麻里布栄の生活と意見

小説『風景をまきとる人』の作者・麻里布栄の生活と意見、加えて短編小説。

生活と意見 (第264回)

2011-02-27 13:24:10 | Weblog
2月27日


立ち寄ってくださって、ありがとうございます。

先週書いた、友だちと話したあと思い出したこと。

E出版のモデルになった会社に入ったのは、始業時間が11時だったから。
雑誌の編集をやりたいと思ったわけではありません。
私は自分で作り始めるまで、雑誌というものをほとんど買ったことがありません。マンガ誌はもちろん買いましたが、活字の雑誌というものを買ったことがない。グラビアがあるような雑誌も、週刊プレイボーイを、たぶん1~2冊買ったことがあるだけです(25歳までに)。ましてや若者向けのファッション誌(いちおう私も若者でしたが)など手にとったこともありません。文芸誌も1~2冊、「群像」を買ったことがあるだけです。

友だちは、もともとグラビア誌へのあこがれがあったのだそうです。
彼は東京の出身だから、その違いもあると思います。職場には彼のようなタイプのほうが、多かったことは間違いありません。

私には、「夜本を読める」ということがなにより大事な職業選択の条件でした。そこだけを注視し、日刊アルバイトニュースをめくりました(あとは「服装自由」。たったこれだけで選択肢は限りなく狭くなりました)。11時なら3時に寝てもなんとかなるでしょう。

そこをやめたあと、ある作家の方と、広島出身で同級のM氏の2人が、私をライターとしてやとってくれました。そのときは、「編集はもういい、なんでもいいから書いて食べよう」と思ったのです。

そこをやめたのは、たぶん2つの理由です。ひとつは、原稿が書けなくなったから。当時書いていたのは不動産情報誌の読み物コーナーで、内容は著名人、一般人へのインタビュー、またお店や不動産物件の取材記事。この「不動産物件」の記事が、書けなくなりました。ある物件に行くと、そこはとても狭く、自分では絶対に住みたくないような部屋でした。しかし、その部屋を「広くて快適」だと書かなくてはいけなくなったのです。手が動かなくなりました(ちなみに、いまなら鼻歌を歌いながら書くでしょう)。これはダメだと思いました。

もうひとつの理由は、男性誌をもう一度やってみたいと思ったこと。そのころは、今では考えられないくらい、工夫を凝らした男性誌がたくさん出ていました。「ただスケベなだけだろ」といわれても仕方ありませんが、なにか、同じ嘘をつくにしても、少し不細工な女の子を、7~8ページのグラビアの中ではきれいに感じさせるという嘘なら、ついてもいい嘘のような気がしました。その人たちのプロフィールもなにも創作だと考えればいいのだし、それは誰にも迷惑をかけないだろうと思ったのです。

実際は、M氏へのしっとのようなものもあったと思います。
私は記事をどうしても彼のように書くことはできなかった。彼はおしゃれだし、記事にもその色気が出る。私にはそういうふうには書けない。でも、男くさいものや、笑わせるのが目的の記事なら自分のほうが書けるだろうし、そういう舞台なら男性誌のほうが多いだろうと思いました。もちろん、どんな事情もすべて微妙な出来事の絡み合いの上にあることだから、本当の理由を特定することはむずかしいでしょうが。

結局、その何年かあとから、「総合男性誌」なるものを長くやり始めるのですが、たまたまグラビアも取材も両方やってきたという編集は他にいなかったので(実はデザインもイラストも少しやっていましたが)、重宝されました。自分でも、身についたことをそれこそ総合的に使えたのでしばらくは飽きませんでした。たぶん、そこまでの仕事はその総合誌をやるための訓練だったのだと思います。その雑誌がなくなるとともに、雑誌の仕事自体に(一時的に)興味がなくなりました。つまり、元に戻ったわけですね。

その間、個人的にくだらいないこともさんざんやったと思います。その中には、多くの方と同じで、地味だが本人にすればドラマ仕立てのような事柄などもあったと思います。
でも、どんな時期にあっても、私の一番の目的と興味は作品を書くことでした。1(作品を書くこと)対99(その他)くらいの時間配分だったとしても、つねにそうだったと言いきれます。私は作品を書くことを一番に考え、そのために生活費をかせぎ、そのために生きてきました。成果はとぼしく情けないことですが、それはきっとこれからも変わらないと思います。できなくても、これほど気になる、考えているだけでおもしろいことは他にありません。宙ぶらりんになっているたくさんの物語を完結できればいいのですが。

というようなことを、思い出したり、また考えたりしました。とりとめなさすぎですが。



では、また来週。

コメント
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