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『失敗学のすすめ』(読書メモ)

失敗はイヤなものである。しかし、人も組織も、失敗することで成長する。

畑村洋太郎先生が書いた『失敗学のすすめ』(講談社文庫)は、マイナスイメージがある失敗を直視し、新たな創造の方向に転じさせ活用しようとする考え方を紹介した本だ。

まず、失敗の持つ性質を理解しなければならない。

その1:放っておくと失敗は成長する。
1件の重大災害の裏には、29件の軽災害、300件のヒヤリ体験がある。これはハインリッヒの法則として知られている。「ヒヤリ・ハット」の状態で吸い上げることが大切。

その2:失敗は隠れたがる
失敗すると怒られる、恥ずかしいのでつい隠したくなる。

その3:失敗はローカル化しやすい
上記の特性があるため、ある部署で起こった失敗は、他の場所へ伝わりにくい。

こうした性質を持つ失敗から学ぶにはどうしたらいいか?

まず、「よい失敗」と「悪い失敗」を区別すること。

よい失敗とは、人が成長するために必ず経験しなければならない失敗、細心の注意を払って対処しようにも防ぎようがない失敗、その後の技術的進歩に結びつく失敗である。こうした失敗は罰してはいけない。

悪い失敗とは、単なる不注意や誤判断から繰り返される失敗であり、そこから何も学ぶことができない失敗である。

畑村先生は、個人に責任がある失敗から、組織、行政、社会システムに責任がある失敗までを次のように分類している。

1)無知(失敗対策があるのに本人の勉強不足で起こる失敗)
2)不注意(十分注意していれば問題なかった失敗)
3)手順の不順守(決められた約束事を守らなかった)
4)誤判断(状況や判断を正しく捉えなかった)
5)調査・検討不足
6)制約条件の変化(初めに想定した制約が変化)
7)企画不良(企画や計画そのものに問題)
8)価値観不良(世の中と常識とずれてしまう)
9)組織運営不良(組織に物事を進める能力がない)
10)未知(世の中の誰も現象の原因を知らない)

失敗学で大切なのは、真の失敗原因を明らかにすることだ。このとき気をつけるべきことは、責任追及と原因究明を分離すること。アメリカの司法制度取引にあるように「小さな悪を見逃すことで大きな悪を退治する」方法が有効になるという。

一方、意図した失敗、わかっていても対策を講じなかった故意の失敗には毅然とした態度で罰することも必要。

では、どのように失敗を予防するのか?

「失敗体験は必要最低限に抑えるのが、失敗との上手な付き合い方」とおっしゃる畑村先生は、自分がその失敗を体験しているかのように行うシミュレーション「仮想失敗体験(失敗訓練)」を推奨しておられる。

また、「記述」を「記録」して、「知識化」し「伝達」しなければならない。その際、記述・記録を助けるための、聞き取り専門スタッフを設置すること、そのとき決して当人を批判してはいけないこと、失敗した人の心理状態がわかる主観的な失敗情報を記録すること、などがポイントになる。

この本を読み終わって感じたのは、よい失敗と悪い失敗の境目があいまいであるため、見極めが難しいだろうということ。また、よい失敗であっても人は告白しにくいし、悪い失敗を罰してしまうと、それはそれで皆隠したがるのではないか。

以前紹介した日本航空では、「避けられなかったと判断されるヒューマンエラーは懲戒の対象にしない」というルールを定め、失敗情報が出やすいようにした。こうした工夫を積み重ねることが大切なのだろう。
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