田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

純平/吸血鬼ハンター美少女彩音

2008-07-29 22:57:09 | Weblog
39

 慶子はあおくなった。
 いままで一緒に戦っていた。
 どこにいってしまったのか。

     12

 麻屋は『女工哀歌』を読んでいた。
 輸血をしなければならない犠牲者がおおい。
 病院には血を提供しようという生徒でごったかえしている。
 麻屋は一刻も早くこの吸血鬼、あるいは人狼の襲撃の実態を理解したい。
 待合室の椅子で読みだしていた。

 鹿沼の旧東大芦村の一部では死者を二度埋葬する習慣がある。
 民俗学者によって注目されたことがあった。
 仮りに埋葬してから、本葬をとりおこなうのだ。
 これは、早すぎた埋葬の為に死者が蘇ったという経験を村人がもった驚きからでた知恵だろう。
 それでなくても、この地方では、死んでからもいつまでも唇だけは色が失せなかった。
 あるいは、死んでも体が固くならなかった。
 などということが伝承としてのこっている。
 吸血鬼になりうる体質に恵まれている。
 
 林純平は澄江の死をきいて茫然としていた。
 気がつけば、すぐそばを黒川が流れていた。
 満々と水をたたえた川は流れていないように見えた。
 川の面は風にあおられて波がたっていた。
 波は川上にむかっているようにみた。
 流れていないというより、逆流しているように見えた。
 時間が逆行してくれればいい。
 どうして、澄江はおれを待ってくれなかったんだ。
 死ぬほどつらいことってどういうことなのだ。
 なにがあったのだ。
 虐待されていたのか。
 そんなことはない。
 この街の紡績工場にかぎって女工哀歌が現実のものとしては考えられない。
 この街のものは、東北の山村からきた娘たちを大切にしている。
 おれと結婚すれば澄江もこの街に住める。
 独身寮からでられるのだ。
 そして赤ん坊をうみ、育て、鹿沼に根を下ろすのだ。
 今少し、待っていてくれれば。
 それが実現となったのに。
 なぜだ。
 なぜ投身自殺などしてしまったのだ。
 なぜおれを待ってくれなかった。
 なぜだ。
 茅やすすきの群生をわけて男が現れた。
「澄江さんは、上沢寮監に乱暴された。あんたには会えないとこの川に身投げした」
「うそだ」
「寮監はそんなひとじゃない」
「ひいひい泣きながらいやかる娘をむりにいうことをきかせるのが、あの男の趣味
なのだよ」
「うそだ、上沢寮監はそんなことをするひとじゃない」
「それなら、それでいい。あいつの剣に勝つにはたいへんな努力が必要だ。その必要を感じたらいつでもわたしのところへおいで」
 男はやさしくいうと、柳の木陰に消えていった。

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撃退/吸血鬼ハンター美少女彩音 麻屋与志夫

2008-07-29 09:03:04 | Weblog
38

 美穂の悲鳴に彩音は戦慄した。
 襲われている。 
 美穂の命が危ない。 
 彩音は声をたよりに走りだした。
 薄暗い空間を走る。広場にでる。
 墓地をぬける。
 くらいトンネルにまたはいる。
 複雑にいりくんでいる。
 彩音は走る。
 美穂、美穂、どこなの? 
 美穂……。
 恐怖がない、といったらウソになる。
 彩音は親友の美穂を助けたい。
 どんなことがあっても助けたい。
 彩音を走らせているのは友情だった。
 どんなことがあっても美穂を助けたい。
 そして、怒りだった。
 怒りが彩音の恐怖に打ち勝った。
 怒りが彩音を走らせていた。
 故郷鹿沼を蹂躙する吸血鬼集団にたいするはげしい怒りだった。
 親友美穂を餌食にしょうとする人狼集団にたいする怒りだ。
「美穂」

 
 病院では。
 シュシュシュと威嚇音をあげながら吸血鬼が後退する。
 倒された仲間をみすててホールをぬけ、フロントをでて夜の町にきえていった。
 残された吸血鬼はもえつきた。
 あとには悪臭だけがのこった。
 いやな臭い。
 くさった魚でもやいたような臭い。
 見せ場をつくってもらえなかった麻屋がぽつんと、それでも生徒たちのみごとなはたらきに満面笑みをうがべている。

