自然日誌 たかつき

自然についての問わず語りです。

10月の乙女高原 8

2023年12月24日 | 乙女高原
乙女高原に行くようになってかなり時間が経ちました。最初は植原さんから「乙女高原に綺麗な花が咲いていた時代に比べると、最近はススキだけが多くなってしまった。その時期がシカが増えた時期なので、シカのせいだと思うが、一度見にきてほしい」ということで行ったのでした。その前にシンポジウムでシカと植物の関係について講演をしました。私は現地に行ってすぐに「これはシカのせいだ」とわかりましたが、そのことを誰でも納得できる形で示さないといけません。そこで高橋君に卒論テーマとして、10メートル四方の柵の内外の植物にマーキングして、春から秋まで追跡してもらいました。そうしたらススキは内外であまり違いがないのに、他の多くの双子葉植物は外で草たけが低いことがわかりました。もう一つ行ったのは、代表的な植物を春にマーキングして半分を地表で刈り取りをし、追跡しました。これによって同じ刈り取り、つまりシカの採食を受けても、ススキはダメージが小さく、双子葉草本はダメージが大きいことが説明できました。その結果を報告したら、植原さんが山梨県に報告してくれました。そうしたら県の観光課が乙女高原を柵で囲う予算をつけることになりました。
その頃、もう一人の学生の加古さんが訪花昆虫を調べてくれました。その時のデータと柵を作って8年目の2023年のデータを比較したのが次のグラフです。これをみると、特に夏に大幅に増えたことが一目瞭然です。


訪花昆虫が見られた花の種数は39種から69種の1.7倍に、花の数は348から、実に4985の14.4倍に増えました。

このことはシカの影響を排除したことにより元々の豊かな植物が戻ってくると同時に、その花を利用し、また花の生活史を約束する授粉をする昆虫が戻ってきたということです。行政では生物多様性という言葉があまり理解されないままに喧伝されていますが、乙女高原で示されたのは、このような生き物のつながりが適切な管理によって実際に回復したことが示された好例だと思います。その時に、地道な調査が役立ったことは生態学研究者として嬉しいことでした。
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