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愛がヒット商品を作る

これまで、「ファイア」「生茶」などのヒット商品を開発してきた、キリンビバレッジの佐藤章さんのケースを授業(経営学原理Ⅰ)で見た。昨年に放送されたNHKの番組「プロフェッショナルの流儀」である。いくつかの点が印象に残った。

佐藤さんは、「開発の掟14か条」というのを決めているらしいが、その中の一つに「確信犯の開発者一人がすべてを決めていく」というものがある。商品開発はチームで進めていくが、「ちゃんと考えている人を中心にすることが大事で、いろいろな人の意見を混ぜた折衷案は作らない」ということ。これは納得がいく方針だと思った。商品には「思い」を込めなくてはいけないからだ。

今はヒットメーカーとしてノリにノッている佐藤さんだが、若い頃は、売れる商品が作れずにノイローゼになった頃もあるという。そんな佐藤さんに「本場ドイツでビールづくりを見て来い」と言ってくれた上司がいたそうだ。ビール作りの本場、ミュンヘンの職人に「どうすればおいしいビールが造れるのですか?」と質問した佐藤さん。その職人は次のように答えた。

ビールは作るんじゃない、醸し出すんだ

いい環境と、いいきっかけを与えれば、おのずといい味が醸し出される、という意味だ。この言葉が佐藤さんを劇的に変えることになる。「自分で生み出すのではなく、引き出していけばいい。それだったら自分にもできるかもしれない」と気づいた。

ここで、ある企業の方から聞いた話を思い出した。「新規事業の立ち上げで成功した人が別の会社に移ると、次の会社ではうまくいかないことが多い。そういう人は、自分の力にのみ頼っているからね。成功する人は、部下からアイデアを引き出すことができる人です。」という話だ。他人の力を引き出す力。これがマネジメントの本質なのだろう。

この番組では、最後に「あなたにとってプロフェッショナルとは何ですか?」という質問がある。これに対し、佐藤さんは

「テクニカルな面だけあってもプロとはいえません。愛情ですね。人の気持ちに入っていける人が本当のプロフェッショナルだと思います。」

と答えていた。ちなみに、良い商品を開発できる人は「あいつ、いいヤツだなあ」と思える人だそうだ。

「他人のことを思いやる気持ち」がプロフェッショナリズムの根底にあることを、改めて感じさせられたケースだった。
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