような、
事態がおきたのだ。
想定外のことが起きて。
それは、あわてて電話を切らなければならないほどのものだ。
翔子も百子の後から走りだした。
でも、距離を縮めることができない。
ふたりのあいだは、どんどんひらいていく。
さすが忍者走りだぁ。
と……あらためて感心する翔子だった。

都電荒川線の踏切を走り抜け――見えた。
百子の走るその先で、……影絵のようだ。
影絵のように争う純たちのシルエット。
百子がなにか投げた。
投げた!!
投げている!!! 
手裏剣? だろう。

道端の木製のベンチにいた。
池袋女子学園の制服。
ふたりだ。
信子とカレン。
ぶじだった。
よかった。
よかった。
ミイマが彼女たちをガードしている。
翔子を見てうなづく。

そして戦っていた。
純もGGも、かけつけた百子も。
吸血鬼はフタリ。

「道草でみちくさくっていたから、わるいんだぞ」
「さそったのはテツ。おまえだろうが」

吸血鬼同士でもめている。
もめて口論しながら戦っている。
なに言っているの、コイツラ。
だが翔子にはすぐにわかった。
さきほどの飲み屋街に『道草』と看板をだした居酒屋があった。
あそこで、おもわぬ獲物を捕まえたので、前景気をあおっていたのだ。

翔子は鬼切丸を抜き放った。
ギラリと月光を浴びて光った。
『桜田門外の変』で水戸の浪士の何人かに使われた。
鹿沼の、通称稲葉鍛冶によって鍛えられた業物だ。
あれほどの激闘でも刃こぼれ一つしなかったと名声をはせた剣だ。
「純、GGありがとう」

ぶじだった信子とカレンを横目で再度たしかめた。
涙が出た。
よかった。
生きていた。
あれだったら、
まだ噛まれたようすはない。
よかった。
翔子の目に涙がうかんだ。
はらはらとこぼれおちた。




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