37
「なにぶっくさいっている」
彩音は足下を見た。
ごくあたりまえの、細いジーンズ。先のとがった靴。
若者なのだろうと視線をはねあげた。
「ゲッ、吸血鬼」
「ちゃんと犬森タロウって名前がある」
犬歯が誇らしげににょきっとのびている。
上顎からはみだした犬歯は下唇の外にとびだしている。
「おどろいたか娘」
「名前をおしえてくれたついでに、美穂をどこへつれていったか教えてょ」
「おどろかないのか。おれは人狼。吸血鬼ともよばれている。人の血を吸うからな。人の肉をくらうからな」
「だから犬歯がながいのね」
「なぜ、おどろかぬ。おれは娘。おまえを餌食にすることもできるのだ」
涎か犬歯のあいだからしたたっている。
「美穂をどこにやったの」
応えは鉤爪だった。
彩音がさっと舞扇をかまえた。
バックパックから皐手裏剣をだしている余裕はない。
腰の舞扇をぬいて素早く構えた。
「純平と戦ったという娘か。そのかまえ上沢の血をひくものというのはほんとうだな」
「ひいオジイチャンがそんなに有名だとはしらなかった」
「ぬかせ。あいつはニックキ対抗者。スレイヤーだ。……われらが敵を忘れるわけないだろう」
(このひとたちも長く生きる種族なんだ。だから、むかしのことをいまのことにように話しているのだ)
「もういちどいうよ。美穂をここに連れてきなさい。そうすればおとなしく帰ってあげる」
「勇ましいこといえるのも、いまのうちだ。おねえちゃん。帰りは怖いってこと知らないとみえる」
タロウがニタニタわらっている。
「お隣りに現れたのはジロウさんかしら」
「ピンポン。よくわかったな」
てんで話にならない。
どこか釘がぬけているような会話になってしまう。
彩音はいらだっていた。
こうしている間にも美穂が危ない。
「だいいち、帰る道がわかるまい」
タロウ、ジロウの人狼がニタニタ笑っている。
狼面の吸血鬼だ。
奇妙にゆがんだ空間。
太陽の光でも蛍光灯の光りでもない明るさ。
足下はジメジメしている。
鼻を刺す墓土の臭いだ。
黒い土。
関東ローム層の風化堆積物の土だ。
水分を吸うと粘つく土となる。
タロウがふたたびおそってきた。
ジロウも真似る。
それほどふたりの攻撃パターンは似通っている。
両側からおそってきた。
武器は鉤爪。
激しい風圧だ。
彩音の首筋を切り裂いた。
しかし鉤爪の先に彩音はいない。
ふわっと跳んで3メエトルも後方に着地した。
「チエッ」
タロウとジロウが同時に舌打ちをした。
こいつらには個性がないのか。
同じような攻撃。
同じ舌打ち。
息が臭いんだよ。
あんたら。
吸血鬼さん。
芳香剤の入ったガムでもかんだら。
「彩音」
美穂の声がした。
「彩音、助けて」
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彩音は足下を見た。
ごくあたりまえの、細いジーンズ。先のとがった靴。
若者なのだろうと視線をはねあげた。
「ゲッ、吸血鬼」
「ちゃんと犬森タロウって名前がある」
犬歯が誇らしげににょきっとのびている。
上顎からはみだした犬歯は下唇の外にとびだしている。
「おどろいたか娘」
「名前をおしえてくれたついでに、美穂をどこへつれていったか教えてょ」
「おどろかないのか。おれは人狼。吸血鬼ともよばれている。人の血を吸うからな。人の肉をくらうからな」
「だから犬歯がながいのね」
「なぜ、おどろかぬ。おれは娘。おまえを餌食にすることもできるのだ」
涎か犬歯のあいだからしたたっている。
「美穂をどこにやったの」
応えは鉤爪だった。
彩音がさっと舞扇をかまえた。
バックパックから皐手裏剣をだしている余裕はない。
腰の舞扇をぬいて素早く構えた。
「純平と戦ったという娘か。そのかまえ上沢の血をひくものというのはほんとうだな」
「ひいオジイチャンがそんなに有名だとはしらなかった」
「ぬかせ。あいつはニックキ対抗者。スレイヤーだ。……われらが敵を忘れるわけないだろう」
(このひとたちも長く生きる種族なんだ。だから、むかしのことをいまのことにように話しているのだ)
「もういちどいうよ。美穂をここに連れてきなさい。そうすればおとなしく帰ってあげる」
「勇ましいこといえるのも、いまのうちだ。おねえちゃん。帰りは怖いってこと知らないとみえる」
タロウがニタニタわらっている。
「お隣りに現れたのはジロウさんかしら」
「ピンポン。よくわかったな」
てんで話にならない。
どこか釘がぬけているような会話になってしまう。
彩音はいらだっていた。
こうしている間にも美穂が危ない。
「だいいち、帰る道がわかるまい」
タロウ、ジロウの人狼がニタニタ笑っている。
狼面の吸血鬼だ。
奇妙にゆがんだ空間。
太陽の光でも蛍光灯の光りでもない明るさ。
足下はジメジメしている。
鼻を刺す墓土の臭いだ。
黒い土。
関東ローム層の風化堆積物の土だ。
水分を吸うと粘つく土となる。
タロウがふたたびおそってきた。
ジロウも真似る。
それほどふたりの攻撃パターンは似通っている。
両側からおそってきた。
武器は鉤爪。
激しい風圧だ。
彩音の首筋を切り裂いた。
しかし鉤爪の先に彩音はいない。
ふわっと跳んで3メエトルも後方に着地した。
「チエッ」
タロウとジロウが同時に舌打ちをした。
こいつらには個性がないのか。
同じような攻撃。
同じ舌打ち。
息が臭いんだよ。
あんたら。
吸血鬼さん。
芳香剤の入ったガムでもかんだら。
「彩音」
美穂の声がした。
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