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最近の旅行記録とともに、以前訪れた場所の写真などを紹介し、見つけた面白いもの・鉄道・化石などについて記します。

古い本 その77 19世紀の日本の文献 4

2021年10月25日 | 化石

F 1900 矢部(長克) 「布袋石は鯨の耳骨なり.」 
 能登國鹿島郡野崎村(現・七尾市能登島野崎町)産の「布袋石」と称するものが、鯨類の耳骨であることを解説している。スケッチが添えられている。

243 矢部, 1900 挿図

 この図を上下逆にすると布袋様のように見えるという解説がある。布袋の頭となる部分(図の「い」)を半球躰と呼び、「ろ」・「は」は耳骨のもう一つの部品であるチムパニクムと接する面としている。現代でも能登や房総などの旅行案内書などに稀に漂着すると書いてある。
 耳石はPeriotic とTympanic の二つの骨が接触する形で左右一対ある。下の写真はマッコウクジラのもので、二つが接触した位置を示す。

244 マッコウクジラの耳骨 Davids, et al., 2011から

 ネット販売でも時々出品される。下はそんな写真のひとつ。きれいなので使わせていただいた。あしからず。

245 現生イルカの耳骨 左はTympanic 右はPeriotic

 この論文では、スケッチの耳骨を「恐らくGlobicephalus なるべし」としている。Globicephalus Gray, 1846 はGlobicephala Lesson, 1828が先取しているので、現在はこちらを用いる。現生2種コビレゴンドウ・ヒレナガゴンドウのほか化石種がある。文章では、その後「サッフォルク産のuncidens 属と比較」している。おそらくLydekker, 1887 The Cetacea of the Suffolk Crag. イギリス・サッフォーク州岩山の鯨類)という論文を参照したと思われる。「uncidens 属」はおそらく誤りで種だろう。Globicephala uncidens Lankester, 1864は中新世から更新世のヨーロッパの化石種。
 著者の矢部長克(1878−1969)は、東北帝国大学教授を長く務めた。日本の古生物学研究はこの人から始まったと言ってもよい。私の専門の古脊椎動物学でも、矢部博士がいろいろな分野で最初の論文を出しているし、長尾 巧・鹿間時夫など主な研究者を弟子として育てた。

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