田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

翔子と純の愛/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-09-24 00:59:09 | Weblog
第五章 翔子と純の愛

1

 村上家のなごやかな夕食。純もいる。
 Gに翔子が言った。
「鹿沼のGGがかわいそうなの。すごく悩んでいるみたい」
「ぼくにもそう見えるな」
「ミイマの元彼が現われたのよ」
「それも、奈良の都から召喚されたみたい」
「あらそれはたいへん」
 母がさしておどろいていない調子で言う。
「ミイマすごく難解なこと言っていた」
「ぼくにもそう思えた」
「だって近未来には吸血鬼も人と同じになる」
「そう言っていた……医学の力をかりて、iPS細胞でそれが可能になる」
「あのヒトたちにはむりよ。理解できないわ」
「ぼくらの側だっておなじようなものだ。
吸血鬼の存在は小説や映画の世界だけのものだと信じられている」
「吸血鬼と仲良くやっていければいいのにね。
共に生きていければいいのに」
 Gはだまってテレビを見ながら箸を動かしていた。
 好きな厚焼き卵焼きをほおばっている。
 Gの表情がきびしくなった。
 リモコンで音声を高くする。
 四人が一斉にテレビにくぎづけになった。固まった。
 テレビでは、
また歌舞伎町にナイフによる殺傷事件が起きたことを伝えていた。
女子アナは興奮して早口に報道していた。

「天の川水陰草(みづかげくさ)の秋風になびくを見れば時は来にけり」
「どういうこと」
 翔子はやっと拾ったタクシーのなかで純にきいた。
 純はタクシーの窓から夜空の月を探していた。
「だいたいの意味はわかるけど。万葉集専攻の純の解説をききたいわ」
 翔子はふたりだけで肩を並べて後部座席にすわっているので、
ロマンチックな気分になっていた。やっとふたりだけになった。
 でもわたしたちはこれから戦いの場にのぞむのだ。
 あまりロマンチックではない。
 まあいいか。
 いまこうして純のそばにいられるだけでも幸せだ。
 純が翔子に肩をだいた。
「なにかこんどは強敵みたいな予感がする」

 路上にはバタバタと血を流した若者が倒れていた。
 それなのに、これほど多くの者が血を流しているのに殺戮者の姿がない。
 犯人が特定できないでいるみたいだ。
「翔子、純きてくれたのか」
 百目鬼刑事が近寄ってきた。
「なにか見えるか?」
 群衆の中でまた悲鳴が起きた。
 群衆が割れた。
 こちらにむかって殺意が吹き寄せてくる。
「翔子!! 吸血鬼だ」



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