田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

光る目/吸血鬼ハンター美少女彩音

2008-07-22 21:24:24 | Weblog
26

 明かりの中でなにか動いた。
 ゾーっとした。
 書架に映った彩音の影だった。
(じぶんの影に怯えるようでは、わたしもまだまだ修行がたりないわ)
 天井の明かりが点滅をくりかえしている。
 ジーっとうなっていた蛍光灯が消えてしまった。
 ジーっという音だけが天井でしている。
 獣が敵を威嚇するような音。
 歯と歯を擦り合わせているような音だ。 
 妖気が部屋にみちている。
 彩音にもわかる。
 明りはついているのに、書架の底辺には闇がたぷたぷとたまっている。     彩音の足にからみつく。はいあがってくる闇。
 見えていないものが、彩音の歩行を拒み邪魔するように実体化してくるようだ。
 無数の小さな手が足元にからみつく。
 ひとりだったら、もうこれ以上は前には進めない。
 近くに麻屋先生と文美がいる。
 いちばん頼りになる味方。
 闇から受けている邪気、シヨックから立ち直ろうと彩音はお大きな吐息をもらした。
 リラックス。リラックス。
 肩の力をぬいて。
 ところが、ホコリが舞い上がった。
 いくら彩音が肺活量があるといっても、これは過剰な反応だ。
 闇も神経過敏になっているのかもしれない。
 それとも……おもわぬ敵の侵攻によろこび、はしゃいでいるのか。
 視界がゆらいだ。
 一瞬だけだったが、赤く光る両眼に睨まれているような感じがした。
 幻覚だ。
 こんなことがあるわけがない、幻覚だわ。
「とりこまれるな。彩音、なにもいまのところは、見ないほうがいい」
「キャ」
 衣をさくようなドハデな悲鳴。
 彩音は資料ナンバー21のダンボール箱をとりおとした。
 ウジ虫がぬらぬらともりあがってうごめいていている。
 腕をはいのぼってきた。体中にウジ虫がはいまわっている。
 恐怖の悪寒が広がった。
 彩音の顔が恐怖にひきつる。 
 たまらず、箱をとり落としたのだった。
「なんでもない。なにもいない。ワームでもいる思ったろう。こういうときの定番だからな」
 麻屋が箱をひろいあげ『女工哀歌』をとりだす。
「うそぅ。わたしたしかに見たよ。先生のいうとおり、ウジ虫がいっぱいいたの」
「彩音、落ち着いて。やつらの罠にはまっちゃだめ」
「うん、ふんふん、やっぱりな」
 麻屋が……彩音を笑わせようとして漫画チックな声をだしている。
 彩音のコピーは本文だけだった。
 最後のページに取材ノート、がはさんであった。
 それを麻屋は読み出していた。
「林純平は、恋人澄江は上沢寮監に殺されたと思いこんだのだな。それで敵を討つため剣の修行にうちこんだ。その怨念につけこまれ吸血鬼に噛まれこの鹿沼にもどって、澄江を探し、さまよいながらひとにあだなしているのだ」

 パンフレットには、わが家の純平叔父さんに関する伝承に触発されてこの『女工哀歌』を著した。と、書いてある。         
「あわれなものね」
 文美がぼそっとつぶやく。
「曾祖父(ひいおじいちゃん)は、林純平にやられたの」

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