 携帯の緊急連絡網で50名をこす献血者が待ち合いロビーに集合してきた。
 こんなときの携帯の連絡機能ってすさまじい。
 ぴちぴちの中学生。それも女生徒ばかりだ。
 献血。血液型を記されたそれぞれの胸の名札だってすごく役にたつ。
 血を提供するぴちぴちギヤルの群れをみたら、どこかにいる吸血鬼さんは、血のなみだこぼしてくやしがるだろう。

 慶子のママが婦長のカンロクをみせた。
 医師、看護婦をふくめて輸血の必要ある患者がともかく十名以上はいる。
 これからも、ふえるだろう。ベットの下で、血をすわれたものがうめいているかもしれないのだ。
 病院の中をくまなくさがさなければ。
 みじめなのは警察官。
 鑑識は埃をかきあつめている。
 これらすべてを、みたものを信じられない彼らは、SFX、特撮の撮影現場に巻き込まれたのではないか。
 ドッキリカメラの再現ではないか。
 どこかにカメラがあるはずだ。
 気にしながら、悲しい捜査に血道をあげている。
 あせりで、目が赤くひかりだす。
 というのは、いいすぎだ。
 慶子ははたらく母をはじめてみた。うれしかった。
 どこかにいる父にみせたかった。
 こんなすばらしい妻と、どうして別れたの。ね、ね、どうして。
 彩音と美穂がいないことに慶子が気付いた。

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美穂の危機/吸血鬼ハンター美少女彩音 麻屋与志夫

2008-07-29 00:55:10 | Weblog
37

「なにぶっくさいっている」
 彩音は足下を見た。
 ごくあたりまえの、細いジーンズ。先のとがった靴。
 若者なのだろうと視線をはねあげた。
「ゲッ、吸血鬼」
「ちゃんと犬森タロウって名前がある」
 犬歯が誇らしげににょきっとのびている。
 上顎からはみだした犬歯は下唇の外にとびだしている。
「おどろいたか娘」
「名前をおしえてくれたついでに、美穂をどこへつれていったか教えてょ」
「おどろかないのか。おれは人狼。吸血鬼ともよばれている。人の血を吸うからな。人の肉をくらうからな」
「だから犬歯がながいのね」
「なぜ、おどろかぬ。おれは娘。おまえを餌食にすることもできるのだ」
 涎か犬歯のあいだからしたたっている。
「美穂をどこにやったの」
 応えは鉤爪だった。
 彩音がさっと舞扇をかまえた。
 バックパックから皐手裏剣をだしている余裕はない。
 腰の舞扇をぬいて素早く構えた。
「純平と戦ったという娘か。そのかまえ上沢の血をひくものというのはほんとうだな」
「ひいオジイチャンがそんなに有名だとはしらなかった」
「ぬかせ。あいつはニックキ対抗者。スレイヤーだ。……われらが敵を忘れるわけないだろう」
(このひとたちも長く生きる種族なんだ。だから、むかしのことをいまのことにように話しているのだ)
「もういちどいうよ。美穂をここに連れてきなさい。そうすればおとなしく帰ってあげる」
「勇ましいこといえるのも、いまのうちだ。おねえちゃん。帰りは怖いってこと知らないとみえる」
 タロウがニタニタわらっている。
「お隣りに現れたのはジロウさんかしら」
「ピンポン。よくわかったな」
 てんで話にならない。
 どこか釘がぬけているような会話になってしまう。
 彩音はいらだっていた。
 こうしている間にも美穂が危ない。
「だいいち、帰る道がわかるまい」
 タロウ、ジロウの人狼がニタニタ笑っている。
 狼面の吸血鬼だ。
 奇妙にゆがんだ空間。
 太陽の光でも蛍光灯の光りでもない明るさ。
 足下はジメジメしている。
 鼻を刺す墓土の臭いだ。
 黒い土。
 関東ローム層の風化堆積物の土だ。
 水分を吸うと粘つく土となる。
 タロウがふたたびおそってきた。
 ジロウも真似る。
 それほどふたりの攻撃パターンは似通っている。
 両側からおそってきた。
 武器は鉤爪。
 激しい風圧だ。
 彩音の首筋を切り裂いた。
 しかし鉤爪の先に彩音はいない。
 ふわっと跳んで3メエトルも後方に着地した。
「チエッ」
 タロウとジロウが同時に舌打ちをした。
 こいつらには個性がないのか。
 同じような攻撃。
 同じ舌打ち。
 息が臭いんだよ。
 あんたら。
 吸血鬼さん。
 芳香剤の入ったガムでもかんだら。
「彩音」
 美穂の声がした。
「彩音、助けて」

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