OK元学芸員のこだわりデータファイル

最近の旅行記録とともに、以前訪れた場所の写真などを紹介し、見つけた面白いもの・鉄道・化石などについて記します。

アサリの模様

2012年10月19日 | 今日このごろ
アサリの模様

ここで投稿しておかないと、機会を失いそうなので臨時投稿する。
10月11日、季節外れのアサリが食卓に出た。近くのモノレール沿線にある産地直売型の小さな店にあったという。売り場の行橋の箕島の人が「採ったばかりで、砂が多いよ。」と言っていたというから、そこのものだろう。ずっと前には春に箕島に潮干狩りに行っていたのだが、最近はあまり行っていない。箕島の潮干狩りの砂浜は、バカガイの仲間のシオフキや、変わった採り方をするマテガイが多いが、以前はアサリも多かった。それは稚貝をまいて「養殖」したものらしく、入場料をとっていた。
その日のアサリは、すこし様子が違う。殻の一部に黒いしみがついていて、還元性の底質にいたことがわかる。つまり、水の循環しやすい砂の中ではなく、石混じりの泥のところにいたのだろう。そういえば、多くの人が潮干狩りをしている砂浜ではなく、岩場近くの石混じりのところで貝掘りをしている人を見た。私も試みたが、掘りにくくて砂浜の方に戻った記憶がある。

さて、この日のアサリの写真がこれ。


箕島?産アサリ スケールは5cm

調理したものなので、緑・黒系の殻の色が消えて茶色系の色だけが残っている。右下のようなほとんど白いものもある。上と左下のを見ると、茶色になりやすい放射状の線が左右それぞれ4本あることが分かる。左右で多少模様が違うところもあるが、よく似ている。
ところが、一番後の部分の帯だけは例外で、暗い色が左にだけ現れる。右下の貝の左の殻にある褐色のもようがそれ。上の貝ではその帯は現れていない。左下の貝では、その帯が少し現れている。これまでに多くのアサリを見てきたが、この非対称模様が右に出ているのは見たことが無い。
この色を出す遺伝情報が違うところに乗っているのだろうか?
もし、右にこの色が出た貝があれば、それは鏡像の個体で非常に稀な現象ではないかと思われる。
巻貝の巻き方はほとんどが右巻き。「右巻き」というのは、いろいろな表現の方法があるが、尖っている方を上にして、口が見えるようにした時に右側に口が見えるのが右巻き。左巻きのものには、次のような場合がある。
1 科レベル:キセルガイ科はすべて左巻き。微小貝のキリオレガイ科も。
2 種レベル:ヒダリマキマイマイやサカマキボラ等、いくつかの種類は左巻き。しかし、同じ属の別の種類は右巻き。


テキサス州産のサカマキボラ スケールは5cm
同じ個体を二方向からとって合成した写真。

3 個体レベル:種全体は右巻きだが、異常な個体として左巻き(鏡像)が現れることがあるという。非常に稀。ただし次の例外がある。
4 陸貝のいくつかの種:同じ種類なのにしばしば左巻きのものが見られる。
私は3の異常個体は見たことが無い。4にあたるのはお土産物屋さんでも注意していると見つけることがある(下の写真)。


インドネシア産のマレーマイマイ スケールは5cm

話を戻して、もし二枚貝の鏡像個体が現れても、よほど噛み合わせの「歯」をよく見ない限り見つからない。しかし、アサリに限って上記の模様を見つければ……と言うのが、私の夢。

学名
アサリ Ruditapes philippinarum (A. Adams et Reeve)
サカマキボラの一種 Busycon perversum (Linnaeus) というラベル(注)
マレーマイマイ Amphidromus perversus (Linnaeus)
下の二つの種類の種小名がよく似ているのは偶然ではない。perverse は「つむじ曲がりの」などの意味で、逆巻きを示している。リンネの見たマレーマイマイは左巻きの個体だったのだろう。
(注)Busycon perversum (Linnaeus, 1758)(最初の属は Murex) は、B. contrarium Conrad, 1840 のシノニム、とされているHPがある。どうして古い方が新しい方のシノニムなんだろう?
Busycon属の貝はメキシコ湾に生息する食用になる大型の巻貝。現生の10種近くが知られる他第三紀の化石種も多い。この属の種には、(陸貝の一部と同じように)鏡像個体が現れることがある。鏡像個体は右巻きの種にも左巻きの種にも現れるのでややこしい。鏡像個体や異常個体に種名が与えられたことが多く、私には学名の変遷は追跡困難。
文献 Purrey, T. E. 1959 Busycon perversum (Linne) and some related species.