goo blog サービス終了のお知らせ 

田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

美穂の危機/吸血鬼ハンター美少女彩音 麻屋与志夫

2008-07-29 00:55:10 | Weblog
37

「なにぶっくさいっている」
 彩音は足下を見た。
 ごくあたりまえの、細いジーンズ。先のとがった靴。
 若者なのだろうと視線をはねあげた。
「ゲッ、吸血鬼」
「ちゃんと犬森タロウって名前がある」
 犬歯が誇らしげににょきっとのびている。
 上顎からはみだした犬歯は下唇の外にとびだしている。
「おどろいたか娘」
「名前をおしえてくれたついでに、美穂をどこへつれていったか教えてょ」
「おどろかないのか。おれは人狼。吸血鬼ともよばれている。人の血を吸うからな。人の肉をくらうからな」
「だから犬歯がながいのね」
「なぜ、おどろかぬ。おれは娘。おまえを餌食にすることもできるのだ」
 涎か犬歯のあいだからしたたっている。
「美穂をどこにやったの」
 応えは鉤爪だった。
 彩音がさっと舞扇をかまえた。
 バックパックから皐手裏剣をだしている余裕はない。
 腰の舞扇をぬいて素早く構えた。
「純平と戦ったという娘か。そのかまえ上沢の血をひくものというのはほんとうだな」
「ひいオジイチャンがそんなに有名だとはしらなかった」
「ぬかせ。あいつはニックキ対抗者。スレイヤーだ。……われらが敵を忘れるわけないだろう」
(このひとたちも長く生きる種族なんだ。だから、むかしのことをいまのことにように話しているのだ)
「もういちどいうよ。美穂をここに連れてきなさい。そうすればおとなしく帰ってあげる」
「勇ましいこといえるのも、いまのうちだ。おねえちゃん。帰りは怖いってこと知らないとみえる」
 タロウがニタニタわらっている。
「お隣りに現れたのはジロウさんかしら」
「ピンポン。よくわかったな」
 てんで話にならない。
 どこか釘がぬけているような会話になってしまう。
 彩音はいらだっていた。
 こうしている間にも美穂が危ない。
「だいいち、帰る道がわかるまい」
 タロウ、ジロウの人狼がニタニタ笑っている。
 狼面の吸血鬼だ。
 奇妙にゆがんだ空間。
 太陽の光でも蛍光灯の光りでもない明るさ。
 足下はジメジメしている。
 鼻を刺す墓土の臭いだ。
 黒い土。
 関東ローム層の風化堆積物の土だ。
 水分を吸うと粘つく土となる。
 タロウがふたたびおそってきた。
 ジロウも真似る。
 それほどふたりの攻撃パターンは似通っている。
 両側からおそってきた。
 武器は鉤爪。
 激しい風圧だ。
 彩音の首筋を切り裂いた。
 しかし鉤爪の先に彩音はいない。
 ふわっと跳んで3メエトルも後方に着地した。
「チエッ」
 タロウとジロウが同時に舌打ちをした。
 こいつらには個性がないのか。
 同じような攻撃。
 同じ舌打ち。
 息が臭いんだよ。
 あんたら。
 吸血鬼さん。
 芳香剤の入ったガムでもかんだら。
「彩音」
 美穂の声がした。
「彩音、助けて」

     ご訪問ありがとうございます。
     ランキングバナーのクリックよろしく。
        ↓
       にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ





最新の画像もっと見る

コメントを投稿